1999年4月吉野から洞川温泉へ
13日14日去年から企んでいた、吉野から四寸岩山経由洞川温泉という、一泊二日山小屋泊まりの花見遊山に出かけた。いわゆる大峰奥駆道の北端だ。
13日午前はどうしても外せない仕事があったので、吉野に着いたのが昼を過ぎた14時頃だ。平日だからか、時間的に中途半端な為か、特急はがら空きでオヤオヤと驚く。
いつものごとく、寺社や旅館があるルートを敬して遠ざけ、山側のルートで登り始める。こちらの方は人混みも少ないし、拡声器のうるさい音もバスも無い。桜は下千本・中千本は散り果て、上千本が満開から散り始め、奥千本で三分咲きといったところか。
とろとろと桜や空を眺めながら歩いて行き、中と上千本がいっとう良く見下ろせる、特等席で一服入れる。
桜に熱い眼差しを向けるのは、アマチュアカメラマンの団体か。彼等のいる所は、大抵が一般人にとっても良い眺望であること間違いなし。
上千本の道の合流地点に着く頃には、空は曇り、時折り雨がぱらつくようになってきた。16時過ぎという時刻も相まって奥へと登っていく人は少なく、下る人ばかりだ。水分神社に着いたのが17時前か。中庭のしだれ桜が七分咲きで、ちょうど今が見頃だ。とろとろとまた歩き出し、高木山の見晴らし台に着く。なかなか景色も良く、桜も五分咲き。小鳥が頻りにさえずり、私の1m先でチョンチョン飛び跳ねている。思わず、ここで予定変更して野宿していいかなと、思案してしまう。思案がてら、休んでいると、次々と人がやって来るので、やはり元の計画でいくことにする。
金峰神社に着く頃にはもう誰もいない。奥千本の西行庵に出ると、東屋で野宿をする一人の男性がいた。邪魔せぬよう、そっと通り過ぎる。
四寸岩山への取付きに着いたのが18時過ぎ。まだまだ明るいし、ショートカットの林道は工事中だしするので尾根伝いのルートを行くことにする。小屋に辿り着くまで本降りにならぬよう祈る。
だんだんと黄昏れてきており、今まで歩いた経験とカンに頼りつつ道を辿る。だいぶ上へ登った頃、北への景色が開けてきたので、振り返って眺める。中千本から下千本あたりが光輝いて、辺りの暗さから抜きん出て見える。その他にもちらほら光が、見受けられる。この辺りは山が深いように見えて、そこまで深くないから、結構人が住んでるなぁ…と考えつつ登る。
暗さがどんどん増してゆく。なぜかモノトーンで景色が見え、先行く道がその中から浮き出てくる。昼間より集中して足を繰り出してゆく。高度が上がるにつれて、下市の方まであかりが見えるようになる。大地の上にある、星座のようだったなぁ。行けども行けども道は果てず。さらに暗がりが増していく。頂上に着く前に懐中電灯をつける。19時過ぎる時刻で、もう石ころの白しか判別がつき辛くなった為だ。灯を点けると一気に歩き安くなる。手前2m程から、暗がりを放逐し、道をどんどん辿る。杉林と葉のすっかり落ちた落葉樹林の林を交互に抜け、頂上らしき所を抜け、どれくらい歩いたか。急に右手に岩のかたまりがヌッと現れる。ハッとして、よくよく眺めると行場だ。祠がある。で、一礼してまた歩き出す。もうこの頃には吉野の辺りは見えず、それでも左右の下方にちらほらと灯が見て取れる。ようよう下りにかかり、直に林道に出るかなと思いつつ歩いていると、台風での倒木が続いていて道が分からなくなっていた。昼間なら見通しが効くので良かったのだけれど、今は夜。闇が広がる木立ちをしばらくウロウロする。幸運なことに道の続きを見つけ出す。まだ時間が20時前ということもあり、焦りが少なかったことが幸いした。これが、雨降りの深夜近い状況なら焦りまくりだったろう。歩くこと5分くらいか、林道との合流地点に着く。百丁茶屋跡への取付に入る。あと20分くらいで小屋だと思うと足取りも軽い。相変わらず、雲が重く垂れ込め、風が西から吹いてくる。時折り思い出したように雨がぱらつく。
存外早く小屋に到着。やれやれと思いつつ戸を開けて中を見ると、先客が一人。すでに就眠の途にあったので、お詫びをしつつ反対側に陣取る。夜食をと思っていたが、先客に配慮してそのまま眠ることにする。うっかりして断熱シートを用意していなかったので、背中からじんわり冷たさが沁みて何度も目が覚めてしまった。
翌日5時半起床。朝食を取りつつ、寝袋をまとめ、6時出発。この時、うっかりして大天井ヶ岳への道でないほうの水平ルートへ足を入れてしまった。最初は気付かず、おかしいな、前こんなの見てないのにな、と垣間見える林道に首を傾げていた。水場に遭遇したことで、道を取り間違えたことに気付く。しかし、まだ歩いたことがない道なので、五番関まで歩き通す。五番関には8時前到着。女人結界を眺めた後、しばらくぶらぶらして、大天井ヶ岳への道を取る。残念ながら、女性の身である為、山上ヶ岳には行けないのだ。大天井ヶ岳頂上到着が9時。柿の実チップをつまみながら小休憩。洞川まで下るにしても、急ぐこともないので、ゆっくり岩屋峰へと歩く。
それにしても、鹿のフンの多いこと!干物状態からほやほやのものまで、笹の多い道には必ずといっていい程、落ちている。なるたけ踏まないようにするが、道を辿っていると、ウンザリするほど目につく。
しばらくガサゴソして百丈岩に着いたのが10時過ぎ。そこからしばらく行った所に山上ヶ岳か良く見える岩があり、そこに座り込み小一時間ほどぼうっとする。名残惜しいのを堪え、再び歩き始める。
大普賢岳の西側がうっすら白く美しい。昨夜の雨はあの辺りでは雪だったのか。どうりで寒いはず。春浅き山は思うほど暖かではないのだ。
洞川の家並みが大きく見えるようになった頃、陽だまりの風が来ない、見晴らしの良い平地でお昼にする。朝、重く垂れ込めていた雲はいつの間にか消えて、青空が広がっている。たまの白い綿雲がぽこりぽこりと南の山際から現れては、北へと去ってゆく。ぽかぽかと気持ちいい。地面にはすみれが咲き、これまた目に心地よい。
のんびりした後、洞川へ。今日は水曜日なので、公共温泉は休み。どこの旅館の風呂に入ろうか思案する。前回は後鬼の湯だった。今日はその左の宿の温泉に入る。期せずして貸し切り温泉。
まだ開山まで半月あるので、旅人は少ない。洞川の人は、今がその時とばかり、看板を付け替えたり戸を洗ったりと、掻き入れ時を目前に忙しげだ。
そうそう、ここではまだ梅が盛りで桜は蕾ばかり。4月末が見頃だろうか。いつぞやの時はゴールデンウィークに満開の山桜を見たっけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます