第218話 マリー
「こんにちは、ルイ・デ・ブルボン様」
僕に話しかけてきたツインテールの令嬢は話があると言うので渋々部屋に通す。
「で、忙しいこの僕を呼び止めて相当な用件なんだろうな?」
僕はじっと目の前の少女を睨みつける。
茶色のツインテールに男受けしそうな顔立ち。どこか誰かに似ているな。
「わざわざ話しを聞いていただくチャンスを与えてくださりありがとうございます。私の名前はマリー・デ・エヴルー。貴方が倒したリリスの妹でございます」
その名前を聞いて僕とアルスは目を見開いた。
マリーは最近話題になっていた人物だ。
リリスの妹ながら魔法の天才らしいが、リリスと決闘した結果負けている。
これは本来の小説の流れであり、当然ではある。
問題はこいつがここにいること。
本来、マリーは負けたことで気落ちして引き籠もりになってしまう。
それを知ったリリスによって説得され仲直りして仲間になる。
何とも綺麗すぎる話だが・・・何故、引き籠もっているはずの奴がここにいる?
まあ、僕が物語をぶち壊したんだからストーリーが変わることはあるか。
「そうか、あの話題のマリー令嬢か」
「ええ、その通りです」
嫌味を言ったはずなのに涼しい顔をするマリー。
その立ち振る舞いは小説の様な悪役令嬢ではなく、気品あるレディーを思わせる。
何だか前世の嫌なやつとリンクする。
「用件を言え。なるべく短く」
「分かりました。では、私と組みませんか?」
・・・こいつと組む?どういうことだ?
「貴方は姉と敵対しているのですよね?私もあの人は許せません。と、言うことで私と組んで倒そうとは思いませんか?」
「なるほど、自分では勝てないから僕にすがってきた訳か」
「端的に言えばそうです」
やけに落ち着いていて一切嫌味が効かない。
「僕に何のメリットがある?」
「姉を蹴落としていただけるなら、エヴルー家は貴方のものになりますよ」
???こいつは何を言っている?
「何だ?お前は僕に嫁ぎに来るのか?」
「い、いえ。それは遠慮しておきます」
頬を少し赤らめながら必死に手を振る。
「エヴルー家には男子がいない以上、婿養子を取る形になります。そして選ぶのは私。大体の男子の手綱は握れるので、貴方の思い通りに動かすことができます」
そういうことか。中々賢いな。
「具体的な策とかはあるのか?」
「まあ、少しはあります。ただ、貴方なら本気を出せば簡単に追い込めるでしょ?」
「・・・その場合、僕の首も危なくなるがな」
僕が本気でやれば学園の校長でさえ追い落とすことができる。
ただ、結構強引なため相応のリスクはある。
「どうしてリリスを追い出したい?」
「それはもちろん、王子といるのが気に食わないから。あとはノホホンと平民が生きているのが癪に触るからですよ」
マリーらしい回答だが、その目からはそんな悪意は見えない。
本当に本心なのか疑わしい。一体どういう理由だ?
まあ、考えても答えは出ないだろう。
「それで、返答はどうですか?」
「もちろん却下だ」
予想通り、と言わんばかりにニッコリと笑顔で質問をしてくる。
「理由を聞いてもよろしいですか?」
「そんなの一つしかない。メリットがこちらにはないからだ。エヴルー家一つを手に入れたところで僕の力はあまり変わらん。それだけのために労力を使いたくない」
「そうですか、分かりました」
あっさりと引く。
「色々とお手数をかけましたわ。お話を聞いていただきありがとうございます」
礼儀正しくお礼を言って僕ら二人を残して退出した。
「ルイ兄様よりも礼儀正しい・・・」
アルスの呟きを僕は聞き逃さなかった。
「おい、それはどういうことだ!」
「そのままの意味ですよ。似たようにリリスに喧嘩を売ったお二人ですが、あの方は少し訳がありそうです。噂とは違ってもの凄く常識人ですよ」
「まるで僕が常識人じゃないみたいな言い様だな」
そっぽを向くアルス。
こいつ!
「まあ、許してやる。それで、あいつをどう見る?」
「そうですね、案としては悪くありませんでしたが・・・ブルボン家には男爵家一つではもの足りませんね」
ブルボン家一つで帝国の全男爵家と同じだけの、いやそれ以上の力がある。
だから一つごときで動くのはもったいない。
「ただ、少し気になるな。一応調べといてくれないか?」
「分かりました」
アルスはさっと頭を下げる。
「それにしても学園に復帰か」
後二週間もしたら僕は三年生としてまたあそこに戻る。
「自分は嬉しく思っていますよ。友達もいるんで」
こいつ、ますます遠慮が無くなってきてないか?
「それよりもリリスをどうするかだ。あのマリーとか言う女と組むわけではないがそれでも実力者を倒した実績がある。いつか僕に牙を向いてくるかもしれん」
まあ、その時は正面から潰せばいいのだが。
さて、どうしたものか・・・
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