第163話 経緯

「義手・・・ですか」

「ああ、そうだ。しかも元の手のようになめらかに動かすことができるすぐれものだ」


木箱の中にベルベットの柔らかい赤い布に包まれた、五本の指の生えた両手が黒く妖しく光っていた。


全員が思わず見惚れてしまうその美しさ。


「こんなに美しいものを・・・これ、どこで手に入れたんですか?手のサイズも、テラにちょうど良さそうですね」


そう言って、僕の顔を見ながらアルスが聞く。


「ふっ、それはもちろん、こういう身体の欠けた部位を補う魔道具を作っている一流の職人に依頼したのさ」

「こんな芸術品のような美しい義手を作れる魔道具職人が、いるんですね」

「ああ。世界でそいつしかそういう義手は作れないらしい」


そう僕が答えると、アルスは何かを察したような目でこちらを見る。


「な、なんだ?どうかしたか?」

「いえ。ただ、これを作るのに、事は穏便には進まなかったのではないか・・・と考えてしまって・・・」

「それは、どういう意味だ!」


だが、そう言って無言で、じっとしているアルス。


その沈黙に負けて、義手を手に入れた経緯を話した。



アルスがテラの面倒を見ていた頃。


セバスを煽るのに飽きた僕は、この奴隷の別の使い道を探していた。


すでにその時にはレーナから再生魔法を使うという案を受け入れていた。だが問題は、手を再生する技量がまだレーナには無いということだった。


かと言って、レーナができるようになるまで待つには時間がかかりすぎる。


そこで、たまたま耳にしたのが義手や義足の魔道具を作れるという職人の噂だ。


噂ではなんでも、困った人には無償で提供し、金持ちからは大金を取っているという怪しい人物だ。


だが、ウデは確かなようで、身体の一部を失った何人もの人々をまた以前のように普通に生活が送れるようしてきたらしい。


どうやら今はこの国にいるらしく、さっそく訪ねたのだが・・・


「帰れっ!!」


レーナとともにその人物を訪ねるなり、いきなり門前払いをくわされた。


「はぁ!?まだ何も用件を言っていない。どういうことだ!?」

「長年の勘で分かる。あんたは私に作らせた義手か義足を使って悪さしようと考えている。そうだろ?」


そのがっしりとしたガタイには似つかない鋭い言葉でこちらを牽制する。


「さあ、何のことやら?」

「ルイ・デ・ブルボンさん。あんたの噂が最近、出回っているんだ。奴隷をこき使ってひどいを仕打ちをしている、ってな!!」


なに!僕が奴隷にひどい仕打ちを、だって??


何が悪い?主人として、こき使って当然のはずだが・・・


「おい、話ぐらい聞け!金だろ?金ならあるぞ!!」

「なめるな!金で釣られると思ったら、大間違いだ!!」


そう言って、バタン!と扉を閉めて部屋の中へと消えていった。


「・・・・・・糞がっ!!」

「・・・ルイさま。失礼ですが、世の中、身分や家柄だけが全てではありません。ああいう方もいるのです。とくにこの国の場合には・・・」


無駄に説得感がある・・・が、そんなことは僕は断じて認めない!!


何としても、奴に分からせてやらねば!!!


そうしないと、この世界に転生した僕の存在理由が無くなってしまうからな。


僕はそこから二日間、レーナに職人の行動を逐一見張るよう命じた。


そして成果はあった。


あの職人の弱点はただ一つ。


家族がいること。


妻、そして五歳の娘。


レーナからその報告を聞いて、僕は”凄い作戦”を思いついた。


「よし、レーナ。家族を人質に取れ!」

「それって”凄い作戦”・・・ですか?」

「ああ、そうだ!貴族の恐ろしさを知らしめるには、ちょうどいい」



その後、どうやって作戦を遂行したかは知らないが、普通にレーナは屋敷へ奴の妻子を連れてきた。


それを確認した僕は、すぐに職人のいる仕事場へと向かった。


家族を誘拐したことを伝えると怒り狂ったように剣を抜き、僕に襲いかかってきた。


だが所詮、剣の腕は素人。


簡単に避けて再度尋ねた。


「作ってくれますよね?!」



「ルイ兄様!!それは立派な脅迫です!全然、事の経緯が穏やかではありませんよ!」

「なんてひどい奴だ!やっぱり、屑だニャ!!」

「ルイさまの横暴を止めることができなかったのが、私の罪です!」


三人まとめて僕に罵詈雑言(?)を浴びせてきやがる。


「そうだな、賛成に一票!本当にひどい奴だ!!しかも、一日でそれを作れと言うしな・・・」


そう言いながら部屋に入ってきたのは、話に出ていた職人だった。


「で、家族と会えたのか?」

「お陰様で、な。傷一つ無く。そこの小娘、レーナとか言う従者に娘も懐いていて、逆に嫉妬したぞ!」


こいつの家族には一切危害は加えていない。


それは貴族としての僕の矜持に反するからな!(ま、人をさらっておいてどの口が言っているんだ?!と非難もおありだろうが・・・ハハハ)


それに、むしろ彼女たちが”人質”の期間は、一流ホテル並みの部屋と食事、待遇を与えていた。


「貴方は?」

「申し遅れた。その義手を作った職人、ヌアダだ。それにしても、本当に獣人を救おうとしていただなんて」


なに?誰を救う、って?僕が、か?・・・馬鹿馬鹿しい!


「誤解するな。あくまで、奴隷を使い物になるようするためだ」

「はいはい、そういうことにしておくよ!」


くそっ!何だ、この余裕は?!


お前、図に乗るなよ!後で覚えてろ!


「じゃあ、義手を取り付けていくぞ」

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