第19話

 ちなみに、新しく神官達が派遣されてきて、あたし達は念の為にと鑑定をしてもらったのだが……ロアナは聖女で間違いないし、あたしは勇者だ。ジャンやレオンも同じく、賢者と聖騎士で……ユーリィも魔王だった。

 あくまで、適正職業は適正職業であって、そこに基づく何かがあるのではないか。

 そんな予測と共に、教会はこれから追及していくそうだ。……そりゃ魔王が存在していても、王都で民の暮らしは変わらないし、作物の育ちが悪くなるわけでもなく、自然災害に侵される事もないのだから。あたし達が生きていく上で、全く問題ない存在と言える。




「そういえば、絶対防御って、あの形でしか無理なわけ?武器にならない形には出来ないの?」

「……どうだろう?試してみた事はない」


 唐突に放ったジャンの言葉に、ユーリィがあの時を思い出したように、少し青ざめて答える。


「え!?じゃあ防具みたいなの作れない!?防御の軽いやつでも良いから、付加させたようなやつ!」

「やった事は……」

「王太子殿下!それは面白そうですね!!」


 ユーリィをよそに、王太子殿下とジャンがはしゃぎだした。




 ◇




「……帰りたい…………」


 ユーリィの呟きなど、全く聞き入れられず、ユーリィによる防具制作は決定した。

 頼まれると完全に断り切れないのがユーリィの優しさでもあり……ん?頼まれると断りきれない……?


「ユーリィとあたしの新居を建てよう!そうしよう!」

「まて!どうしてそうなった!?」

「いやもう突っ込むだけ無駄です王太子殿下……ここは、ユーリィが作業できる場所を作ると考えた方が……」

「……身の回りのお世話、僕ですかね……?」


 レジェが肩を落として溜息をつく。そりゃまぁ、あたしが作る料理って言えば、焼くだけだ。辺境の村に調味料だとか香辛料なんてなかったし、綺麗な盛り付けなんて知らないからね!?着替えの服だってろくにあったわけでもなし!


「勇者と魔王の組み合わせ……良いんじゃないか?面白くて」


 笑いから脱出出来たレオンがそう言えば、それもそうかと王太子殿下やジャンが頷く。


「ある意味、まだ不安のある人達は安心するだろうし……なんてったって魔人を撲殺できた勇者だしな」

「王太子殿下、魔人を撲殺できるコンビですよ」

「コンビ!?夫婦!?」

「「「言ってない」」」

「一対にするって事は、もう夫婦でしょう!そういえば誓いは!?誓いはどうなったの!?」


 あたしは舞い上がるも、魔人の出現により、未だユーリィと夫婦の誓いが出来ていない事に気が付いた。


「いや、だからユーリィの許可を……」

「ユーリィ!結婚!ね、結婚しよ!」


 ジャンの言葉に、とりあえずユーリィから言質を取ろうとしたのだが……ユーリィは白目を剥いていた。レジェがさりげなくユーリィの身体を支えているという事は……うん、気絶している。

 何もそんな怯えるような事はなかったと思うんだけどなぁ。


「大丈夫!だってユーリィは優しいから断らない!押せばいける!あたし達は夫婦だ!」

「「平和だなぁ」」


 あたしの断言に、王太子殿下とジャンは虚ろな目をして空を見上げ、レオンはまたも声をあげて笑い出した。

 うん?平和だよね?美味しいご飯食べられるし。

 レジェはユーリィに対し、どこか同情したかのような視線を向けているけれど……。



 ◇



 民達は語り継ぐ。

 恐れられていた魔王だが、作る防具は軽い攻撃を全て跳ね返す程の優秀さで、魔物を討伐する騎士の役に立った。

 そして勇者と常に一緒に居て、最初は意識を失って勇者に担がれていた魔王も、途中から諦めたような顔をして付き従っていたと。その後、二人は夫婦になったと……。


 ――魔王を奴隷のように扱う勇者の方が恐ろしい存在ではないかと――

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【完結】女が勇者で何が悪い!?~魔王を物理的に拘束します~ かずき りり @kuruhari

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