第164話 義手
僕から義手を受け取ったヌアダが、魔力を込めながら弄りだす。
しばらくすると、腕とつなげる義手の接合部分がパカリと開く。
「一瞬激痛に襲われると思うが、我慢して」
「は、はい」
再生された腕を差し出すテラ。
目をぎゅっと瞑り、体に力を込める。
「動かないでね」
そう言いながら、ヌアダは思いっきり腕に義手を差し込んで閉じる。
「う”う”」
苦しそうにうめき声を出すテラ。
「治癒魔法をお願いできるか?」
「はい。私がやります」
レーナがすぐさま傷口を塞ぐ。
「もう片方も同じことをやるからね」
そう言って、もう一方の腕にも同じように義手を取り付けていく。
取り付けが終わったところで、またレーナが治癒魔法をかける。
「これでおしまいだ。これから数日は安静にしておいたほうがいい。まだしばらくは体に大きな負担がかかるだろうし、慣れる時間も必要だからな」
テラに装着した義手をさすりながら、ヌアダは淡々と言う。
「とにかく、まずは慣れることが一番だから―――」
だがテラは、ヌアダが話している途中、急に立ち上がる。
先程のようなフラつきは無いが、それでも両足が小刻みに震えている。
まだ辛いのだろう。
片方の足を一歩前に出して、僕に義手を向ける。
「暗殺用の義手」と注文したためか、義手が一気に変貌した。
魔法か?突然指の上に先の鋭い爪が装備される。
指も先程より伸び、まるで一本のナイフのようにキラリと光る。
「おい、何のまねだ?!」
僕にその手を向けて威嚇してくる。
「ニャーにあんな痛い思いをさせておいて!」
「はぁ?義手が手に入ったんだから、いいじゃないか?」
「他に方法はもっとあった、ニャ!!」
ニャ?
「ふん、どっちにせよ、奴隷に選択権はない!もう一度言っておくが、お前はウチの物だ!」
「ニ、ニャーは、お前のモノなんかにはなりたくないっ!!!!」
そうわめきながら、テラは一歩踏み出して、こちらへと素早く鋭い爪を振り下ろした。
さすが元暗殺者。体の痛みを我慢しながら、しかも一年以上歩いていないとは思えないスピードで攻撃してきた。
だが、それでも遅い。
本気を出し切れていない。
僕は自分よりも小さなその体よりも、さらに体勢を低くして相手の懐へと入る。
そして、武器と化した手が振り下ろされる前に足を払い、バランスが崩れたところで腕を掴み、軽く投げる。
「えっ?!」
相手にしたら、急に天地がひっくり返ったような気分だろう。
地面に背中から落ちていくテラに、アルスはすぐさま近寄り、そのまま抱きかかえた。
「え、あ、ありがとう・・・」
顔を赤くしながらテラは礼を言う。
アルスも顔を赤くしながら返す。
「どういたしまして」
???おい!おい、お前ら!そこで何をしている?!
何なんだこいつらは?
まあ、いい。
「これで分かっただろ。お前は僕にかなわないんだ。せいぜい、力を取り戻してからまた来るんだな!」
「・・・・何で?」
アルスに介抱されたテラは、悔しそうに僕を見上げる。
「何でか、って?答えは簡単だ。僕は貴族、お前は奴隷、だからだ!以上!」
そんなの当然だ。
選ばれた人間、だから勝てるんだ!
アルスとレーナは呆れたような目で、ヌアダは厳しい目で、僕を見る。
「まあ、とりあえず。テラちゃんは休ませた方がいいな」
ヌアダは、そう言って立ち上がった。
「そのモードを使うと体力を使う。無理をしない方がいい」
「モード?」
「その義手は、普段は普通の手として起動しているが、戦闘モードに切り替えることもできる」
「さっきの爪か?」
僕の質問にヌアダが頷く。
「獣人だから、おそらくそのほうが使いやすいと思ってな。一応、戦闘モードでも物は持てるし普通に暮らせるが・・・より体力を奪われる」
「魔力を使うのか?」
「そうだ。何せ、魔道具だからな」
そうだった。こいつが作るのは魔道具だった。
「それにしても、まさか、この俺が人殺し用の義手を作る日が来るとは思わなかった・・・」
悔しそうな表情で地面を睨む。
「おいおい、そんなにがっかりするな!奴隷もそうだが、魔道具にも色々な使い方があるだろ!」
「・・・本当に悪だな」
「ルイ兄様、そこら辺で」
ヌアダの表情を見てアルスが止めに入る。
「いや、俺は大人だから現実も理解している。お嬢ちゃん、みんなも言うように当分は安静にしておけ。それから、これでも職人の端くれだ。自分が作った義手の定期的なメンテナンスは責任を持ってやる。それでいいか?だからもう、家族は解放してくれ!」
「ああ、それは約束する・・・なんなら、このまま雇ってもいいぞ?」
「それはごめんだ!」
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