第14話

「伝説じゃなく、実在していた……?」

「世界にとって一大事じゃないか!何故そんな存在がこの世に現れたんだ!?」


 呆然とするジャンに、今ここで原因追及をしたところでどうしようもないだろうと言いたくなる王太子殿下の言葉。何故、よりもあたしにとって一大事な事がある。


「世界がなくなったらユーリィと一緒に居られない!夫婦の誓いは!?」

「あっははははははは!!!!」

「「…………」」


 あたしの言葉に大爆笑するレオンと、今の状況で何やってんだコイツ等と言わんばかりの表情をするジャンと王太子殿下。

 だって、ぶっちゃけ国とか世界なんて、どうでもいい。大事なのはあたしの事だ。生きる!そして幸せを掴む!ぐだぐだ考えても仕方ない、人生なんて実にシンプルなものだと思う。


「……え」

「は?」


 一拍置いて、今気が付いたと言わんばかりのユーリィは顔を引きつらせ、レジェは眉間に皺を寄せて怪訝な目をあたしに向けた。

 ……そんな理解不能な事を言ったつもりはないんだけれど。


「ユーリィと結婚出来ないのは大問題だし、ユーリィが死ぬなんて許せない!」

「…………」

「魔王様!?魔王様ー!!」


 あたしが真剣にユーリィへ伝えれば、ユーリィは白目を剥いてまたも意識を失い、レジェは慌ててユーリィの意識を取り戻そうと声をかけた。……解せぬ。


「とりあえず魔人をどうにかすれば良いと」

「そうだな。行くか。おーいユーリィ、起きろー!魔人の気配教えろー!」


 至極簡単な結論を出せば、レオンもそれに便乗し、ユーリィを起こそうと左右に振る。


「……いや、伝説レベルの存在だよ!?神に等しい魔人だよ!?」

「このまま黙って滅んでくのもなー」

「ユーリィを危険にあわせる存在は滅するのみ」


 ジャンは現実的な事を言うけれど、逃げたとして何処に行けと言うのだろう。本当に世界を滅ぼすような存在ならば、どこに居たって同じだ。レオンは黙っている気はないし、あたしだってそうだ。


「はっ!?」


 言いながらもユーリィを起こそうとしていたレオンの奮闘が実り、ユーリィが気が付いた。


「あ、起きた。魔人の気配ってどこ?ジャン、気絶しないように何か魔法ない?」

「あ……あ~……うん」

「え!?」


 起きたと同時に、何やら気絶する事が出来ないような魔法をかけられたユーリィの顔が真っ青になっていく。もはやレジェは諦めたかのように視線をユーリィから背けて何も言わず佇んでいた。

 あたしも、ユーリィとの未来を考えれば、今ユーリィに出来る事はしてもらいたい!あたしの!幸せの為だ。


「……ユーリィの幸せも考えてあげてよ……」


 思わず声に出ていたようで、ジャンにそう言われるけれど、とりあえずそれはそれ。まずは魔人をどうにかしないといけない!


「あ……あっち……」

「よし!行くよー!」


 恐る恐ると言った様子でユーリィが指さす方向へ、あたしはユーリィを抱き上げて走り出す。担ぐより、こっちの方がユーリィの指さす方向が分かりやすい。


「お前も来いって」

「あ!じゃあ事実確認のために王太子殿下も!」

「え!?」


 レオンがジャンを引っ張れば、ジャンは王太子殿下の腕を取った。まさか自分も行く事になると思っていなかっただろう王太子殿下は、驚き目を見開いた。


「普通は守るものでしょうが……その存在という権力が必要になるかもしれない異常事態ですし、念の為」

「血も涙もない事を言うな!?まぁ王族として見過ごせないけどもだなぁ!」


 ジャンはそう言うけれど、あたしが守るのは優先してユーリィだぞ?まぁ、レオンも頷いているから、レオンとジャンで守ってくれるだろうし良いか。

 何かあれば王族権力……うん、それ良い。あるに越したことはない。


「第二王子や従兄弟たちが居るのでスペア的には問題ないのでは?」

「不敬すぎるけれど、魔王の側近にはあてはめられない気がするー!!」


 レジェの言葉に王太子殿下も答えながら、皆でユーリィの指さした方向へ走って行く。

 直線状を指さしているだけなので、壁を越えて、家の屋根をつたう等して障害物を乗り越え……その度に苦言を呈するジャンや王太子殿下を無視して、辿りついた先は……。


「……教会?」

「何故、ここに魔人の気配が?」

「おかしいんじゃないか」


 レオンが珍しく真剣な表情で教会を睨みつけながら呟けば、ジャンと王太子殿下も疑問を口にする。

 全知全能の神を称えている教会。魔人なんて対極の存在だ。むしろ勧善懲悪な考えをしているからこそ、魔人との関わりを自ら持つなど考えられない。魔王に対してだって、存在そのものを忌み嫌う程だったのだ。


「行こう」


 誰もが祈り捧げる事が出来るように開かれている入り口から礼拝堂へ入る。

 ユーリィが今にも白目を剥いて意識をなくしそうだが、ジャンのかけた魔法が効いているのか、気絶する事が出来ず、ガタガタと身体を震わせている。歩けなさそうだな、と思いながら抱き上げたまま、あたしはユーリィの温かさや重さをじっくり堪能しながら周囲を眺めると、小さな声が腕の中から聞こえた。


「……あっち……地下」


 ユーリィの指さす方へ足を向ければ、皆も聞こえていたのか、そちらの方を向く。


「こちらは関係者以外の立ち入りを禁止しております」

「失礼ですが、お約束等はありますか?」


 礼拝堂から奥へ向かう扉に行けば、守衛に止められる。

 ここで、あ~わかりましたー!なんて言うわけがない。武力行使かなと思い、レジェに目くばせをしてユーリィを下ろせば、レジェは意図を察したのか直ぐにユーリィを支えてくれた。うん、立てるようだから問題ないかな!


「ちょっと待て」


 ならば、と守衛の方へ向けば、ジャンに腕を掴まれて止められた。


「……殴るのはまだ早い」

「…………」


 耳元でボソリと言われた言葉に、思わず眉を顰める。

 とっとと倒して、さっさと進む事の何が悪いんだと思うけれど、ジャンが礼拝堂に居る人達へ視線を向け、意図を示した。……人を巻き込むな?大事にするな?まぁそういう感じかなと思うけれど、じゃあこの場をどうするんだと不満気に睨め付けた時、ふいに王太子殿下が前へ出た。


「ハロルド・アルスベインだ。緊急事態の為、通させてもらう」

「王太子殿下!?いやしかし……教会は国に属さず……いくら王族の命令と言えど……」

「緊急事態だと言っている。この国の命運がかかっているんだ。……何かあった時に、責任が取れるのか?」


 一緒にお茶をしている時は、呑気だとすら思えた王太子殿下だったけれど、今はさすが王族と言わんばかりの威厳と威圧を醸し出して、護衛は怯んだ。

 責任、その言葉に護衛は後ずさり、言葉を詰まらせる。その間に、王太子殿下は有無を言わさず中へ入り、あたし達も後へ続いた。

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