第165話 訓練 (テラ視点)
ニャーが手足を取り戻してから数日。
体に急に色々な負荷がかかったせいか発熱が続き、ベッドでずっと横になっていた。
本当はすぐにでも体を動かしたかった。
だが、アルスたちがそれを許さなかった。
熱も下がり、ヌアダが来て一回目の義手のメンテナンスが終わったところでようやく、まずは歩行訓練から始めた。
想像以上に両足は重く、思うように交互に動かせない。
今にして思うと、足が再生された直後、あの日あの時、なぜ動かすことができたのか不思議に思えた。
それでも訓練を開始してから約一週間後には、歩いたり走ったりすることができるようになった。
ニャーのこの回復力の早さには周囲の人たちも驚いた。
次に行ったのが手指を動かす動作訓練。
この訓練は歩行訓練よりさらに難しかった。
まず義手だからなのか、思うように手指をコントロールできなかった。
約二週間ほどはスプーンすら何度も落とし満足に持つことさえできなかった。
それでも訓練を続け、寝ても覚めても訓練の事だけを考えていたからか、手指の感覚も取り戻し始めた。
リハビリ期間中、アルスは付きっきりで、レーナもよく顔を出してくれ、使用人の人たちもあたたかく応援してくれた。
ただ、あのルイと呼ばれた人だけは、あの日以来、一度も顔を見なかった。
そのことを、ふとアルスに聞いてみると、
「えっ、ルイ兄様?ああ、あの人は自分に興味がないと来ないからね」
と言われた。
人にあんな痛い思いをさせておいて悪びれもせず放置する。そういう傍若無人な行動や態度にふつふつとまた怒りを覚えた。
いつかこの手で暗殺してやる!という復讐心も糧にして、なんとか、つらいリハビリを続けた。
手足を取り戻してから、ほぼ一ヶ月。
ようやく(おそらく普通に比べると超人的スピードで?)、日常の生活を送れるくらいまで回復してきた。
次に待っていたのが、戦闘訓練だ。
待ち望んでいたのでウキウキで・・・あれ、何でニャーは戦闘が―――いや今は考えるのは止めておこう。
あいつ(ルイ)を倒す!それがニャーの心を突き動かす。
「テラ、じゃあ早速自分に襲いかかってきてみて!」
ジャージに着替えて屋敷内の練習場と呼ばれる場所に到着するやいなや、アルスが言う。
壁際には、剣や盾、槍や弓矢、ナイフ、甲冑など多種多様な武器や武具が並べられていた。
ニャーは迷わずナイフを手に取り、すぐさまアルスに向かって駆け出す。
アルスは剣を構えていたが、若干の隙があった。
「土なる精よ、隠し給えよ、そして煙となれ、【ソイル・ロー・ビーハイド】」
そう地面に向けて魔法を唱えると、魔法陣が展開され、一瞬で土煙が部屋に充満する。
ニャーを見失って周囲を見回しているアルス。
恐らく、【サーチ】を使ってニャーを探しているのだろうけど、甘い。
暗殺者には特有の「隠密スキル」がある。
気配を消すぐらいはお手のもの。
気配を消しアルスの背後へと素早く回り、首元めがけてナイフを振り下ろして寸止めしようとした、その瞬間、
キッーーーン!
明らかに隙を狙っていたナイフは、いとも簡単にアルスの剣によって弾き返された。
あれっ!確かに今、首元を捉えていたはずなのに!!
咄嗟にそう思いながらも、すぐさま距離を取って離れる。
「どうしてニャーの攻撃が当たらなかったの?」
アルスに質問をする。
「う〜〜〜ん、なんて言うか、その攻撃は自分には効かない」
「効かないニャ?」
「うん。ルイ兄様の護衛で何度も暗殺者と対峙した経験がある。だから、普通に隠密スキルくらいは見破れる」
そう、なんだ・・・
「でも、やっぱり速いね!もう少し、スキルをうまく使ったほうがいいよ」
「うまく使う?」
「うん。なんて言うか、『ただ暗殺するだけ』みたいになっている。『堂々と倒す』という意志や思考がないから、どうしても強い一手が打てていない」
それってどういう意味??
「暗殺者は基本的に相手に気付かれないように倒すでしょ?でも、格上の相手と正面で対峙した時には、すぐやられてしまう・・・例えば、さっきテラは自分の隙を狙ったよね?」
「うん」
「実はあれ、自分があえて作った隙、誘った隙だった。だから、テラの攻撃は想定内。避けることもできるし、逆に、次の反撃をどうするか相手より一歩先にイメージできる・・・なんて言うか、自分の思うように相手が行動するよう仕向ける。これは戦闘の基本でもあるんだよ」
要するに、相手を誘導する、ってこと?
「大事なのは、相手の考えをどれだけ超えられるか?場を支配し、自分のシナリオ通りにどれだけ状況を展開できるか?・・・結局、最後に勝てばいいのですから」
「・・・アルスの言っている事、よく理解できないけれど、もう一度やってみるニャ!」
今度はもっと体勢を低くして、アルスをよく観察した。
さっきは相手のどこかに隙はないかと探すばかりであった。
しかし、ふと、引きで相手の全体を見ると違和感を感じる。
隙はすぐに見つけたが、その小さな隙以外は完璧であった。
全体を見るとその隙がいかにも不自然であることに気づく。
「なら、」
ニャーはあえてその隙に飛び込んだ。
正面から懐に入り、足を払う。
それを避けるように後ろへと下がったアルスめがけて、手元のナイフを投げる。
相手の思い通りのことをさせない。
暗殺者はターゲットとなる相手の考えなど頭に入れない。自分がしたいように殺す。相手に予測などさせない。相手の隙を狙って、不意打ちにするだけだ。
それを基本にしてきた。
その思考パターンは今でも頭から抜けていない。
でも、今こうして、自分より強い敵と対峙する時、あの時なぜ負けたのか理解できる。
どうして暗殺者が護衛の騎士にやられるのか分かった気がした。
こちらが勝手に想像していたことを超える行動をする。
その展開についていけないから、やられる。
ニャーは投げたナイフと同じスピードで距離を詰めた。
武器はナイフだけじゃない。
ニャーにはこの義手がある!
ナイフを避けた際にわずかに生まれたアルスの本当の隙を狙って、義手を戦闘モードで起動する。
一瞬のことで、どうやったかは説明できない。
でも、気づいたら起動できていた。
ニャーは勢いのままアルスに武器化した義手を振り下ろすのだが・・・
「上出来です!」
隙だらけだったアルスの首元に何かが発動される。
キッーーーン
何が起きたか分からなかったが、とりあえず、次の策をたてなければ―――
と、思ったのもつかのま、
ニャーはそのまま意識を失っていた。
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