第207話 決闘② (リリス視点)

合図と同時に真っ先にマリーアが魔法を詠唱しだす。


確かマリーアが使えるのは帝級魔法の一部まで。


聖級も半分ほどしか使えなはず。


で、あるならばルイ君とやった時よりもまだ大丈夫。


何よりあの早い無詠唱魔法が無い。


ただ、短縮詠唱を身につけたとは聞いたことがあるから油断はできないわ。


[リリス、使うか?]

「うん、お願い」


私は魔法を詠唱しだすマリーアめがけて走り出す。


と、同時にクロが唱える。


[【ストップ】]


一瞬で周囲が静まる。


その五秒の間で私は一気に距離を詰めて腰にかけてある剣を引き抜く。


「!やっぱっりその力は厄介ですね」


詠唱を中断させたマリーアは距離を取るように後ろへと飛び下がる。


そして腰から同じように剣を抜き、構える。


と、同時に左手で剣に何かの魔法を付与した。


私は警戒しながらも距離をジリジリと詰めていく。


ある程度の距離が縮まった瞬間、突然マリーアが剣を振り上げる。


まだお互い間合いに入っていないのに。


そう思ったが―――


[リリス、避けなさい!!!]


フィーンの言葉に咄嗟に反応して左に避ける。


するとマリーアが振り下ろしたと同時に、私が先ほどいた場所に見えない斬撃が通る。


「あら、これを避けますのね」


ニタニタと笑みを浮かべるマリーア。


「さっきの付与したのはそういうことね」

「ええ、魔法を感知できないお姉さまにはわからないですよね」


私はその挑発に剣を握る手を強くする。


私には魔法を出すことも、感知することもできない。


だから、精霊の三人の力を借りないと無理。


精霊にはある程度の魔法を見極める能力があるらしい。


だけど私自身にはそれが備わっていない。


「さて、じゃあ、まだまだ行きますわ!」


そう言うと同時にマリーアは剣を振り上げて私めがけて振り下ろす。


[右に避けて!]


だけど攻撃は終わらない。


何度も何度も間合いの外から斬撃を飛ばしてくる。


[右!]

[左よ!]

[上!]


何とか皆の言葉のお陰で避けきれている。


だが、相手には攻撃を与えられていない。


[もう一度ストップを使うことは可能?]

[難しい。ストップを使うとあの斬撃がどこから飛んでくるか分からなくなる]


避けながらも何とか次の一手を考える。


あれをやるのはまだ早すぎるし・・・


私は何とか思案して、結果的に一つの結論を導いた。


[ねえ、もしかしてあの攻撃って範囲があるんじゃない?]


私はさっきの、マリーアが最初に放った時のことを思い出す。


あの時、私はジリジリと距離を詰めていた。


にも関わらずあの攻撃を打たなかった。


だけど、ある一定の距離に入った瞬間にそれは放たれた。


私は一度後退してみる。


すると、予想通りマリーアの攻撃の手が止まった。


「やっぱり、範囲がある攻撃なのね」

「・・・ふふふ、どうでしょうか?」


マリーアはそのままこちらに向かって走り出す。


おそらく距離を縮めてもう一度同じ攻撃を繰り出そうとしているのだろう。


でも、すでに距離は十分に取ってある。


そしてあの斬撃は飛んでこない。


【ストップ】


私は唱える。


そして一気に距離を詰めて、お互いの間合いにまで入る。


「なっ!」


【グラビティー】


驚いた隙にマリーアの剣を重くする。


急に重くなった剣を手で持てなくなったマリーアは離してしまう。


剣が手から滑り落ちたことに気付いたマリーアは、次の攻撃がすぐに来るのを予想してか剣を拾わずに思いっきり後ろへと下がる。


私の次の攻撃は空を切る。


「うっ。や、やるじゃない」


マリーアの手には剣はもう無い。


一瞬マリーアを見つめる。


だけど、私は直ぐに構え直して一気に駆け出した。

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