第159話 テラ (アルス視点)
自分がここ最近している仕事は、獣人奴隷の少女テラと会話することだ。
そこまでお喋りではないテラだが、少しずつ自分に心を開いてくれている。
「なあ、テラ。何で一人称がニャー何だ?」
自分の質問にテラは少しムッとする。
「また馬鹿にしているの?」
「いや、単純な疑問だ。自分は獣人のことはよく知らないから」
テラは少し俯いて、答えた。
「ちなみに獣人って、どのくらいの種族に分かれているか知っている?」
その質問にしばらく考える。
「・・・たしか、猫系や犬系がいて、さらに、その他、に分かれているんじゃなかったっけ?」
「なにそれ、すごーい大雑把!」
でも、そうは言っても学校の教科書には詳しく書かれていない。
一般に、彼らについてはみんな詳しくは知らない。おそらく、獣人族の文化や社会についての資料も少ないのだろう。
「ニャー達の中では、獣人族はもっと細かく分かれている。例えば他に、馬系、ネズミ系などなど」
「言われてみると、そういう獣人もいるという噂は聞いたことがあるけれど、見たことはない」
「基本的に森の奥地で暮らしている種族が多いから、見かけることはほとんどないから」
なるほど、外界との接触を絶っているのか。
おそらく、そうでもしないとモノ好きな人間達に狩られてしまうからだろう。
「それから、獣人族の中で一番力があるのが、犬系と猫系で・・・」
「たしか、それぞれ小さいながらも王国を作っているよね?」
第二大陸にたしかあったはず。
あのあたりの地域は、獣人に対する差別はそこまで酷くない。
「うん、そう。ニャーもそこ出身」
「へぇ〜〜〜!」
本当は、奴隷として売られるまでの経緯をテラに聞きたかったが・・・それは流石に今はまだやめておこう。
「ところで、何でニャーはニヤーと言っているんだ?」
「やっぱり馬鹿にしてるでしょ!!!」
「あ、バレた」
「当たり前だ!!!」
そんなふざけ合いが続く。
「でも、本当に疑問に思っているんだ。例えば他には、語尾に”ニャン”とかは付けないの?」
「それは・・・なくはない。ただ、ニャーは自分が獣人であることを誇りに思っているからこそニャーと言う!」
獣人族は誇り高い、というのは聞いたことがある。
文明の発達が遅く、魔法の扱いもままならない代わりに、彼らの身体能力は人間をはるかに超えている。
そのため、獣人は奴隷として護衛を任されることが多い。
他の種族は知らないが、とくに猫系と犬系は、その超人的スピード能力についてはよく耳にする。彼らは人間よりも速く、長く走ることができる。
テラが奴隷になる前は暗殺者として働き、一族もそういう家系だったらしいが、ひょっとして猫系は「隠密」が得意なのかもしれない。
猫は身軽で敏捷そうだし、夜目も利く。入れなさそうな細い隙間も難なく行くこともできる。隠密にはうってつけだ。
あ、ちなみに獣人族の起源を自分は知らない。だから、何で彼らが人間に似た姿をしているのかは分からない。
ただ、それについては諸説あるようで、獣人族の種族によってもいくつかの神話や言い伝えがあるらしい。
「教えてほしいのだけれど、獣人族ってみんな人間に耳が生えた姿をしているのかい?」
「耳だけじゃないよ、尻尾も生えているわよ!」
そう言ってテラはお尻をこちらに向けてきた。
しましまの長い猫尻尾が見える。
が、すぐに自分は目を逸らした。
「ん???何で目を逸らすの?」
「いや、あ、あの・・・もう少し羞恥心を持ったほうが・・・」
お尻の上についている尻尾を見せたたということは・・・
いやこれ以上は彼女の名誉のため何も言わないでおこう。
「ニャ、ニャ、あ、え、へ、変態!!!!!!」
状況を理解したテラがそう叫んで、自分の方に枕を投げつけてきた。
難なくそれをよけたが、恥じらうように毛布で体を隠し、両耳はシュンと垂れ、顔中真っ赤にしているテラが目に映った。
それを見て、「可愛い」と思ってしまう自分がいた。
いや、煩悩は忘れよう。
「み、見てないわよね?」
「え、あ、うん!」
変な空気になってしまい、しばらく沈黙が続く。
「あの〜〜、テラ、さん?」
「何?」
「それで、獣人族はみんな君みたいなの?」
先程の質問を再度する。
「ニャーみたいか、って?う〜〜ん、違うよ」
「そうなの?」
「四割ぐらいが本当に猫顔の人はいる。でも、それはそういう系統だから。ニャーの系統は人間に見た目が近いんだ」
種族内でもいくつか違いがあるのか。
興味深い。
「あ、それとあと、年齢を聞いてもいい?」
「ニャーの年齢?」
「うん。ちなみに自分は十二」
「ニャーも同じ。十二よ」
へぇ〜〜見た目は幼いけど、同い年なんだ。
「今、見た目が幼いと思ったでしょ!」
ギクッ!
「失礼な!ニャーには、弟も妹もいて・・・」
そこでテラは黙りこくってしまった。そして、
「何で、なんでなんでなんでなんで!!!!!!」
急にヒステリックに叫び出す。
自分はその苦しそうなテラの苦悶の表情から思わず目を逸らしてしまった。
彼女はまだ立ち直れていない。
家族のことを思い出すと、突如そんなふうに取り乱す。
ついさっきまでの笑顔がまるで嘘のように・・・
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