第8話
飛んで行くレオンに対し、魔物の触角が待ち受ける。足場のないレオンは反撃する事なく攻撃を受け、飛ばされないように触角へ抱き着いたが、そのまま魔物は触角を上下に振り出した。
「お嬢ちゃん……?」
「まだ言うか!」
あたしの殺気にビクリと身体を揺らしたおばあさんは、完全に座り込んで呆然とした顔であたしを見ている。周囲もシーンと静まり、事の成り行きを見守っているかのように視線をこちらへ向けている。
「あたしは!大人だー!!」
イライラが絶頂に達したあたしの視界に、岩場がうつった。
誰も動かずこちらを見ている隙に、あたしはそちらに走って向かい、怒りを発散させるかのように岩を魔物へ放り投げだした。
「あー!!それ岩の防壁!!」
「堤防が!!」
「魚が!魚が逃げるー!」
「珊瑚が!珊瑚がぁああ!!」
いきなり騒めきというか悲鳴が増えたが、そんなのは関係ない!
あたしはこの怒りを全て魔物に対して発散するかのよう、次々に岩を投げつけた……が、何本もある触角に阻まれる。あー!あの足もどき邪魔!めんどくさい!
その隙にレオンは触角に剣を突き立て、切り落とし、切った触角から魔物本体へ向けよじ登るよう駆けて行く。
「兄ちゃん頑張れー!」
「ちっこいの!凄い力だな!」
「は?」
「ああああああ!!」
ジャンの悲痛な叫びが聞こえたけど……ちっこい?え?あたしに向かって行った?ん?ちっこいだと?
――それ、小さいって事だよね?
くらえ目くらまし!
と内心思いながら砂を魔物に向かって放つも、大きい魔物に対し、あたしの手で握れる程度の砂は僅かだ。というか、砂くらいの重さを魔物の目だろう場所へ向かって飛ばすのも指南の技だ。
「ん?何したんだ?」
「子どもの考える事は分からん」
「黙って!ちょっと黙って下さい!!」
ジャンは魔物に攻撃を……というより、人々の口を閉じさせる事を優先とさせ右往左往している。
そして……あたしは、船に目をつけた。
砂が無理なら……。
「木片でどうだぁああ!!」
溜まりに溜まった怒りを力に変えるかの如く、船を持ち上げ、それを魔物に向かって放り投げた後、船に向かって次々に岩を投げつけた。
「あぁああ!!」
「俺の船ぇええ!!」
岩が当たり砕けていく船は見事に木片となっていくが、それでも目くらまし?と思える程、細かくはならなかった。魔物も魔物で近くにある残骸は触角で薙ぎ払い、海へ落として行ったから、目につく限りの船をかたっぱしから投げてみた。
「よし!」
レオンがあたしの意図を理解したのか、自分の思い付きなのか。魔物を足場に跳躍し、目の近くにあった船の残骸を切り刻み、破片が目へ入りそうになり防御しようとする触角を剣で切り裂いていく。
そうしているうちに、魔物の目に破片が入ったのだろう、触角を振り回し始めた。
「うわぁああ!」
「港がー!」
「船が!防波堤が!」
「白浜が!」
魔物が触角を振り回し暴れる事で、人々の泣き叫ぶ。
あたしが投げていた防波堤は触角の攻撃で全て砕け散り、水がこちらに向かってきて、砂浜は水に浸かった。大きな波がきた事により、残っていた船も全て転覆し、海の中へと消えて行く。
人々の所まで水が来ないようにジャンが風魔法を展開して水を食い止めていたので、建物等は無事だろう。それにしても……見事に悪化した感じ?あの触角がとてつもなく面倒臭い。
何とか出来ないかと周囲を見渡していれば、船に繋がれていた太くて長いロープが目に入る。
「これだ!」
獲物を狩る時にナイフだけではない。むしろ捕獲する時にはロープも使うのだ!
あたしはロープを繋げて長さを造り、先に岩を結びつける。
「み……みなさん!離れて下さいーー!!」
ジャンが先を読んだかのように叫び、人々を非難させる。
「巻き込まれても知らないからね~!」
「何やってんの!!」
ロアナの叫び声が聞こえたが、今更止まる事は出来ない。ロアナが人々へ防御の魔法を展開するタイミングで、あたしはロープを持って岩を振り回した。ぐるんぐるんと、それはもう思いっきり。
「どんな風圧よ!?この怪力!」
ロアナが何か叫んでいるけれど、知らない。
「レオン!いったん戻れ!」
「おう!」
ジャンは、確実に巻き込まれるだろうレオンへ声をかけ、レオンは魔物の頭部辺りに辿り着くと、そこを足場にしてこちらの方へ跳躍した。
確かに、あのうごめく触角を足場にするのは分が悪い。ずっとしがみ付いているというのも、海の中にでも潜られた時が大惨事だ。
呼吸は大事。酸素は生きていく為に必要なもの!
「いっけー!!」
「巻きつけ!!」
あたしの掛け声で放たれたロープに、ジャンは風魔法で補助をしてくれた。見事魔物の方へ向かったロープは、そのまま魔物をぐるぐる巻きに捕獲して触角の動きを封じる事ができた。その隙に、レオンは魔物へ向かって跳躍し、その勢いのまま魔物を切り裂き、見事討伐を成功させた。
――のだが。
「……ねぇ、自分達が何をやったか分かってる?」
「ホント、なんなのコイツ等……」
「「ごめんなさい」」
港を破壊したという事で、あたしとレオンの二人は、ロアナとジャンにお説教を受けている。
しばらくは売り物を取る事すら出来ないと呆然自失な人達に、あたしは大変な事をしでかしたのかと理解した。
食べる為にお金が必要。魚や珊瑚を売ってお金を稼ぐ。自分達が食べる為にも魚は必要。その為にも船は必要。
村では周囲を森に囲まれていたようなもので、全く想像つかなかったけれど、土地によって色んな暮らしがある事を知った。
反省しつつ、港を戻すために精一杯頑張って復興の協力をしたけれど……珊瑚がすぐに元通りになるわけでもなく、逃げた魚がすぐ帰ってくるわけでもなく。
一度焼かれた森が何年もかけて姿を取り戻すのと同じで、海にも年月が必要なのだという事まで知って、短気を少し治そうと思った…………少しだけ。
◇
「とまれ破壊勇者!」
「えぇえええ!?」
港の一件から、あたしのあだ名は破壊勇者になった。解せぬ。ちなみにレオンは脳筋騎士だ。
あたしが変な叫び声をあげている間に、現れた魔物に向かってジャンが魔法を繰り出し、レオンがとどめをさす。
動くな危険と言わんばかりに、あたしは何もさせてもらえなくなった。
「外見だけでなく、頭まで成長しないなんて……」
「なんか言った?破廉恥聖女」
「誰がよ!」
街へ行けば色んな知識が手に入る。
ぶりっ子とか言う二面性を聞いた上に、簡単に異性へ身体を触れるのはいかがわしいとか聞けば、ロアナに似合うのは破廉恥聖女しかない。
ジャンは……エルフ賢者かな。まんまでしかないけれど。
相変わらずなあたし達の言い合いに、ジャンはため息をつき、レオンは何も気にせず歩んでいく。
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