第162話 再生魔法と

「ルイ兄様!これは!?」


アルスが困惑と怒気を含んだ表情で僕を見つめる。


「再生魔法だ。とりあえず、その拘束具を解いてやれ」


僕はレーナに指示をする。


レーナが丁寧に拘束具を解いた瞬間、獣人奴隷が勢いよく上半身を起こす。


「殺す、殺す殺す殺す!!!!!」


殺意のこもった目で僕を睨む。


そして髪を猫のように逆立て、勢いよくベッドから飛び降り、こちらに突進してきた。


だが、何故かアルスもレーナもそれを止めようとしない。


奴隷が僕に攻撃をしようと足を一歩踏み出した瞬間、


「えっ!?」


グラッと態勢を崩した。


床に転びそうになったところをレーナとアルスが両脇から支えた。


「無理しない方がいいよ、テラ。君は一年以上も歩いていないんだ。体が歩き方を忘れている」

「ええ、そうね。しかも新しい肉体を我が物とするために、体力もひどく消耗しているわ。しばらく、しっかり休養したほうがいいわよ」


二人が声をかける。


テラ???あぁ、この奴隷の名前か。


「でも、そいつは!!!そいつが、急に!!」


捕食者のような鋭い眼光で再び僕を睨む。


「・・・まあ、ルイ兄様だから、ね。一応治ったのだから少し落ち着いて」

「・・・そうですね、ルイ様ですから。私は治療のことは聞いていましたけれど、あんな風に手荒にやるとは聞いていませんでしたよ」


おい!お前ら!さっきから、「僕だから・・・」って何なんだよ!!


「別に、何でもありません」

「ただ、いつもの事、と言いたかっただけです」


こらっ!心を読むな!!!


・・・ふうー、まあ、いい。


「とりあえず、奴隷・・・テラ!話がある。そこら辺に座れ!」

「ルイ兄様、流石に病人を地面に寝かせるわけにはいきません」

「私が用意するので少々お待ちください」


そう言ってレーナは部屋を出ていった。


残った僕らだが、目の前の二人はコソコソと話し出す。


「ねえ、あいつがアルスが言っていたお兄様?主人?なのか?」

「そうだよ」

「思いっきし、クズじゃないかニャ!」

「いや―」

「まさに物語に出てくるような、ザ・悪役貴族じゃん!」

「まあ、それも否定できないけどね・・・」


アルスがちらちらとこちらを見ながら笑う。


「でも、根はいい人だよ」

「だけど、」

「確かに乱暴で自己中心的な面があるかもしれないけれど、それでも自分には仕え甲斐のある主人だよ」

「そうなのか?」

「だって、やり方は荒っぽいけれど君の手足を戻したのはルイ兄様じゃん!」

「いや。治したのはレーナだし、手がまだ戻ってないニャ」

「ふふ、確かにそうだね」


何故アルスは笑っている?


「おい、そこで何の話をしている?」

「それは、秘密です」


!!なに?!従者が主人の前で”内緒話”だと!!!


「許せん―」

「すいません、毛布、数枚しかありませんでしたが・・・」


アルスを刺しに行こうと覚悟を決めた瞬間、レーナが大きな毛布を抱えて部屋に戻ってきた。


僕はとりあえず怒りの矛先を収め、テラが座るのを待った。



「あのー、ルイ兄様。先ほどの―」

「ああ、再生魔法についてか?提案したのはレーナだ」


アルスとテラが、レーナの方を見る。


「はい。ルイ様の調べ物を帝国で手伝っていた際、たまたま見つけたのが再生魔法についてでした」


そのレーナの説明によると、治癒系魔法は主に二つある。


誰でも習得できる回復魔法と、才能がないと使えない治癒魔法。


だが、実は知られていないだけでさらにその上位には再生魔法、正式名称は「再生治癒魔法」と呼ばれるものが存在する。


治癒魔法のように傷を治すだけでなく、肉体そのものを再生(つまり、なくなった部位を作り出す)できるより強力な魔法だ。


ただし、実際にはこの魔法の核となる”イメージ”が難しいため、これまで習得者もほとんどいなかった。


再生魔法を使うためには、まず体の器官や構造をよく理解し、それを視覚的・立体的にイメージ化でき、さらに魔法で再構築する必要がある。


よほどの魔法使いでないと扱えない。


だが、レーナは扱うことができた。


「じゃあ、何でニャーの両手は再生できていないの!?」


テラがもっともな質問をする。


「・・・それは、手の構造がとても複雑だからです」

「複雑?」

「ええ。手は足に比べると、筋肉、骨、神経がたくさんあって、より複雑に重層的に構成されている部位のひとつ。だから、今の私の能力ではまだ難しくてイメージできませんでした。ごめんなさい・・・」


ちなみに僕は再生魔法は使えない。


医学書をひっくり返して覚えるのもめんどくさいし、使えるようになりたいとも思わない。


「足は何とか作り出せたんですが・・・」

「まぁ、前よりは、奴隷として使い物になるようにしたんだから、いいんじゃないか?ガラクタ同然だった奴が自分の足で歩けるようになったんだから、少しはマシな買い物になったというもんさ!!」


僕の言葉に呆れるアルスとレーナ。


「人を物扱いしないで!」

「ふん、勘違いするな!お前の所有者は僕だからな!!」

「なっ!シャー!」


威嚇するように尻尾と髪を逆立てる。


はぁ〜〜〜、こいつは奴隷のくせして忠誠心はおろか、主人への敬意、というものがまるっきりない。


これだから獣人は・・・


「ですがルイ兄様。テラに何をさせるおつもりですか?」

「元暗殺者なのだから、暗殺に決まっている・・・何だ、なにか不満か?」

「いえ、ただ手がなければ仕事もできないと思いますが」


なるほど、なら心配はない。


「安心しろ、手はまだ再生できないだろうと思って、あらかじめ代わりになるモノを作っておいた」

「代わりになるモノ?」


僕は一旦自分の部屋に戻り、とあるモノを持ってきた。


「ルイ兄様。それは、何ですか?」


モノを目にしたアルスが訝しむ。


「これは、いわゆる義手だ。神経と繋げることで手と同じように動かせる」


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