第217話 お披露目会

その天使が現れた時、会場中の視線が集まった。


まず全員が注目するのはその端正ながら可愛らしい顔。


母親似のスッとしたフェイスラインで薄く長いまつ毛。金色の長髪は腰まであり、横を覆う中からひょっこりと出す耳がなんとも可愛らしい。


極めつけはその表情。キリッとした表情に見えるがよくよく見ると少し強張っているのが分かる。そこもまた可愛らしい。


次に注目すべきはその服装。


赤いひらひらとしたドレスは、子供用ながらも少し大人びて見える。


その白い肌とうまくマッチし、より彼女を引き立たせる。

太陽のように光り輝いており、彼女がこの場の主役だと分からせている。


階段を一段一段降りるたびにふわふわとドレスが浮き、その可愛さまでもアピールする。


僕は彼女が転ばないようにしっかりと支えている。


さらにさらに特筆すべきは―――


「ルイ兄様!アンナの説明はいいですから、早くその手を離してください。父様が壇上で待っています」


僕にササッと近づいてきて心の中のナレーションを遮るアルス。


周囲を見てみると、もう登場してきた正面階段は降りており目の前にはこちらを注視するお客ばかり。


右隣にはエスコートしてきたアンナが少し恥ずかしそうにもじもじとしている。


可愛い!


そして左隣からは苛ついている父から殺気がにわかに感じる。


僕は仕方なくアンナの手を離してアルスの所へと向かう。


そう、今日はアンナのお披露目式。


貴族の子供は一定の年齢になると関係者を集めてお披露目会、つまり初の社交の舞台が開かれる。


そこである程度の名を売るのだ。


もちろん集められた貴族たちはただパーティーをしに来るわけじゃない。


次期当主だったら見極めに来るし、自分の子供を連れて売り込んだりする。


要はこの時から貴族の戦いが始まるのだ。


もちろん、僕もやった。が、そんな面白いものでもない。


挨拶ばかりで、後は踊りを披露したり交友を深めるだけ。


僕はある程度のことをしたらすぐにその場を後にしたことを思い出す。


まあ、こんな子供にへりくだって媚を売る大人たちの滑稽さは面白かったが。


とりあえず、アンナにとっての初めての社交界。

絶対に成功させなければならない。


「ルイ兄様、ソワソワしすぎです。らしくないですよ」


アルスが隣で耳打ちをしてくる。


ちなみに、身分の関係でレーナとテラはいない。


「仕方がないだろ、アンナのことになると落ち着いてられないんだよ!」


この気持ちはどうしてか説明ができない。


前世にも妹がいたが、特別には思ったことはなかった。

が、今世はどうしてか妹が大切に思っている。


・・・まあ、深くは理解しようとは思わない。


「アルス、警備の方は大丈夫か?」

「ええ、ご安心を」

「毒とか混入はないな」

「ですから大丈夫です」

「何かテロとかは?」

「・・・大丈夫です!」

「後は―――」

「ですから大丈夫です!やっぱり今日のルイ兄様は変ですよ」


そうか?いつもこんな感じだが?


僕はアルス言葉を無視してアンナの辿々しい(可愛い)挨拶を聞く。


それが終わると父の挨拶になり、一応は僕も挨拶してパーティーが始まった。


アンナは父と挨拶回りに行くため連れて行かれ、僕は仕方なく会場の真ん中でアルスと一緒に話すことにした。


しばらくすると、僕の方にも挨拶をしてくる貴族たちが現れた。


連れている年齢から推測すると、アンナからの挨拶を受けた子どもたちが次は自分の所へ媚を売りに来たのだろう。


男爵や子爵ばかりで、親はへりくだり子供は理由も分からず頭を下げている構図は見ていて飽きない。


アルスは当然のように僕の一歩後ろに下がって控えている。


そんなこんなで対応を続けていると、僕のところにアンナが回ってくる。


「ルイ兄様!アルス兄様!」


身内ということで緊張が取れたのか、足早に駆け寄ってくる。


「アンナ、ものすごく似合ってるぞ!」

「ありがとう、ルイ兄様」


僕が褒めると嬉しそうにくるくる回る。

そして今度はアルスの方をじっと見つめる。


「似合っていて可愛いよ」

「ありがとう、アルス兄様!」


アルスの言葉にもニッコリと笑顔でお礼をする。


そしてふと、思い出したかのように足を下げてドレスを軽く持ち上げる。


「アンナ・デ・ブルボンです!今後ともよろしくお願いします」


綺麗な挨拶をする。何回もしたから慣れているのだろう。


可愛い!


彼女こそブルボン家の長女!彼女こそ我が妹!


「アンナ、これから僕がしっかりとこの世界のことを教えてあげるよ!」


この世界は家柄が全てであること。アンナなら何でも願いが叶うこと。


「ルイ、変なことを吹き込むな。アンナも耳を貸さなくていいからな」


父が口を挟んできたのでそこで話は終わった。



アンナが去った後。


僕たちは帰ることにした。


特にやることもないし、ここにいる理由もない。


そうして出口へと向かっている途中、突然後ろから一人の少女が声をかけてきた。


「ルイ様!お話よろしいでしょうか?」


振り返ると、そこには見覚えのある茶色のツインテールの悪役令嬢がいた。



―――


今週中にまた投稿します!

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