第152話 いつもの仕事 (レーナ視点)

「で、今日はどこだっけ?」


裏クラス会議を終えた私とアルスは、校舎裏へと向かう。


「今日の標的はネルス家です」

「あの双子の父親よね?」

「ええ、そうです」


まずはそれぞれが調べたことを共有し合う。


「兄の方に父親のことを聞きましたが、情報通り、法務省次官兼武器等を扱うネルス商会会長とのこと」

「弟の方に聞いた情報と変わりないわ。補足としては、彼ら双子の母親は現法務大臣の娘らしいわ」

「なるほど、そこも繋がっていると」


アルスは頷く。


「とりあえず、法務大臣は後にしよう。まずは、ネルス家のカルロ・ネルスと裏組織との密談現場を抑えることに専念しよう」

「そうね。時間は分かっているのね?」

「ああ。今日九時から六番通りにあるカジノ店の奥で」

「そこなら地図は入手してあるから心配ないわ」


それぞれ暗闇に紛れやすい服に着替える。


私達が放課後にやっているのは、不正やスキャンダルを抱えた大物たちの弱みを握ること。


こうすることで、よりルイ様が過ごしやすくなっていく。


最初はルイ様の命令だったが、次第に二人で独自にやるようになった。




この国に来た時、どこか淡い期待をしていた。


私や私の家族を過去に”抹殺”してきた帝国よりも、いい場所なのではないか?と。


そのため、ルイ様が何故この国をそれほど敵視しているのか分からなかった。


でも、今は私もこの国が嫌いだ。


弱肉強食の世界、偽善に満ち溢れた社会、見て見ぬふりの人々。


カースト最底辺の人々への救いの手すら差し伸べられない。


まだ、貴族社会では神への奉仕がある。


そのため、孤児院やそれを運営する教会への慈善活動がよく行われている。


だけど、この国の人々は全てが自由。


ゆえに…自分勝手。


自分は自分、あいつはあいつ。


おかしいことではない。


どこの国だってそれは同じだ。


でも、私が期待していたような場所ではなかった反動からか、この国をより不快に感じた。


であるならば、私は帝国の方がいいと思っている。



・・・・結局私は今の状況に満足している。


昔の生活よりも今の状況に居心地の良さを感じている。


この生活を守りたい。


以前のような無力の私ではないし、今は仲間も友達もいる。


だから、それを脅かす奴らは排除する。




六番通りのカジノ店に着いた私達は早速中に入る。


「お、おい、ガキ!ここは子供の遊び場じゃ・・・・・」


警備員を毒魔法で眠らせる。


中に入ると鼻の曲がるような酒と男の匂い。


入ったことを少し後悔しながらも、奥へ奥へと向かう。


「この先だね」

「ええ、そうよ。探知で見たところ、護衛が四人。他六人がいる。全員剣を持っているわ。?一人は魔法使いかな?」

「分かった。自分が最初に突入してカルロを捕える。周囲の護衛の対処を頼んだ」

「分かったわ」


いつも通りの役割分担。


「取引相手はどうする?おそらく裏の人間だけど」

「殺っても構わないと思うわ」

「分かった」


確認を終えるとすぐさまアルスが飛び込む。


「な、何だ―」


ザクッ


アルスは飛び込んだかと思うと、奥の密談が行われている部屋の扉の前に立つ大男の首を一瞬で切り裂く。


その勢いのまま、扉を蹴破って中に入る。


すぐに侵入者に気付いた他三名の護衛がアルスを追うように部屋へと入ろうとする。


私はそのガラ空きの背中に向けて魔法を放つ。


「【アイス】」


一瞬で三人は扉近くで氷漬けにされてしまう。


「どう、そっちは終わった?」


私は扉前の氷だけ溶かし、中へと入る。


中ではすでに戦闘が終わっており、アルスと彼に捕らえられているほっそりとした男、隅で怯える女性を残して全員が死んでいた。


「き、貴様たちは誰だ!」


細身の男が大声で叫ぶ。


おそらく彼がカルロだろ。


「自分たちは通りすがりの人間です。ただ、少々お話を聞きたいと思いまして」

「き、貴様らに話すことな――ひっ」


アルスの剣が喉に食い込む。


「全て吐いてください。命が惜しければ。もちろん、他言はしません」


こうして弱みを手に入れていく。


使い道はまだ決まっていないけど。

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