第204話 ジョンとマイケル (三人称視点)

ジョンとマイケルと呼ばれる二人の大男は、今日も街を歩いていた。


その目立つガタイの二人が通ると、彼らを知らない者は避けるように道を開け、知り合いたちは何も言わずに思いっきり背中を叩く。


彼らの日常そのものだ。


「よう、ジョンにマイケル!今日も相変わらず無口だな!」


顔なじみの冒険者に絡まれた二人は息ぴったりに頷く。


そう、この二人が話しているところは実はあまり知られていない。


無口で実直だからこそ護衛としての依頼は多く舞い込んでくる。


が、実は普段も二人は基本的に喋らない。


声を聞いたことの無い冒険者の方が多いくらいだ。


「やっとあの公爵家の仕事の任期が終わったらしいな」


公爵家とはルイのことを指している。


「大変だっただろう。あんな我が儘で横暴なガキのお守りなんて」


その言葉に二人は特に反応しない。


ルイはあくまで依頼人であり、どんな人だろうが仕事をこなすだけ。


「あいつのせいでダンジョンが潰れて仕事が激減したんだよ!ったく、こちらのことを考えずに他国の人間が!」


その愚痴に二人は再度押し黙る。


と言うより目の前の知り合いから目を逸らす。


何しろ、そのダンジョンでの事件は二人も関わっていたこと。


見て見ぬふりをしていたとはいえ、申し訳なくは思っている。


「大丈夫か?変なことをされなかったか?」


心配そうにこちらを覗き込む。


二人は阿吽の呼吸で首を振って立ち上がる。


正直彼らは今回の仕事にあまり不満は無い。


しっかりとこなせば昼は豪華な料理が振る舞われ、仕事を時間もそこまで多くない。


何より給料が良い。


いつもの仕事の五倍ほどの値段であり、任期の最終日には報酬として大量のお金を貰った。


その量は自分たちの五年分の年収ほど。


確かに色々と問題がある人かもしれないが、彼らは特段悪いとは思っていない。


そう考えていながらも一切喋らない二人はそそくさと飲んでいた店を出ていった。


家へ帰る途中、目立つため何度も知り合いに出くわした。


その度に公爵家の仕事について質問される。


それを煩わしく思いながらも、適当に相槌を打つ。


何とか解放された彼らは一軒の、周囲より一回り大きな家へと帰宅する。


そこで出迎えたのは―――


「ぱぱーーー!」

「ぱーぱー」

「あーあー!」

「父さん!」

「お父さん!」


二人のそれぞれの子どもたちだ。


実はジョンとマイケル幼馴染であり、小さい頃から一緒に育ってきた。


その後冒険者になると、それぞれに家庭を持つようになる。


だが、同時期に妻を亡くした二人はお互い支え合いながら子供を育てていくことにした。


ジョンには息子と娘の二人が。


マイケルには、息子二人と娘一人がいる。


普段は顔見知りのベビーシッターさんに昼の子育てを頼んでいる。


今回、公爵家の依頼を受けたのはそれが理由。


なるべく家で夜を過ごしたい彼らは条件の良い依頼を探していた。


そして見つけたのだ。


「「ただいま!!」」


二人の言葉が被る。


そう、二人共家の中では喋るのだ。


「学校どうだったか?」

「うん!楽しかった!」

「家でしっかりお留守番できていたか?」

「大丈夫!へへへっ」


「ぱぱーーー、お仕事おつかれさまです!」

「そんな難しいこと、良く言えたね!偉い偉い!」

「ねえ、抱っこして!」

「お、いいぞ!」


二人は各々の家族と談笑しあう。


こんな饒舌な二人を見たら、顔なじみたちは驚いてしまうだろう。


それだけ二人にとってこの家族という空間は大事なものであり、なくてはならないもの。


まさに憩いの場である。


「よし、飯にでもするか」

「そうだな。今日はジョンの当番か?」

「ああ、そうだ。今日は報酬も出たしハンバーグでも作るよ!」


そう言うと、子どもたち全員の顔がパッと明るくなる。


料理を作る父親、ジョン。


子どもたちと飯ができるまで遊んであげる父親、マイケル。


不思議な光景であり、中々無いものだ。


男尊女卑の残るこの世界では、彼らは異物な存在であるかもしれない。


それでも彼らは育児をやめない。


二人の父親の戦いは続く・・・


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