第197話 作戦➁

「候補者交換作戦?あまり意図を汲めないのですが?」


だろうな。


普通推している人物を交換するなんて起こらないはずである。


今回の場合だと僕らがマルク陣営に入り、叔父たちが僕らの候補者を推すというややこしい状況を指す。


そう、普通では考えられない状況を作り出すのだ。


アルスすら考え込んでしまう。


僕も前世の知識がなかったら思いつかないような奇策。


だが、実際に史実にあったのだ。


前世の歴史において、トップを巡って二人の陣営が争った。


一人は当時トップだった男の弟。


もう一人はトップの妻&息子。


それぞれに大勢力が付き、戦は市中にまで及んだ。


でも、いつからか陣営が入れ替わっていたのだ!


この乱はややこしすぎて、全容を把握をするのが困難なぐらい双方の陣営が入り乱れた。


だが、とにかくここで重要なのが、推している奴を変えたという事実だ。


つまり、僕がやろうとしていることが実際に行われたのだ。


まあ、僕はただそれを真似をするだけなのだが。


問題はこの作戦を成功させるにおいては、いくつもの条件が必要なことだ。


それをあと一週間以内で揃えるのは無理な話。


だから、最低条件で成功させる道を導かなければならない。


「と言うことで、そこら辺詳しいところはお前らに任せる」

「・・・やっぱり丸投げですか」


分かっていたように頷く三人。


「ルイ様ならそう言うと思いましたよ」

「ニャーも最近分かるようになってきたニャ」


そんなことはどうでもいい。


「ちゃんとした意見を出せ」

「でも、その作戦は本当に正しいのかニャ?」


猫が首を傾げる。


「いいか、一割を覆すというのは難しいことだ。ましてや、相手はセバスもその人となりを掴めない叔父だ。そう簡単にはやられない。だからこそ、虚をつく作戦がベストだ」


まだ理解していないのか、唸る。


「テラ、考えてみて。一人を引き込むのと数万人を引き込むの。どっちが簡単だと思う?」

「それは、一人だけど・・・」


安直すぎる喩えだが、つまりそういうことで間違いない。


「ここで考えるべきはどうやってマルクをこちらに引き込んで、叔父陣営と切り離すかだ」


全員が頭を抱える。


「あの人は中々の強い意志を持っている人です。そう簡単にはなびきませんよ」


レーナの言っていることはもっともだ。


恐らく僕の権力を使っても屈しないだろう。


前回の交渉も互いに取引は終えた。


クソ、めんどくさい。


「金ではなびかないでしょう。人質を取るのは?」

「駄目だろう、叔父にそこを突かれる」


叔父が未知数ゆえ作戦がなかなか思い浮かばない。


「ブルボン商会から落とすのは駄目なのかニャ」


テラが珍しく意見を言う。


「・・・なるほど、悪くはない。相手の虚をつくものかもしれない・・・が成功率は限りなくゼロに近い」


相手の巣で暴れようとしたら一瞬で察知される。


何より僕自身があの商会と縁がない。


叔父がアッセンバルド家である以上、トップも落とせない。


何か隙が無いか思考を巡らせるが、出てこない。


「レーナは何か作戦はないか?」

「・・色々と考えてはいるのですが中々思いつきませんわ。相手がまた未知数ですし」


そう、そこが本当に悩みである。


「首相、或いは大臣を動かすのは・・・無理ですね」


レーナは自分の意見の穴を言っている途中で気づき、すぐに取り下げる。


今回はブルボン家対ブルボン家の戦いである。


僕が脅した奴らが向こうに助けを求める可能性がある。


何より叔父のバックにはブルボン商会と父が付いている。


僕が好き勝手できるような状況ではない。


「アルスは何かあるか?」


僕が聞くと少し考えながら、顔を上げる。


「一つ、奇策を思い付きました」


奇策?何だ?


「この対決では、要は勝てばいいのですよね。どんな勝ち方でも構わないのです。だってしっかりとしたルールは無いのだから」


確かにこのゲームの明確なルールはない。


セバス立ち会いの下での口約束。


あくまでどちらの陣営が選挙に勝つかだ。


「選挙の勝ち負けには複数あります。どれか一つでも相手に勝っていて他で負けなければいいのです」

「何が言いたい?」

「作戦は―――」



二日後、僕らはマルクとの話し合いの場へと向かった。

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