第5話
「あんたも剣を振り回さない!」
「ちぇーっ」
レオンは不満気にするものの、大人しく剣を鞘に戻した。
それを見て、安心したかのように、その場へ座りこむジャン。しかし、ロアナは未だあたしを羽交い絞めにしたまま、厳しい目を向けている。
「来た道を振り返って、自分が何をやったのか、よく考えなさい!」
ぐるんっとあたしを方向転換させてロアナは言う。
来た道と言っても……。
「道がある」
「そう……おかしいわよね?ここ森だったわよね?入った時に道があったかしら?」
「道を作った!だろ!破壊して!」
ロアナだけでなく、ジャンまでもが声を張り上げる。
エルフは自然と共に生きるのに!なんて悲痛な叫びをあげながら……。うん、何か……それはごめん?
と言っても、歩くにしても道が邪魔だったから、ただ木を蹴り倒してきただけだ。たまに押し倒したり、引っこ抜いたり、それで薙ぎ払ったりもしたけれど……。
「……歩きやすくなかった?」
「歩きやすさを求めるなら、ちゃんと街道を歩けば良いでしょう!」
もう!何なのこの子達!と言って、ロアナも盛大な溜息を吐いた。
「木材を有効活用すれば良いのか?」
「「そうじゃない!!そんな話はしていない!!」」
レオンの言葉に、ロアナとジャンは声を揃えて叫んだ。
……どちらにしろ、気が付いた人は木を持っていくと思うよ?火を起こすにも必要だし、家を修理するのにも必要だ。これだけ倒れていたら非力な人や子どもでも運べるというもの。
「あんたは大人しくしていて」
「マリーは大人しくしていて下さい」
首を傾げていると、あたしにもロアナとジャンから威圧感たっぷりに声をかけられた。
……解せぬ。面倒を省いただけだというのに。
二人が厳重にあたしを見張る中、街道まで戻って普通に進んでいく。
「もぉ、ほんっとマリーはお転婆ね……勇者らしい気品を身に着けないと」
「……ロアナ?」
思わず怪訝な目で見てしまう。さっきまでのロアナとまるで別人と言いたくなる。髪を振り回し目を見開いて血眼になっていた事を思えば、呪いでもかけられたのかと疑う程だ。
「別人か?」
「レオン!」
あたしが言おうとした事を、レオンがサラッと言ってのけたけれど、それに対して焦ったようにジャンが叫び、レオンの口を塞ぐ。
何で?呪いなのだとしたら、とっとと何か対策した方が良いんじゃないの?と頭の中を疑問符が駆け巡っていれば、思わずゾッとした圧に少しだけ委縮する。
「……何か?」
まるで黒いオーラをまとったかのように、口元笑えど目が笑っていないロアナが、優しい声で問いかけて来た。
あ、これ、逆らっちゃいけないやつ。
「「「ナニモ」」」
本能でそう感じたあたし達は、片言になりながら返事をする。
ロアナには別人が居るんだろう……それか俗にいう猫かぶりとか言うやつだろうか。……言葉は聞いた事あっても、見た事はないけれど。
ここは大人しく街道を歩いて隣国まで行こうと、レオンやジャンと視線を交わし頷き合って歩いていた……のに……。
「キャアアア!!」
「何事!?」
「前方の馬車が魔物に襲われてる!!」
悲鳴が聞こえた方向に駆け、目をこらすと、馬車の周囲を魔物が囲っている。
「ここは前衛の俺だろ!」
血気盛んなのか、レオンは言うより先に駆けだして行った。迷わずあたしも後を追う。
「僕は後方支援だからなぁ」
「私達は救出に向かいましょう!」
ロアナ達は馬車の方へ駆けていき、レオンは魔物に向かって一直線に走る。魔物と対峙する前に、走りながら鞘から剣を抜き、見事近くに居た魔物を切り裂いた。
綺麗に切り裂かれた断面、素晴らしいその切れ味に思わず見とれてしまいそうになる。錆びた斧や鍬では、あぁはいかない。
「マリー!」
レオンの剣さばきを見ている間に、魔物が近くへ来ていたらしい。大口を開けて威嚇する魔物の顎と思われる辺りを殴りつけ……顔を持つ。
「「え」」
ロアナとジャンが、理解出来ないものを見るような目でこちらを見ている事にも気が付かず、あたしは魔物を持ち上げ……それを武器に、周囲の魔物を素早く薙ぎ払う。
「「は?」」
強靭な身体を持っているのだろう。
魔物同士の硬さだけでなく、あたしの振り回すスピードにより、ぶつかり弾け飛んでいく。血しぶきが舞う中、レオンの綺麗な切り口を思い出す。
……これ、もうスプラッタレベルだよな、と。
ぼっこぼこになり、持っている魔物も既に武器として成り立たなくなる程に身体が崩れ落ちた頃、周囲の魔物は全部退治しおわっていた。
魔物に襲われていた人達は馬車の近くで、皆が身を寄せ合い身体を震わせている。余程怖かったのだろう。
「大丈夫ですか~?」
安心させる為にも、近寄って声をかければ、皆が皆、更に身を竦めさせた。
……あれ?もう魔物は居ないのに。
「あんたが怖いのよ!」
「マリー……剣はどうしたの……」
ロアナはあたしに、これ以上近寄るなと言うように手で制止をかける。ひどい。
ジャンは眉間に皺を寄せつつ、あたしの腰にかけられた剣を指さして問うが……。
「え……だって、使ったことないし」
「「はぁあああ!?」」
「お、教えるか?」
あたしの言葉に、ロアナとジャンは信じられないものを見る目で声をあげ、レオンは楽しそうな声をあげる。
「そんな驚かれても……剣なんてもの、辺境の村にはないよ」
「じゃあまず素振りからだな!」
「お願いします!」
レオンに剣を教えてもらったら、綺麗に魔物を切り裂ける!レオンも楽しそうだし、ここはお願いしよう。
流石に魔物が一匹だけで現れたら、拳で木端微塵にするしかないのだ。近くに川や池がなければ厳しい。血でドロドロになるし、流石にその状態でずっと居るのは気持ち悪い。
そんな事を言って居れば、レオンは声をあげて笑っていたが、怯えていた人達はポカンとした顔をし、ロアナとジャンは手で顔を覆ってうなだれていた。……解せぬ。
「こんな……こんなパーティだなんて……」
とロアナから呟く声が聞こえたが、更に解せぬ。何が駄目なんだ。
あれだけの魔物を怪我なく倒せたなら問題はないだろうに……。
とりあえず、返り血を浴びているあたしとレオンは、ロアナとジャンに清浄と浄化をしてもらい、襲われていた人達と共を近くの町へ送り届けた。
勇者様御一行とか言われ、ここでも美味しいご飯と雨風凌げる寝床を提供してもらった。ありがたい。
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