第195話 叔父
「お久しぶり、と申し上げてよろしいでしょうか?」
叔父、オルドはニッコリと笑顔で答える。
「ああ、そうだな。しかしまさかあんな赤ん坊の時の記憶を持っているのか!?」
にこやかに話しているが、未だに周囲を威圧するような覇気を出している。
僕ほどではないが、アルスぐらいの実力の持ち主だと分かる。
「それで、どうして叔父上が僕の敵陣営となっているのですか?」
「お、早速、核心をぶっ込むねえ」
ぶっ込むもなにも、そこが全く意図が分からない。
本来ならこの叔父の行動はブルボン家の損害にしかならない行動だ。
と言うか、この人はいったい何をやっている人間なんだ?
「まあまあ、数年ぶりの再会なんだ。まずは俺について少し話をさせてくれ」
ワイングラスを片手に、肘をテーブルにつく。
「少し長くなるかもしれないから、後ろの二人もそこに立ってないで席にでもつきなさい」
そう促され、戸惑いながらもアルスとレーナは座る。
目の前には料理が次々と運ばれてきて、僕も食べることにした。
「どこから話そうか。そうだな、まず、ブルボン家の決まりの一つを紹介しよう。それは、『兄弟の契』だ」
兄弟の契?
「これは、三つの決まりから成る。一つ目は、家督を継ぐ者以外はいかなる理由があろうと十八歳になれば家の家系図から表向き抹消される」
なるほど。それが、父の兄弟姉妹を見ない理由か。
「俺らは五人兄弟。兄が二人、姉が二人、そして末弟の俺」
「それで、家系図から消される、というのは?」
「前当主が選んだ人物が家督を継ぐ。それ以外は家督争いになるため全員が家を出て、名前も変えなければならない」
名前を変える?
「そう、俺の名前も実は違う。いつもは、オルド・デ・アッセンバルド」
アッセンバルド・・・・だって、まさか!
「俺の仕事はブルボン商会の管理。まあ、トップということだ」
アッセンバルド家と言えばブルボン商会を長年管理している、伯爵家相当の家だ。
「婿養子として入ってね。ちなみに姉上たちは別の貴族に嫁いでいるんだよ。名前を変えて。こうやってブルボン家は家の掟に従うことで家督争いを避け、長きにわたり安寧を保ってきた」
それが兄弟のいない理由。つまり、一子相続・・・か。
「と、言ってもほとんど形だけだけどな。大方の貴族は事情を知っているから、あくまでブルボン家の伝統としてそうやっているだけ。だから、今でもちょくちょく裏で兄弟姉妹で連絡も取り合っているし、たまに会ってもいるよ」
ブルボン公爵家の過去数百年の繁栄は、この伝統に拠る部分も大きい。
ただ、よそから見ればノーマルではないが。
「さて、二つ目の決まりは一つの国に男兄弟たちがいてはいけない、という決まりだ」
「は?それはどういうことですか?」
その理由が読み取れない。
「ラノルド兄上は帝国に、そして俺はこのアメルダ民主国で主に活動をしている。もう一人の兄も第二大陸にいる。だから、俺はブルボン商会のトップだが実質的運営は嫁の弟、つまり義弟がやっている」
ややこしいな。
「そういうわけで、俺はここアメルダ民主国のブルボン商会支部長をしている」
何故そんな決まりがあるのか分からないが、まあ、それで結果、我がブルボン家が繁栄しているのならそれでいいのだろう。
「そして最後の決まりが、次代の当主は俺ら兄弟の同意を得ないと駄目だ、というものだ」
そのオルドの言葉を聞いた途端、場の空気がピリつく。
「もう少し具体的に・・・」
「もちろん現当主が次期当主を決める権利がある。ただ、俺ら兄弟だって元はブルボン家。家の掟により当主になれなかったとは言え、大きな発言権は持っているんだ。だから、当主の兄弟たちに認められて初めてブルボン家の跡取りと正式に認められる。それが我々ブルボン家代々の決まりだ!」
だからこそ優秀な当主を輩出してきたというわけか。
そう考えると、ブルボン家の掟はなかなか合理的な家存続システムだ。
「で、その同意はどうやったら貰えるんですか?」
「ははは、気が早いな。と言うか、俺を引き込みたいのではないのか?」
「そんなの別にどうだっていいです。最悪一議席失っても痛手はない。それより、叔父上の同意のほうに僕は興味がある」
僕が当主になれるか見極める、だって?上等じゃないか!
僕がどれだけ選ばれた人間か、どれだけ優れているか、目にモノを見せてやる!
まあ、跡取りになっていない時点でこの叔父が優秀ではないことは明らかだが・・・
「おい、今、何か失礼な事を考えていないか?」
「いえいえ、とんでもない!」
ジトッとオルドに睨まれる。
「兄上から聞いた通り、生意気なガキだな?」
「いえ、負けい―――叔父上ほどではありません」
叔父さん、悪いがあんたとは違う。僕は正真正銘の”嫡男”なんだ。
「俺の威圧にも動じないし、叔父相手にも煽ってくる。・・・あの兄上、ラノルドの息子とは思えんな!・・・でも、」
チラッとアルスたちを見て言う。
「慕われているようだな」
ん???いや、それは無いだろ。
こいつら、従者のくせに主人を平気でおちょくってくるのだぞ!
「まあ、とりあえず。お前は当主になりたいんだな?」
「ええ」
「何でだ?」
「それはもちろん、そうなる運命であり、そうなるために生まれてきた存在だから・・・」
そう答えると、叔父オルドは何故か頭を抱えだす。
ん???何か、おかしいことを言ったか?
「よしっ!じゃあ、もうこうなったら男と男の勝負だな。それで、同意できるかどうか見極めてやる!」
「望むところです。で、どんな勝負ですか?」
「ずばり、ターダス地区での選挙にお前が俺に勝ったら同意してやる!」
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