第194話 謎の存在
マルク陣営の謎の男。
アルスに調べさせて一週間経つが、一向に分からないまま。
「おい、例の支援者はまだ分からないのか?」
「ええ、それがよくわからないのです」
難しい表情をする。
「この国生まれとも、帝国生まれとも、別の国から来たとも言われている謎の存在です」
アルスが調べてもよくわからない存在か。
「ただ、一つだけ情報を掴みました」
「何だ?」
「それは、セバスさんがその謎の人物についてよく知っている、という情報です」
な、何だと!
「本当か?」
「確証はありませんが」
それはいい情報だ。
「アルス、お前がそう言うのだから何か少しでも確証はあるのだろう?」
「はい、実はセバスさんがその謎の男と会っている場面をテラが目撃したそうです」
何と、それは有益な情報じゃないか。
さっさと言えよ・・・いや待てよ。少しおかしいぞ。
「ルイ兄様の疑問はもっともです。あのセバスさんがテラに見られているのを気づかない訳がありません」
その通りだ。確かに急成長しているテラと言えど、セバス相手には気配を気取られるはず。
セバスはわざと見せたのか?
「まあ、本人を呼ぶしかないな」
「お呼びでしょうか、ルイ様」
「うわっ!」
突然背後からセバスの声がして、思わずひっくり返りそうになる。
「おどかすな!セバス、なんでお前がいる!」
「いえ、ただアルスくんが呼ばれた時点で私も呼ばれると思いましたので」
相変わらず、勘のいい男だな。それはそうと、つまり、さっきのアルスの話は本当ということか?
「何を隠している?」
「いえ、何も隠すようなことはありません。ただ、もしルイ様がその人物に会いたいとおっしゃるのなら、席は設けられます」
駆け引きも何も無い。
「・・・何でそんなに素直なんだ?」
その問いには答えず、セバスは一枚の紙を僕に渡した。
そこには日時と場所が書かれていた。
どこまでも有能な執事だな。
そして三日後。
僕たちが招かれたのは屋敷の近くにある、古い料理屋。
名前を受付で言うと、奥の個室へと通される。
呼吸を整えながら、その部屋へと向かう。
そして入室すると、そこには二人の男がいた。
一人は見知った執事、セバス。
そして守られるように席についていたのが、三十代ぐらいの男だった。
金髪でシュッとした顔立ち、頭には深く被った帽子を。
全身をベージュ色のコートで身にまとい、身長はどのぐらいかよくわからない。
どこか厳格な時の父を前にしているような、威圧感があり大物だとわかる。
この国のエセ大物とは違う、相手を後ずさりさせるような強さがある。
「君が俺に会いたいといった、ルイ・デ・ブルボンか」
謎の男の力強い声色が耳に届く。
だが、これで確信した。
やっぱりそうだ。
喉に引っかかっていた疑問が取れた。
「こんにちは、謎の人。いえ、叔父上」
僕の言葉に一同が驚きの顔をする。
「どうしてそう思ったのだ?」
男の、いや叔父の質問に答える。
「まず一つはセバスと親しいと言うだけで、ある程度絞れますよ」
公爵家の執事をやっている以上、まずセバスが敵派閥の刺客とはありえない。
過去などは徹底的に洗われる。
つまり、謎の男は身内である可能性が高い。
「次に、父に兄弟がいないこと」
これは長年の疑問だった。
貴族は本来、子を沢山産ませるのだが今までに父の兄弟と言われている人に会ったことがない。
じゃあ父は一人っ子なのかと言えばそうではなく、父の書斎にあるブルボン家家系図には知らない名前が載っていたことを記憶している。
おそらく何らかの理由で兄弟の存在を隠していると予想できる。
そしてその理由はたぶんブルボン家のため。
きっと裏で僕が知らない何かをやっているのだろうと推測できる。
「そして最後は、僕の遠い昔の記憶ですよ」
僕は0歳からの転生者だ。
一般には幼児の記憶の開始は言語の獲得時期と重なり3歳前後と言われているが、転生者ゆえに0歳からの記憶も多少ある。
その中で父と親しげに喋りながら、まだ赤ん坊の僕を抱きかかえていた男こそこの男だった。
今、その声を聞いて確信した。
「どうです、合っていますか?」
「・・・ふふふ、まずは合格だ!」
叔父は帽子を取って、笑顔で名乗る。
「そう俺はラノルド兄様の弟で前当主の三男、オルド・デ・ブルボンだよ!」
―――
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