第203話 帰国

「屋敷の荷物は全て運び終えたのか?」

「はい、全て完了しました」

「そうか。ここの屋敷はどうなる?」


僕の質問に不思議そうに首を傾げるレーナ。


「購入者は見つかっており、既に交渉を進めていますが・・・どうしてですか?」

「いや、一年も住んでいたら少しぐらい愛着が湧くからな」


と言ってもここで住み続けたいとは思わない。


やっぱり僕には帝国があっている。



青々とした空が広がる良く晴れた日。


僕は今日このアメルダ民主国を発つ。


長かった苦しい留学生活は無事に終わり、学園に復帰する。


向こうで起きたことはナータリからの手紙である程度把握している。


小説通りの展開が起きて、予想通りの結果となった。


僕がいないことである程度物語に修正が入ったのだろう。


まあ、この一年はあいつら成り上がり共を増長させるために放っておいたんだ。


それらを全て刈り取ってやる!


「ルイ様、馬車へ」


屋敷を眺めていた僕を促すレーナ。


僕とレーナが馬車へと乗り込むと同時に、ゆっくりと進み出す。



この国では非常に有意義なことができた。


将来この国を背負う奴らに血の契約という枷を取り付けた。


この国を巣食う害虫たちの飼い主となり、この国をより堕落させることもできた。


市場や選挙、ダンジョンといったものも荒らすことができた。


崩壊とまではいかないけど、ある程度の復讐はできたと思う。


僕が大人になった頃にはこの国は崩壊寸前になるだろう。


そうなった時、攻め込むのも悪くはないな。


ブルボン公爵家が先陣で簡単に陥落させ、まるっと領地を貰う。


うん、完璧な作戦だ!


「ルイ兄様は相変わらず悪そうな顔をしますね」


正面に座るアルスが苦笑い気味に言う。


「悪いことを考えていたわけではない。ただ、ブルボン家繁栄のことを考えていたんだ!」

「・・・まあ、そういうことにしておきます」


我家の発展のために一つの国家を滅ぼして何か悪いか?


別に問題ないだろう!


だって、この世界は家柄、血筋、身分こそ全てなのだから!


民主主義が崩壊したところで問題ないだろ!


「ルイ様、少しは自重してください。またラノルド様に私が怒られるんですよ」


ため息交じりにセバスが言う。


「自重しているぞ!去年やったことよりはマシだろ!」

「いいえ、同じぐらいですよ!」


直ぐ様ツッコまれる。


いいだろ、僕が何しようが!


しばらく沈黙が続いたが、またもセバスが口を開く。


「それにしてもルイ様もだいぶ変わられましたね」


その言葉に全員が目を見開く。


「僕が変わっただと?」

「ええ。昔は少し硬い感じでした。常に厳格に振る舞おうとしていてぎこちありませんでした」


昔から側にいた老執事に言われると押し黙るしか無い。


「でも、今は楽しそうで非常にリラックスをしている感じです」

「これが、ですかニャ?」


新入りのテラが本気で意外そうにこちらを見る。


「おい猫、主人に向かって『これ』呼びだと?後で覚悟はできてんだろうな!」

「ニ、ニャ――」

「セバスもだ!勝手に僕の過去を暴露するな!」

「いえ、ただ思い出話なので」


慌てるテラとは対照的にスッとしらを切るセバス。


「でも、確かにルイ兄様は少し変わっていますね。自分が会った時はカッコいい主人という感じでしたが、今は兄と思える親しみさがあります」


おい、アルスまで乗っかってきたぞ!


「私も、最初の印象とはだいぶかけ離れていますよ。傲慢な公爵令息だと最初は思っていましたが、それだけではなかったのは驚きでした」


それは褒めているのか?貶しているのか?


どいつもこいつも好き勝手言いやがって!


僕は公爵家の嫡男!選ばれた存在だぞ!


孤高の存在!絶対的存在!最強の存在!



・・・・・・でもこの生活も悪くはない。



前世とは少し違った、自分の生き方。



はこの生活に満足しているのか・・・」


「???ルイ兄様、何かおっしゃいましたか?」

「いいや、何も」


慌てて誤魔化す。


僕は僕。この世界で成り上がり共を潰すんだ!


呪文のように何回も唱える。



数日後、僕たちは帝都へと着いた。

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