第153話 主人公① (リリス視点)

[本当に大丈夫か?あいつはいないとは言え、仲間はいっぱいいるだろうし]


クロが心配した声で話しかけてくる。


私はそれに無理に返すこともせず、ニッコリと笑う。


怖くないと言えば嘘になる。


でも、やっぱり逃げていてもいられない。


私は周りの視線を気にしながらも登校する。


しばらく歩いていると突然後ろから誰かに抱きつかれる。


「ひっ、ってミナスだったのね!」

「どう、驚いた?」

「うん、ものすごく驚いたよ!」

「じゃあ、成功だ!」


ニシシと笑う友人。


「なんか色々あったみたいだけど、元気で良かったよ」

「うん、まあ一応ね」


自分を気にしてくれる友人がいるというのはありがたいことだ。


「あれ、ナーレも一緒なの?」


私は後ろでコソコソとしているもう一人の友人に声を掛ける。


「え、あ、うん。一緒に登校してきたわ」

「わ?」

「え、いや、登校してきたの」


挙動不審なナーレ。


いつものようにハキハキとした感じでもなく、目がウロウロしている。


「今日のナーレ、なんか変よ。体調でも悪い?」


そう心配してナーレに近づくと、慌てたように距離を取る。


「だ、大丈夫よ!た、ただ久しぶりにリリスを見たからよ!」

「そうなの?なら、ありがとう!」


私はいつものようにナーレに抱きつく。


抱きつかれた本人はどこかカクカクとしている。


私は不審に思いながらも、気にせずに歩き始めた。



二年S組の教室に入ってきた私を見るクラスメートの目は、どこか冷ややかだった。


女子グループは明らかに軽蔑した目だし、男子グループは目を合わせようともしない。


私はそんな心痛い状況に耐えて、着席した。


席に座った私の所に寄ってきたのは、アレックスくんだった。


「その〜〜〜、大丈夫か?」


私を気遣ってくれる。


「うん、お陰様で元気になれたよ」

「なら、良かったよ」


どこか、いつもよりもよそよそしい。


普段ならその後も一言二言話をするのだが、今日はそのまま帰っていってしまう。


私は不思議がっていると、アレックスくんの側にいたハンネスが近寄ってくる。


「すいません、殿下が。実は、あの件について『平民と絡むな』と母君からお怒りを受けまして。それで少し大人しくなられているのです」

「そう、なのね」


私は納得したが、少し寂しい気持ちになった。


[人間って馬鹿よね。妾だったらそんな親殴り飛ばしていたわ!]

[ね、姉さん!そんなこと、暴力的な人しかしないんだよ!]

[あ”あ”、妾が暴力的な精霊と言いたいの?]

[あながち間違っていない気がする]


兄弟喧嘩に乗っかるクロ。


その後も私の頭の上で三人が喧嘩し続ける。


そんなこんなしているうちに、担任のアリオス先生が入室した。


「今年度も引き続きクラス担任をするアリオスだ。よろしく!」


いつものように淡々と挨拶をする。


「さて、今日は君たちの後輩である一年生が入学してくる日だ」


話を進める。


「…さて、ということで、君ら二年生はそのお出迎えをするのだ」


「「「お出迎え???」」」


全員が首を傾げる。


「簡単だ。入学式へ来る新入生に挨拶するだけだ。去年も先輩たちがやっていたはずだ」


確かにそうだ。


先輩たちが「入学おめでとう!」と声をかけてくれていた。


「まあ、この学園の伝統だ。しっかりやるように」

「「「は〜〜〜い」」」


全員が返事をする。



女子はリボンを、男子はネクタイをして体育館前へ整列する。


しばらくすると、続々と新入生が来る。


ある人は大きな声で出迎え、ある人はダルそうに声を出す。


「入学、おめでとう!」


私も先輩として大きな声で出迎えた。


一人の生徒がこちらにペコリとお辞儀をしてくる。


それを見て、心が温まった。


だが、次に私の前に現れた生徒を見て背筋が凍った。


どうして、何故?


頭の中が混乱する。


そんなことを知らないその生徒は私に向けて言葉をかけてきた。


「あら、お久しぶりですね平民さん!そして、元お姉様!!」

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