第206話 決闘(リリス視点)
「ふふふ。元お姉さまが私に決闘ですか」
ゾッとするほど気味の悪い笑みを浮かべるマリーア。
でも、私は臆せずに真正面から見据える。
「ええ、そうよ」
「私に何のメリットがあるんですか?」
「メリットとか関係ないわ。その投げつけられたハンカチを取った時点で決闘は成立するのよ。古くからの決まりよ」
「チッ」
小さく舌打ちをする。
「何?それとも私とやれないの?」
「そ、そんなこと無いわよ!」
「だったら、三日後に第一運動場でやろうね」
「の、望むところよ!」
そして三日後。
多くの生徒たちに見守られながら、二人は運動場の真ん中で相対する。
「あら、逃げなかったのですね」
「どうして逃げる必要がある?」
「だって、このままだと精霊術のことがバレますよ?」
その挑発に私は笑顔で答える。
「それが、どうしたというの?」
「なっ!」
私の返しが予想外だったのか、目を見開く。
「バレて困るのは貴方達よ!他の人にも迷惑をかけるのよ!」
「???他の人って誰?精霊術士は私一人だけよ」
「しらばっくれないで!」
私はキーキーと怒るマリーアに向けて終始笑顔で言う。
「でも、私に仲間がいる証拠はないでしょ?私のことがバラされたところで困るのは私だけ」
だからこそ、この決闘を考えた。
師匠には謝りの手紙を出したが、それ以外は特に精霊術士の仲間と接触をしていない。
そもそも師匠の知り合いだから、ほとんど会ったことがないだけだけど。
「平民なのに、変な知恵を回して!」
一応同じ血の流れた私に向けて辛辣に罵る元妹。
「そうよ、貴方と私では身分がもう違う。でも、私達が姉妹であったことには変わりはないわ」
だからこそ彼女を倒す。
姉として何としても妹に勝たなければならない。
それがプライドであり、姉としてやるべきことだから。
「貴方達の考えは間違っている。身分なんてあるから対立が生まれ争いが起こる。その考えを正さないといけないのよ」
ルイ君には否定された。
そして、それが原因でそんな考えを放りたくなった時もあった。
でも、やっぱり間違っている。
私達は同じ姿形をした人間。
その中にある血なんて見分けがつかない。
なのに区別をするのはおかしい。
「・・・お姉さまはこの帝国を否定するつもりなの?」
一瞬、昔のようなお姉さま呼びに驚いたが直ぐに返答した。
「ええ、そうよ。この国を変える、この貴族社会を否定するために私はここにいるの」
「アレックス殿下とつるんでいるのに?」
「彼らはその身分で苦しんでいる人たちよ!そして私の意見に賛同してくれている」
マリーアは小さく笑みを浮かべる。
「ルイ公爵令息に負けたのに」
私はその返しに思わず笑みを引きつらせてしまった。
その言葉に反論の余地はない。
完膚なきまでに私はやられた。
それは紛れもない事実であり、初めての負けだった。
でも、だからこそ学んだものもあった。
「あの負けは私の中で大きなことよ。でもね、私は負けたからって自分の夢は諦めないわ」
周りに励ましてもらって支えられた。
だから私はこんなところで立ち止まらないわ。
「威勢の良い人になりましたね。今回も負けますよ」
キリッと私を睨むマリーア。
確かにマリーアは強いかもしれない。
天才と持て囃されるだけの実力があるのはこの目で見たことがある。
でも、私だってあの日からより鍛錬を積んできた。
「結果が全てよ。私だって姉としてのプライドがあるから」
[準備はバッチリだぜ、リリス]
[ええ、そうよ]
[ま、任せてください]
クロもフィーンもタルルもいる。
「それでは両者、誓いの言葉をたててください」
審判を先生が大きな声で呼びかける。
私達は改めて真正面から相対する。
「私、リリスはこの決闘を全力で戦うと誓う」
この誓いの言葉も古き伝統の一つ。
「私、マリーア・デ・エヴルーはこの決闘で全力で戦うことを誓う」
「それでは、始め!」
その合図とともに決闘は始まった。
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