第199話 勝敗

それから…


選挙期間は過ぎ、いよいよ投票日がやってきた。


僕と叔父たちは前回と同じ喫茶店に入り、投票結果を待つ。


「それで、ルイ。自信のほどは?」

「それはもう、バッチリですよ!」


僕の負け?


そんなことはあり得ない!


僕には常に勝利の女神が背後にいる。


「そ、速報が出ました!」


僕たちがいる個室に一人の男が入ってくる。


おそらく叔父の部下だろう。


「我らがマルク陣営、得票率四六%。対するウラルク陣営(僕らの陣営)は四十%とのこと。こちらの勝利です」


そう告げられると、叔父は勝利を確信したようにニヤニヤとこちらを見る。


「どうやら、勝敗はついたようだな?」


六%差で僕らの陣営は負けた。


いや正確に言えば、ウラルク陣営は負けた。


だが、僕の負けではない。


ここからが本題だ。


「さて、ルイ。君は負けたが―――」

「叔父上、待って下さい!その結論はいささか早計では無いでしょうか?」


僕はあらかじめ用意したシナリオ通り、話を進める。


負けることなど最初からとうに分かっていた。


と言うか、一週間で支持率一割差を埋められるわけがない。


非現実的だ。


だからこそ、この作戦で行くしか勝ち目はなかった。


「そもそも、この選挙での勝ち負けとは何ですか?」


僕は叔父をジッと見ながら尋ねた。


「それは選挙での勝敗だろ?」

「いえ、僕はそうは思いません」


僕の返答に驚く叔父。


「そもそも、今回の勝負において「勝敗」の定義が明確に定められていません。ですから、僕らの陣営が解釈した「勝敗」も勝敗ではないですか?」


僕の言葉にオルドは渋い顔をする。


「確かに一理あるかもしれない。じゃあ、ルイ、お前の思う勝敗とは何だ?」

「ずばり、何票手に入れたかです」


首を傾げる叔父。


「いやだから、何票手に入れたかだったら、こちらの勝ちではないか?」

「いえ、そんなことはありません」


ふふふ、騙せてやーんの。


「僕はマルク支援も行っていました。そしてそれは本人も了承済みです」


あの日、僕はマルク陣営を支持するという交渉を行った。


あくまで秘密裏の支援、支持であり、マルクとごく数人の関係者しか知らない事実だ。


支援者として名前を貸して、片足だけだが僕はマルク陣営となった。


もちろん、こちらの陣営にも支援を行ったが消極的であった。


何故か差が縮んでいるが、とりあえず僕は二人に賭けたのだ。


僕は二つの陣営支持をした。


それがいいことなのかは分からないが、とりあえず僕の陣営においての投票数は八六%となる。


「叔父上、あなたの負けですよ」

「・・・投票数で勝敗を決めることにはまだ同意してないが?」

「そちらが勝負内容を決めたんです。勝敗の基準ぐらいはいいでしょ?」

「だが―――」

「見苦しいですよ、叔父上。僕らの勝ちです」


さあ、認めろ!


僕を次期当主と認めるんだ!


僕の勝ちなのだから!


「はぁ〜〜〜、君の実力は認めざるをえない」


悔しそうな表情を一切せず、むしろニコニコとして言う叔父。


「まさか、そんな屁理屈を用意していたなんて。念を入れておいて良かったよ」


???念を入れておいた???


「まさか俺と同じ考えに至っていたとは」

「どういうことですか?」

「ずばり、俺もまた同じことをしたんだ。そちらの陣営も支持をしている」


はぁ!?!?!


「そんなの聞いていません!」

「当たり前だ。秘密裏なのだから。そちらがうちに潜り込んでいたのをこちらが察知できていなかったのと同じで、こちらも気付かれずに行っていた」


アルスもレーナもその表情は真っ青。


まさか足元で活動されていたとは思ってもいなかったのだろう。


僕も苦い顔をせざるをえない。


クソ、油断していた!


「ということで今回の対決はドローだ」

「・・・・・・」

「中々楽しめるものだったよ。まさかここまで実力が甥っ子にあったとはね」


立ち上がり、帰る支度を進めながら話を続ける。


「でもね、そう簡単には認めないよ。まだ、勝負もついてないし。だから、また次の機会にね」


そう言葉を残して部屋から去っていった。


部屋に残された僕らはしばし沈黙が続いた。


そこで、セバスが口を開いた。


「どうでしたか、オルド様は?中々の恐ろしいお方ですよね」

「・・・まさか同じ作戦を考えていたとは。秘策だったのに」

「そう簡単にラノルド様の兄弟方は負けませんよ。少しずつ実力を付けてください」


・・・負けはしなかったが、勝てなかった。


絶対、次は分からせてやる!!!!

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