第198話 作戦➂
「どういったご用向きでしょうか?」
電撃的にマルク陣営に乗り込んだ僕たち。
相手の選挙事務所を訪問すると、いかにも怪訝そうな表情で僕らを見てくる。
向こうにも僕が他の対立候補を支持していることは伝わっているはず。
なので、警戒されて当然だろう。
僕は事務所内に叔父がいないことを急ぎ確認する。
「先日手紙でお伝えした通り、少し話をしませんか?」
僕は相手を話し合いに誘う。
この事務所内には叔父に通ずる者が潜んでいるかもしれない。
だから、一応警戒のために別の場所で話をしたい。
「・・・・・・分かりました。前に息子の件で助けてもらった恩もありますから」
しばらく考えて頷くマルク。
お!あの時に助けたことがまさかここで活きてくるとは!
僕らは近くの喫茶店へと向かった。
「それで、どのようなお話でしょうか?」
警戒するような目つきで僕を見つめる。
僕はゆっくり紅茶を口に運びながら、真っ直ぐに見つめ返す。
「簡単な話だ。こちらに寝返らないか?」
単刀直入に聞く。
この喫茶店はブルボン商会と何の関係もない場所。
あらかじめ人払いをお願いしているから、誰にも聞かれていないはず。
僕の言葉に、驚きの表情を浮かべる。
「どういうつもりだ?」
語気を荒くする。
「候補者を交換しようと思っているんだ」
「交換?」
「ああ、僕がそちら側の支援者と対立していることは知っているよな?」
コクリと頷く。
叔父は表立っては動いておらず、あくまで謎の影の支援者という立場だ。
そのため、僕と謎の支援者の対立、という構図でそれぞれの陣営内では理解されている。
「何で対立しているかは話せないが、とりあえずどうしても勝ちたい。でもそちらとの一割の支持率差を中々埋めることができない」
敢えて不可能とは言わない。
足元を見られるから。
「だから、手っ取り早く候補者を入れ替えてしまえばあっという間に勝てると思ってな」
これほど簡単に一割の差をを埋める方法はないだろう。
しかも、ただ二人の人物を交換するだけで済む話なのだから。
「どうだ?いい支援者のはずだぞ!僕は」
叔父は正体を明かしていない。
そうなると、僕の「ブルボン家の長男」という肩書のほうが魅力的なはず!
・・・ただ、こいつは前回も僕の提案にはなびかなかったからな。
だから、もう一つ条件を付け加えることにした。
「もし、僕が支援者になれば簡単に第一党に押し上げることだって可能だぞ!」
それは政治改革をしようとしているマルクにしたら願ってもない話だ。
前回は、まだそこまでの影響力を僕は持っていなかった。
だが、今はこの国でいろいろなことを変えられる力を手に入れた。
その力は、古くからこの国で活動してきた叔父以上かもしれない。
「どうだ?お前の『陣営』にとっても美味しい話だろ?」
あくまで個人ではなく、「陣営」を意識させる。
マルク、自分の信念を優先するな!
仲間のことを考えろ!と強く言う。
ちなみに、「血の契約」についてはアルスたちと事前に相談して言わない方向で決めていた。
逆効果になる可能性があるので。
まあ、最悪それを使ってでも脅そうかな。
「・・・申し訳ないが、その話は受け入れられない」
少し間があったものの、それほど時間もかけずにマルクは返答した。
「なぜだ?」
僕は驚きつつ、理由を尋ねる。
「もちろん、君の支援を受ければ政治改革も夢でなくなるかもしれない」
ああ、そうだ。
「だが、そうなると俺の支持が失われる」
ん???どういうことだ?
「君は俺たちの党がどんな連中の集まりか知っているか?」
いいや、知らない。興味もない。
「所謂頑固者の集まりだ。腐敗した政治を正すという夢を持つ馬鹿者、石頭たちの集まりなんだよ」
そういう奴らは一定数、どこの社会にもいるんだよな。
「馬鹿で頑固な俺たちは、偉い奴らが嫌いだ。汚い金も嫌い。だから、自分たちだけで上まで行く」
チッ、めんどくさい!
「支援されるのはいいのか?」
「ああ、正当な手段で支援され、選挙に勝つのは問題ない」
そうすると、要するに叔父は賄賂も妨害も使わずに四割もの票を手に入れたのか。
「じゃあ、僕の支援は必要ないと?こちらには寝返らないと?」
「そうだね、必要ではない。まあ、支持してくれるならいつでも歓迎するけど」
僕の支援を受けない、だと?
支持をすれば歓迎する、だと?
・・・・・・フフフ。全てここまでの反応はお見通しだ。
いや、マルクからその言葉を聞けたのだから、こちらの予想以上と言うべきか?
いやぁ〜〜〜、こいつをこの席に着かせた時点で僕たちの負けは無くなった。
「さて、ではここからが本題だ!」
「???」
首を傾げるマルク。
そう、今までのは出来たらいいな、程度の交渉だった。
「お前が言った通り、僕はそちらの陣営を支持するよ」
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