第6話
旅を続け、もうすぐ隣国へ続く関所に到着する……頃にもまた、魔物が現れた。
「先手!必勝ー!」
「マリー!やめろ……!」
ジャンの止める声も聞かず、あたしはそのまま魔物の元へと走ると、拳で魔物の身体を吹っ飛ばした。否、吹っ飛んだ。バラバラに。
「剣……は?」
「なんかマリー、剣折りそうだから、まだ素振り」
ロアナがため息を吐きながら問えば、レオンは倒せるんだから問題ないだろ、と言わんばかりの態度で返す。
うん、だって剣の長さとか、扱い方とか考えたら、殴った方が早いし。
「ジャン!よろしく!」
「……はい……」
駆け寄ったあたしに、ジャンは肩を落としつつ、水魔法で返り血を流し、風魔法で乾かしてくれる。
うん、これがあるから問答無用で倒せるんだけどね!返り血を浴びても問題なし!
「ようこそお越し下さいました!…………ひどくお疲れのようで……?」
隣国に着けば王城へと招かれたあたし達は、案の定国王陛下に謁見する事となったわけだけれど……。陛下は笑顔から反転、狼狽えだした。
「別に……?」
「元気だよな?」
返り血は毎回ジャンに洗ってもらっている。町へ寄れば、旅資金として貰ったお金でしっかりご飯は食べている。まぁ、道中でもしっかり魔物肉とか食べてるわけだけれど。
「問題児ども……」
「鋼精神、脳みそ筋肉……」
レオンと視線を合わせながら小首を傾げていると、後方からそんな呟きが聞こえ、視線を向けると、項垂れ青白い顔をしたジャンとロアナが居た。
「え!?どうしたの!?」
「しっかり食べてるかー?」
陛下が言っていたのは、この二人の事なのか!
驚いて声をかければ、二人共引きつった表情をして、自覚なしかと呟いていたけれど、一体何の事だろう。
普通に魔物倒して、普通に旅してただけだよね?
あたし達へ気の毒そうな表情を向けた陛下は、ゆっくり休んで旅の疲れを癒してくれと言い、広いお風呂と豪華な部屋、そして美味しいご馳走を用意してくれた。
身体を清めて、ゆっくり眠って起きたらしっかり食べて。向こうの王城でも思っていたけれど、更に凄いのはその後にゆっくりとしたお茶の時間があるという事だ。
平民には、そんな時間はない。水を飲みながら畑を耕したりと忙しいのだ。動かなければ食べるものがないのだから。
まぁ、今はあるけど。と思いながらロアナに誘われ、みんなと庭園でお茶を飲んでいる。お菓子おいしい!
「マリー、お菓子もっと食べ……」
「もぐもぐ……」
ロアナが自分のお皿に乗っているケーキを差し出してくれたけれど、今のあたしは両手にしっかりクッキーとマフィン。口の中にはパウンドケーキだ。
自分の分は自分で食べたら良いよ、せっかく美味しいんだから。と返したいところだが、頬にまでしっかり詰まった状態では声を出す事も出来ない。……ロアナも唖然としたまま固まっているから、とりあえず食べる事を優先して良いかな。良いよね。喋らないし。
というか、疲れは回復したのだろうか。ロアナは本当に別人かと思えるくらい、態度に差がある。……これを言ったら、あんたのせいでしょ!と何故か意味不明理論を展開し、ヒステリックに叫ばれるだけなのは、数日一緒に旅しただけで理解したから言わないけど。
「よ……よく食べるわね……レオンもどう?」
ロアナはレオンの腕に触れ、顔を近づけた。まぁ、あたしは食べる事の方を優先しているから、話しかけるなら別の人が良いという判断には同意する。
「まぁ身体が資本だしな」
「あ、口元にクリームがついてるわよ」
ロアナはレオンの口元をハンカチで拭うが、レオンは関係ないと言わんばかりに食べる手を休めない。その食事は相変わらず優雅に見える……が、そのスピードは速い。次から次へと口の中へ放り込んでいるのに、あたしのように頬張ってもいないとはどういう事だろう。まさか……飲み込んでる!?噛んでいない!?それはそれで勿体ない!
何故かロアナの口元が引きつっているように見えるけれど……。
「ロアナ。女性が自ら男性に触れるなんて、はしたないよ」
「……っ!……気を付けるわ」
ジャンの言葉にロアナは少し険しい顔をしたけれど、すぐ笑顔になって頷いていた。
というか、はしたないのか。知らなかった。
子ども達相手に同じ事をしていたし、怪我をしている人には問答無用でベタベタ触っていたけれど……。
「それはまた別……」
あたしは口に出していたのか、ジャンは項垂れ、レオンは笑い出す。ロアナに至っては更に口角が震えていたけれど……え?またロアナが別人へと変貌する?
「もぅ鬼聖女で良いかなぁ……」
「聞こえてるわよ!失礼ね!」
またしてもヒステリックに叫び出したロアナにより、素早く解散をした。
そして、必要なものを買い出したり用意してもらったりして、翌日にはまた魔王が居るとされる方向へ向かって出発した。
◇
魔王が居るとされるのは、どの国にも属していないような辺境の地と言われている。そもそも魔王については、あまり詳しく語られていないのか……とりあえず魔王が作っている国のようなものがあると言う。
「魔王は人間じゃないの?鑑定で魔王って出たような」
「魔王自体が生きているだけで世界に悪い影響が及ぶって教えよ」
歩きながら魔王について詳しく聞いてみるも、全てハレアド教の教えだと言われる。それを微塵も疑っていない。
信仰心もなければ、ハレアド教自体ほぼ知らないあたしとしては、自分の目で見てないし聞いてもいないの?と疑問にすら思える。まるで伝言のようで、それは大体途中で変わってくる。
川下で魔物発見と村まで伝言されてきたのに、実は川上で魔物発見だったりとか……。
大人でも混乱に陥ると、しっかり聞き取れない事もあるのだから、そこに子どもが混ざれば……下手すると大惨事だ。
本当、王都に住んでる人達って余裕がある暇人なんだなと、何度目か分からない事を思ってしまう。
「まぁ、確かに魔王が居るとされる土地は植物の育ちがよくなかったりするけれど……」
「ほらみなさい!」
ジャンの言葉にロアナが胸を張る。ロアナは二面性があるのではなく、多面性があるのだろうか。
「魔王が先か後にもよるけど……」
ロアナの圧に押されつつ、ジャンがそんな事を呟く。
魔王が先か、後か?その土地にって事だろうか。確かに魔王による影響だとジャンは明言していない。
魔王が先なれば魔王の影響。もし、魔王があえて植物の育ちが悪い場所で住んでいるとしたら……?
というか、そもそも辺境の村もそうだけれど、意外と土が固くて農作物を育てるのに向いていなかったりする。繊細な野菜は無理だ。ならば人が寄り付かないような場所に居るとされる魔王の住処なんて……土地に栄養がなくても当然じゃないのか?
「ハレアド教の教えが全てです」
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