第5話 好感度だけが無限にあがる
明らかに動揺してしまった私を、クロヴィス様とルシアナがにまにま見ている。
クロヴィス様の視線があつくるしい。
私の事が愛しくて仕方ないという目だ。あの愛の溢れたあつくるしい眼差し。
お父様が愛しのリリーナたんに向けるものと同じ視線である。
そういった眼差しを向けられる日がくるとは思わなかった。私とクロヴィス様は腐れ縁の幼馴染だった筈なのに。
「……ええと、まぁ、その……、うん、……」
声まで震えてしまった。
私は口元をおさえて、一度俯く。
こほんこほんんとわざとらしく咳をして誤魔化してみる。誤魔化せていない気はするのだけれど、とりあえず。
「リラは、俺の事を好きだと思ってくれているんだな」
嬉しそうに、余裕を取り戻したように、クロヴィス様が言う。
イケメンなので無駄にきらきらしている。
先程は狼狽えたり土下座したり動揺したり涙目になっていたくせに。なんだこいつ。
いえ、クロヴィス王太子殿下なのですけれど。なんだこいつ、とか思ってしまったわ。まぁいいか。クロヴィス様だし。
「今のところは、特に、嫌う理由はありませんし」
「すまなかった。お前に無作法な態度をとってしまったのは、全て照れ隠しだったんだ」
「思春期ですからね。そういったこともあるでしょう」
「今のところ、俺は運命の番が現れていないんだが、リラの周辺には良い男はいないのか」
「いませんよ。……番、までは理解できましたけど、良い男とはなんですか」
「それは勿論、運命の番が現れてお前に冷たくする俺のせいで、傷ついたお前に手を差し伸べる良い男だ。容姿も性格も、立場も、俺よりも上の男が、お前を奪うことになっている」
「いや、そんな、当然のように断定されても」
私の好意を確信したらしく、余裕と落ち着きのある態度で、クロヴィス様は再び妄想の未来を悲観しはじめる。
他国では心変わりの末の婚約破棄が流行っている事は理解できたし、クロヴィス様の半獣族特有の習性についての憂いも理解できたのだけれど、良い男とは。
私にもそのうち運命の番とやらが現れるのかしら。私は人族なのだけど。
「学園には数多の男が通っている。……もしかしたら、リラに好意をもっている男が、俺の乱心を今か今かと待ち望んでいるかもしれない」
「あのですね……、……ああもう、分かりましたよ。私は別にクロヴィス様の事が嫌いじゃないですし、とりあえず婚約者ですし、波乱に満ちた人生よりも穏やかな生活が良いですし、できるかぎり気を付けて学園生活を送ります。それで良いですか?」
「どうしても、学園で学びたいのか?」
「クロヴィス様の妄想癖のせいで学園に通わないとか、ありえないので。というか、どちらにしろ番とやらが現れたら、クロヴィス様に捨てられるのは私なのでは?」
「それらしい女が現れたら、全力で俺を連れて逃げてくれ。俺はリラと結婚したい」
「……そんな、他力本願な」
「そのあと、その女を学園から追放してくれ」
「えぇ……、そんな、非人道的な……」
「今のところ番になりそうな者はいない。俺の卒業するまでの二年間、逃げ切ったら俺の勝ちだ。卒業したら婚姻を結ぼう。そうすれば、一安心だ」
そんな事で良いのかしら。
どうにも信用できない。そもそも番という効力がそこまで強ければ、婚姻を結ぼうが結ぶまいがそれほど関係がない気がするのだけど。
「寧ろ、リラ。俺は、俺よりもリラの事を心配している。俺はリラに対する強い愛情で、番の呪縛から逃れることができるだろう。出来るに違いない」
「なんですか、その自信」
「しかし、リラは俺よりも良い男をみつけて、心変わりをしてしまうかもしれないだろう? 絶対に嫌だ。俺を捨てないでくれ、リラ……!」
「……なんで私はそんなに信用されてないんですか。捨てませんよ。まぁ、……でも確かに、とてつもなく素敵な男性が現れたら、多少は心が動くかもしれませんけど」
そんなひとはいないんだけど。
妄想の素敵な男性について語り合う事の不毛さに、私は少々辟易した。
クロヴィス様は再び泣き出しそうな表情を浮かべた。不覚にもちょっと可愛いなと思ってしまった。
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