第205話 帝国では・・・ (三人称視点)
「おい、ルイ公爵令息がついに帰ってくるらしいぞ」
「まじか!もう一年経っていたか・・・」
「で、お前はどうするんだよ?」
「何が?」
「誰に付くかだよ」
二人の学園の生徒がコソコソと教室の端で話を続ける。
「カエリウス殿下に付くか、それともモハッド殿下に付くかじゃないのか?」
「そうだけど、ルイ公爵令息がどう出るか分からないんだよ」
「そんなに気にすることか?」
「当たり前だろ。ブルボン家は中立貴族のトップだぞ!」
「確かにな〜〜〜」
二人は対照的な気持ちだった。
一人は特に何も気にしないのんびりとした感じで、もう一人はなにか焦るような感じ。
「お前は相変わらずのんびりとしているな!学年が上がる前にそういうのははっきりしとかないといけないんだぞ!親に教わらなかったか?」
「言われたけど・・・」
のんびりしているのは彼だけじゃない。
半分以上の二年生は誰に付くかを未だに決めきれていない。
無理もない。
彼らはまだ十四歳。
政争などまだ分からない年頃。
そんな中、ひときわ、この政争に敏感な少女がいた。
「ナータリ様。大丈夫ですか?」
壁に持たれかかるように教室の椅子に座るナータリを心配する女子生徒。
「そんなに疲れて見える?」
「ええ」
その言葉にナータリはため息をつく。
彼女が疲れているのは無理もない。
ルイが帰国してくるため、その対応に追われていた。
何しろ彼女は今現在、学園にあるルイ派のトップなのだから。
誰に付くのか、これからはどうするのか。
質問攻めにされたり、説明に追われたり忙しい日々である。
彼女自身は未だにルイの真意を図りかねている。
これからのルイの行動なんて、あのアルスでさえ恐らく予知できないのだから。
「はぁ〜〜〜どう説明すればいいのよ・・・」
一昨日、第一皇子に呼ばれてルイがどっちに付くかハッキリさせろと怒鳴られた。
先日には第二皇子と両親に、早くこっちに付かせろとキツく詰められた。
私があいつの真意なんて知れるわけでもないのに。
そもそも!あいつは皇位に興味がない人。
とりあえず自分が良ければ全ていいと自信満々に言える、典型的な傲慢貴族。
そんな人が、簡単に意思表明をするわけ無い。
でも、そんなことをナータリが言えるわけがない。
ルイだから皇子相手に強く出れる。
でも、彼女はたかだか伯爵令嬢に過ぎない。
こういう所が貴族の辛いところだ。
「遂に帰ってくるらしいわね」
魔法協会本部の大広間に、数人の幹部たちが集められた。
「イルナ、もう少し危機感を持て。我々にとったら大事なことなのだぞ」
フアンズの言葉に適当に頷くイルナ。
「アリオス。学校の様子はどうかな?」
「一部ではルイがどちらに付くかという話題で盛り上がっています」
「皇子たちは?」
「今、まとめ役を担っているナータリと接触していますが手応えは無いと思われます」
「すると、まだどちらに付くかを表明していないと」
アリオスは頷く。
「ええ。未だに中立を守っています。かと言って、これからそれが続くとは思いません」
「どういうことだ?」
会長の質問に待ってましたと言わんばかりに、大量の資料を出す。
「これは?」
「ルイが留学中に行っていたことのまとめです。もっとも、わからない部分もありますが・・・」
資料に一通り目を通した一同は驚愕する。
「ダンジョン爆破!!!」
「選挙に関与だ!?」
「政治家を脅すなんてやるじゃない」
到底十代の少年が行ったとは思えない所業の数々に頭を抱える。
「こんな化け物を公爵家は生んだのか」
「まあ、ラノルド公爵自身も悩みの種となっていますが」
アリオスは苦笑いをする。
「会長、どうします」
「・・・何もしないのが一番の得策だろう」
苦々しい表情を浮かべながらも、質問したテッペンは頷く。
「そうですね、必ずしっぺ返しを食らうと思い知らされましたからね」
まさか自分たちが脅されるとは思っていなかった魔法協会幹部たち。
彼らは馬鹿じゃない。
だからこそ、過去の反省を活かしている。
「かと言って何もしないのは面子がなくなる」
「何とか意見を出してくれ」
「会長、それよりも例の決闘はどうしますの?」
突然話題を変えるイルナ。
「そうだそれもあったんだ、リリスとマリーア令嬢の決闘事件。考えなければいけないことが多すぎる!」
結論はまだ出ない。
―――
明日からは決闘の話です。
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