第10話
「あ、目が覚めた!」
「え…………」
村につき、村長さんの家に泊めてもらう事になった。そこへユーリィを運び込んだ後は、ただひたすらユーリィのご尊顔を舐めるように眺めていた。目が覚め、こちらを向いたユーリィと目が合った。うん、目が開いたら開いたで、これまた良い!
「ヒィッ!勇者!」
だけれど、ユーリィはあたしの顔を見て小さく悲鳴をあげれば、青白い顔をして後ずさった。なんで?まさか男だと思われてる!?勇者だし!あたしただの変な人みたいな!?
「勇者と言っても、女ですよ。女性です」
「ただし怪力破壊魔だけどね」
潔く性別を訂正するつもりで言えば、ロアナが横から余計な口を挟み、水をユーリィに向けて差し出した。
あぁあ!ずるい!これが女子力!?
しかも、ユーリィはおずおずと水を受け取りながらも、余程喉が渇いていたのか、ゴクゴク飲んでいるし!あたしが渡したかった!
「ここは先ほど助けた者達が住んでる村で、村長の家を間借りしてます」
「え!?」
ロアナが説明すると、水を一気に飲み終わったユーリィが驚きの声をあげた。飲み終わったコップを受け取って、もう一杯どうですかと聞いてるロアナに嫉妬する。
あぁああこれが気遣いというものなのか!あたしがやりたいのに!全く気が付かなかった!
「いや、もう大丈夫です。俺は今すぐにでも此処から出ていくので……」
「え!なんで!?」
頭を下げ、布団から出ようとしたユーリィの腕を掴んで、思わず叫んだ。
「ユーリィ一緒に行こうよ!てか倒れてたし、まだしばらく休んだ方が良いって!」
「え!?いやちょっと……」
「……マリー……」
戸惑うユーリィを、そのまま無理やり寝かしつけると、ロアナは額に手をあてて溜息をついた。
しっかり布団に戻ってもらわないと!ユーリィに何かあったら大変だ!
「ね?」
「…………はい」
このまま無理に起きるならと、ロープを手ににっこり微笑んで見せると、ユーリィは引きつりながらも返事をしてくれた。よし!それで良い!
ロアナが深いため息をつきながらユーリィに対して、言うだけ無駄ですよと言っていたけれど、何が無駄なんだろう。
皆が寝静まった深夜。暗闇の中、こっそりとしながら動く気配。
目を覚ましたあたしは、同じく目を覚ましただろうレオンと目を見合わせ、頷き合った。
動いたのは、ユーリィだ。……縛り付けておけば良かった。
「冗談じゃない……逃げる……逃げるぞ」
ユーリィの声が聞こえる。
何かから逃げているのだろうか。追われているのなら、いくらでも助けるのに。
そのまま出ていったユーリィを、あたしはレオンと共に追いかける。
どこか散歩でも行くのかもしれない。そんな可能性があったから後ろから付いて行くだけだったのだけれど、明らかにユーリィは村から出ようとしている。
「危ないよー!」
「ひぃいっ!?」
後ろからユーリィの手を掴んで、そのまま肩に担ぎ上げる。何かユーリィが悲鳴をあげたのは、あたしに驚いたからだろう。
「ゆ……ゆゆゆゆ……勇者!?」
「マリーって呼んで」
ユーリィから勇者という呼ばれ方をする位なら名前を呼んで欲しい。というか名前で呼ばれたい。
強制のようにそう言えば、ユーリィの身体が震え出した。……恐れ多いとか思ってるのかな?
「勇者と言っても、所詮村娘だから気安くして欲しい。というか夜に村から出たら危ないよ。魔物も居るんだしさ」
「……」
ユーリィは何も答えない。まぁ魔物が危ないというのは知ってるか。それともユーリィ自身の力が強くて余計なお節介だったかな?でも危ないのは危ないしなー。
「お、マリー!担ぎ帰ってきたか」
ユーリィを担いだまま村長の家へ戻ったら、扉の前でレオンが待っていてくれた。
レオンも居るしと思って、あたしはユーリィをレオンの前で下ろすが、ユーリィはその場に膝から崩れ落ちて顔を俯かせ震えていた。
「逃げるとかって怯えていたようだけど、俺等が居るし大抵の事は大丈夫だぞー?」
レオンはユーリィの視線に合わせるかのよう、その場にしゃがんで顔を覗き込むようにして言った。
そうだ!その通りだ!ユーリィを害するものはあたしが滅する!
「ユーリィ安心して!あたしが守るから!愛の力で!」
「…………え゛?」
ユーリィはあたしの言葉に顔を上げて、呆然とした目で見つめてきた。あ、つい告白のようになったけれど……まぁ事実だし。
レオンはレオンで、その場で笑い転げた。全く失礼な。
「大好きなユーリィのことはあたしが守る!」
再度宣言すれば、もう息も出来ないという位に笑うレオンと、顔を真っ青にしたまま呆然とするユーリィ。
そして騒ぎに気が付いたジャンとロアナも家から出てきて聞いていたのか、二人は額に手をあてて溜息を吐いていた。
……皆して本当ひどくない!?
◇
村でしっかり休んだ後、魔王の領地へと向かう。
「えっへへへへー」
「マリー。気持ちが悪いわよ」
「気色も悪いな」
「失礼な!」
しっかりとユーリィの腕を掴みながら上機嫌で歩いていれば、ロアナとジャンから、そんな声がかかる。
「てか引きずってないか?」
「顔色も悪くない?」
「ヒィイイ!!」
注意の如く言われ、あたしは少し歩くスピードを緩めた。というか顔色が悪いと言っても……ジャンとロアナに話しかけられたユーリィは、またも更に青白い顔をして悲鳴をあげた。
レオンは……相変わらず、ずっと笑っている。
「なら担いで……」
「やめなさい、マリー!」
顔色が悪いユーリィの為、肩に担ごうとしたあたしをロアナが止めた。はしたないとか、ちょっと考えなさいとか……挙句にジャンまでお気の毒にとか言ってる……。
……担ぐのは駄目なのかな?体調悪い人を担いで家まで運ぶなんて当たり前じゃない?……旅のと途中だから、家はないけど。
ユーリィはプルプル身体を震わせて丸まっているから、担がれるのは嫌なのかもしれないと思いとどまった時、遥か向こうに何かウジャウジャと動く物が見えた。
「というか、あれ魔物じゃね?」
レオンの声で、一気に緊張が走る。……ロアナとジャンだけ。
ユーリィは身体を更に縮めさせ、丸まって震えた。うん、小動物みたいで可愛いな!
「あんな大群が……」
「さすが魔王の領土とでも言うべき?」
群れはこちらに向かって突進してきているようで、ジャンは広範囲魔法の準備をしつつ、ロアナも後方へ少し下がって支援体制へと入った。
そして、前衛のあたしとレオンは、ジャンの魔法展開に合わせて突っ込めるように、魔物へ向かって駆けだした。
「ヒィイイ!?」
「マリー!」
「ちょ!!」
すぐ隣から、愛しきユーリィの叫び声。後方で何やらロアナとジャンが叫んでいたのだけれど、その声は小さくなって聞き取れない。
ふと隣を見てみれば、あたしはしっかりとユーリィの腕を掴んだまま走り出していたようで、ズルズル引きずられるユーリィの姿が、そこにはあった。
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