第11話
「守ってやれよー」
「もちろん!」
レオンは笑いを何とか耐えて、応援してくれる!あたしはユーリィを左肩に担いで、足を緩める事なく魔物に突進していった。流石にジャンとのタイミングがズレては、この大群を狩るのも面倒になる。
「あぁもう!くそ!!」
意図を察したのか、ジャンはしっかり広範囲の魔法を展開し、魔物の大群を半分くらい蹴散らした。そのまま、あたし達は問答無用で魔物の群れへと飛び込む。レオンは剣を振るい、あたしは……近くにいた魔物を持って、振り回す。
「うわぁあああああ!!!???血が!?肉片が!?顔がぁあああ!!!」
肩に担がれ、あたしの背中に顔を埋めていれば良いのに、顔を上げたのだろう。ユーリィは悲鳴と共に実況中継のような叫びをあげた。
まぁ、魔物で魔物を殴ってるから……粉々になった部分が飛び散るのは仕方ないと思う。むしろ使い慣れていない剣を使う方が面倒……否、ユーリィに当たる危険性しかない。むしろ当てる自信しかない。
しかし、片手で戦うというのも不便だな、と思って居れば、ユーリィを左肩に担いでいるおかげで左側が死角になっていて気が付かなかった……そこに魔物が近づいている事に。
「あ」
武器という名の魔物は右手。近づいている魔物は左側。左側にはユーリィを担いでいる。
これ動きにくい!と、ハッキリ自覚した瞬間、ユーリィが身体を強張らせ、あたしの服にしがみ付いで叫んだ。
「防御ー!!」
……防御?ならば多少は振り回しても大丈夫?
なんて思ったけれど、ユーリィにもしもの事があってはいけない。あたしは持っていた魔物を捨てて右へと思いっきり飛んで避け、またも近くにあった魔物を手にする。
背中の服を握って震えるユーリィ、めちゃくちゃ可愛い。絶対あたしが守らないと!なんて事を思いながら、あたしとレオンは魔物を倒していき、討ち漏れた魔物はジャンが魔法で倒していく。
「ラストー!!」
最後の一匹を殴り粉々にして、あたしが叫ぶと、ジャンとロアナが駆け寄ってきた。
「何やってんだよ!」
「大丈夫ですか!?」
ジャンに怒鳴られ、ロアナはあたしの肩からユーリィを下ろして声をかける。
「えー、ちゃんと守ったよ?」
「「そういう問題じゃない!!」」
不満そうにあたしが言えば、二人に怒鳴られた。レオンはお腹を押さえて笑うばかりで、一切庇ってくれない。解せぬ。
「怪我は……ないようね」
「ちゃんと守ったからね!」
ロアナがユーリィを確認して言うも、あたしは怪我をさせた覚えなんてない。
胸を張っていれば、何故かロアナとジャンは頭を抱えて溜息を吐き、レオンは更に笑い転げた。……何で?怪我させてないなら、それで良いじゃないか。
頭を傾げて皆を見ていれば、ユーリィがのろのろと起き上がる。
「起き上がれる?」
ジャンがユーリィに声をかけたが、ユーリィはその声に対して返事をする事なく、よろよろと立ち上がると、魔物達の死骸を眺めて呆然とした。
「……かわいそうに……」
「「え?」」
よろよろと魔物達の死骸へと向かうユーリィの目には涙が溢れ、零れ落ち、そしてユーリィも膝から崩れ落ちたかと思えば、魔物達を弔うように祈った。
それをジャンとロアナは理解出来ないと言った目で見ていたが……あたしのユーリィ、めっちゃ優しい!魔物達に対して涙を流すとか、物凄く優しい人じゃない!?
「え、あたしの旦那様、優しすぎない!?」
「結婚してないでしょう」
「一方的に突っ走りすぎ」
ユーリィは必死に祈っていて、あたしの声が聞こえていないのだろうか。ロアナとジャンから突っ込みが入った。
いや、もう旦那様で良くない?あたしユーリィの事を離すつもりもないし、むしろ付き纏うつもりしかないし。
そんな事を言えば、ロアナとジャンは膝から崩れ落ち、レオンは地面を叩きながら大笑いした。……え?何で?
「え、もう確定事項だよね?」
「どこをどうしたらそうなるんだよ!?」
首を傾げて訊ねれば、ジャンが今にも飛び掛かろうとする勢いで否定する。解せぬ。
常に一緒にいる異性は恋人か夫婦で、一生一緒に居るのは夫婦だと聞いているのに。解せぬ。
そんな事を言えば、ロアナは口元を引きつらせて言った。
「……夫婦なら、教会で誓いを立てるくらいはするでしょう……」
「なら帰ったら即教会へ行こう!ロアナしてくれるよね!」
「ユーリィの意思を尊重しろ!?」
「私はそんな強制的な誓いの担当しないわよ!?」
ジャンとロアナは、思いっきり顔を歪め叫んだ。レオンはもう笑い過ぎて息も出来ない程になって転がり込んでいる。
じゃあユーリィに許可を貰えば良いのか……と思って、ユーリィに目をやれば、遥か遠くからとんでもない俊足でこちらに向かってくる人影のようなものが見えた。
「~!~~~!!」
「ん?」
「人?」
叫びながらこっちへ向かってくる人に対し、ジャンとロアナは少し警戒態勢に入り、レオンも笑いを止めて立ち上がる……が、思い出したかのように吹き出している。……レオン、笑っていないと死ぬ病気なのかな?後でロアナに見てもらえば良いのに。
「そんな病気ないわよ」
声に出していたらしく、ロアナがジト目であたしの方を見て言い、レオンはまた笑いだして膝をついている。
…………じゃあレオンは体質なのかな?大変だなぁ。
「~~様っ!~~!!」
「ん?」
誰かを必死に呼んでいる声にユーリィの知り合いかと思い、皆でユーリィの方へ視線を向けた。ユーリィも何かに気が付いたように、祈りを止めて顔をあげれば、その人影が誰なのか理解したのだろう、目を見開いて口をパクパクさせながら尻もちをついた。
「ユーリィ……知り合い?」
「あ……あ……」
何か害のある者なのだろうかと思い聞けば、人影に対して指を刺して何か言おうとするも言葉にはならない。その間に、ユーリィの近くにまで駆け寄ってきていた人は、そのままユーリィに抱き着いた。
「魔王様ー!大丈夫ですかー!?」
「はっ!?」
「魔王!?」
「あ、男だからセーフ」
「マリー!おまえ…………あはははははは!!」
ロアナやジャンが驚いて目を見開き、距離を取っているが、あたしはユーリィに抱き着いて怪我がないか身体を調べている相手が男だという事に安堵した。レオンは勿論、その場に蹲って地面を叩いて大笑いしている。
いや、ここ大事よ?
もし女だったら浮気相手の可能性が高いじゃない!叩き潰さないと!
「一方的な思いで浮気相手とか思うなんて……」
「物理で叩き潰したら木っ端微塵じゃないか……」
また言葉に出ていたのか、警戒していたロアナとジャンは肩を落として溜息をついた。
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