第193話 選挙
選挙が始まると、予想通りと言うべきか。
どこの選挙区でも親ルイ派候補は優位に立った。
金、弱み、脅し・・・
何でも使ってこの民主国家の選挙をぐちゃぐちゃにしてやる。
まずは、基礎票を奪うこと。
これは簡単だった。
金に糸目をつけけないでどんどんバラまけば勝手に人はなびいてくる。
何よりブルボン家の名前の力は凄まじい。
それだけを使っても多くの基礎票を奪える。
更には相手陣営への妨害。
対立候補の選挙ポスターを破ったり、相手の選挙事務所に嫌がらせを仕掛けたり。
もちろん、訴えられてもいいように選挙管理委員会や大手新聞社にはあらかじめ賄賂を渡している。
なので、よっぽどの事じゃない限り裏で黙って苦情処理されて何も言われない。
更にライバル陣営の切り崩しも。
弱みを握っている対立候補を脅し選挙から引きずり降ろしたり、支援者の醜聞を広め貶めたり。
不正のない綺麗なクリーンな選挙を!だって?
そんなの知るか!って言うか、そんなもの何処で行われているのだろう?
前世の僕の家にはしょっちゅう大物政治家たちが来ていた。
彼らがよく話すのが次の選挙のこと。
大方、票の取りまとめや資金支援のことだった。
「地盤、看板、鞄」とよく言うが、選挙に勝つには、組織や人脈、名前、お金、がある奴が勝つ。
「不正」なんてバレなければいいのだから。
綺麗ごとだけでは選挙は勝てない。
人が人を選ぶというプロセスには綺麗ごとや論理だけではない、もっと非合理な側面、人間臭い要素が含まれることを正直に認めなければならない。
だいたい本気で自分たちの議員を選ばうと投票しに行く奴がこのアメルダ民主国にいったい何人いると言うのだ?
どうせ組織のしがらみか、イデオロギーにまみれたプロ市民か、もしくは何となくで投票に行っている奴らがほとんどだ。
そういうエセ市民どもが好きそうなものを与えたり、見せたりして、こちら側に誘導するだけで簡単に勝てるのだ!
ガハハハハハ!!!!
「相変わらずですね、ルイ兄様」
隣でいつも通り書類整理をしているアルスが言う。
「どういう意味だ?」
「いえ、いろいろな意味でですよ」
ふん、選ばれた者にしか分からない思想だからな。
アルスには理解できん。
「そう言えば、ルイ兄様」
「何だ?」
「実はターダス地区選のことですが・・・」
神妙な顔つきで僕の正面に近寄って来る。
「どうやら劣勢との報告です」
「はぁ?先日は優勢という報告が来ていたが?」
「たぶん、バレたくなかったのでしょう」
だろうな、馬鹿め。
なんで噓をつく?見栄か?くだらない!バレたら、より痛い目に遭うだけだ。
「で、対立候補は誰だ?」
「それが・・・」
「もったいぶらずに早く言え!」
「マルクさん、とのこと」
・・・・まじで、誰だ?
「ルルドくんの父君です」
「・・・ルルド?ああ、あの精霊術に関する地図の持ち主の、僕が助けた、いじめられっ子の親父か」
確かに、あいつの父親は活動家だったな。
「ふむ、しかしこっちが劣勢か」
「ええ、まあ」
なかなかやるな。
「で、どういった形で相手は政治主張を訴えている?」
「それが、地味と言うか堅実なんですよ」
「堅実?」
「ええ。一日に何度も街頭演説をして選挙区を精力的に回り、そのたびごとに有権者や応援している人々と欠かさず交流・・・まあ、普通と言えば普通です」
「ふ~ん、そう、か・・・」
では何故今こっちが不利になっているんだ?
「なあ、その選挙区、まさかもう一人候補者がいたりしないか?」
「・・・ご明察です。実はもう一人の対立候補とこちら側陣営は争っていました。そこにマルクさんが食い込んできて、抜かれました」
つまり、だ。
「こっち側の候補者陣営の有力な後ろ盾が裏切ったのか?」
「はい、おそらくは・・・でもまだ推測段階で、調査中です」
面白い。どうやってその後ろ盾を敵側は手に入れたのか、どうしてそいつはこちら側と敵対するのか?
その選挙区に少し興味が湧いてきた。
「他の選挙区ではどうだ?特に変化や影響は?」
「今のところ確認されていません」
なるほど、ターダス地区だけ・・・か。
「何かほかに有益な情報は無いか?」
「今のところありません」
ふむふむ、なるほどね。
僕のことを、僕の存在を否定しようとする奴がいる。
必死になって抗おうとする奴がいる。
フフフ。馬鹿な蟻ンコさんがいたもんだ。
でも、お前がもし全力で抗う気ならこちらも全力で潰させてもらおう。
それが選ばれた者の美徳であり、誠意というものだ!
そいつにぜひ会って、一発メガトン級のお見舞いをしてやる・・・
ニタニタした笑みを浮かべるルイの横顔を見て、傍で呆れるアルスであった。
―――
次の投稿は7月12日です。
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