第151話 裏切り? (アルス視点)

毎日投稿続けます!



―――



「それでは月に一度の裏クラス会議を始める」


とある日の放課後。


普通コースA組では、一つの会議が始まろうとしていた。


「最初は定期連絡だな。その次は上からの指示報告。そして最後は、自由討論だ」


クラスの委員長が司会進行役になり、今始まった。


この会議に参加しているのは、ほとんど全てのクラスメート。


ルイともう一人の生徒以外は、この会議に呼ばれていた。


もちろん、自分もレーナも。


「アルス君。今月は何か嫌なことをされたかな?」


クラスの女子のボス的生徒に聞かれ、少し考え込む。


「ルイ兄様は、護衛であるジョンとマイケルにけしかけて、よく自分をボコボコにすみるんです。しかも傷が付かないように」

「それは、・・・大変だったね」


同情の目を向けられる。


「レ、レーナちゃんは何か嫌なことされた?」

「そ、それは・・・・・恥ずかしくて言えません」


その言葉を真に受けた男子たちは、一斉にその目に殺意を宿した。


「そんなに辱めることを!」

「くっそー!うら―許さないぞ!」

「絶対に痛い目を見せてやる!」


どうやら彼らは勘違いをしているが、まあ、そのまま放っておこう。


この本当はこわ〜い女狐に、今は騙されていればいい。


その後もいくつかルイ兄様に関する報告があり、次に上からの指示に移った。


と言っても、特に大きな指示もなく、自由討論へと移った。


自由討論で出た議題は、どうやってルイ兄様を倒すか、についてだった。


「やっぱり、後ろについているブルボン家が邪魔だね」

「そうだな。さらにその後ろにはフランシーダ帝国がいる。まさに、悪役貴族、ってことだな」


ルイ兄様ならまだしも、父上までも悪役貴族と貶すのか。


「やっぱり、大義名分が必要ですね」

「だったらそこにいるじゃないか!レーナちゃんもアルスも虐げられてきた。それで十分だろ!」

「いや、それだけでは駄目だ。向こうの国では当たり前のことだから。懲らしめるには理由が薄すぎる」


おや?意外にちゃんとした議論になってきた。


「ならば大義名分を別に作るしか無いな」

「でも、どうやって?」

「・・・それが難しいよな」


中々いい案を出せないでいる生徒たち。


すると突然、一人の女子生徒がこちらに目を向ける。


「アルス君はどうしたい?」

「え!自分、ですか?」


まさか話が振られるとは思わず、一瞬つっかえた。


「う〜〜〜ん。特にいい案は思いつきません。逆に、一つ質問してもいいですか?」

「うん、なんでもいいよ!」

「ありがとうございます。ところで、倒すのはどちらにするおつもりですか?ルイ兄様ですか?それとも、ブルボン家自体ですか?」


「兄様呼ばわりしなくていいよ」などの野次は無視して僕は質問する。


すると、生徒たちは難しい顔をする。


「なるほど、それで色々と変わってくるな」


そう言って、また議論をしだす。


だが、答えは出てこなかった。


そして時刻が五時なったところで、委員長が「パンッ」と手を叩く。


「よし、アルスの質問については、学年会議に持ち込もうと思う。そこで回答を得るよ。それでいいかな?」

「「「はい」」」

「じゃあ、今日は解散ということで!」


時間になり、答えの出ないままお開きとなる。


議論制は面倒くさいと思う。


確かにより良い案を出し合い、全員が納得できるような答へと導くにはいい方法かもしれない。


だが、その分時間もかかる。議論が得意じゃない人もいるし、また、対立や不満が出て収拾がつかなくなることもある。


それでも昔は、例えば村のような小さな規模のコミュニティならば、何日も議論を続け最後の一人まで、みんなが納得するまで時間をかけて話し合い、結論を急ぐこともなかっただろう。


だが今は、みんな忙しい。議論する時間も限られている。それゆえ、時間節約のために多数決制が取り入れられたが、だがそうなると、逆に議論の中身よりも票が裏で売買され、多数決で負けた側に遺恨を残す場合も出てくる。


一方、独裁制では全てが主の一存だ。


部下はあくまで意見を出すだけで、それをどうするかは主次第。


こちらも、場合によっては悪い方向へと行きかぬない。とくに、主が愚昧な場合は。


でも、自分はそっちの方が性に合っている。


議論なんて、たいていは声が大きい奴が強い。


今回の議論も半分以上の生徒が一言も発言しなかった。


話し合っていたのは一部のクラスカースト上位の奴らだけだ。


他はただ傍観するだけの地蔵でしかなかった。


「アルス、レーナ!」


帰ろうとする自分たちを委員長が呼び止めた。


「?」

「頑張ろうな!」


励ましのつもりか激励の言葉を投げ掛け、親指を上げる。


自分はそれを作り笑いで返し、そのまま教室を後にした。


レーナと歩きながら、さっきの委員長の言動を思い出して苦笑した。


自分たちはルイ兄様の元から逃げ出したいと思っている、と彼は本気で信じているに違いない。


いや彼だけでなく、このクラスの生徒たちも、学校の人たちも…


だが、それは違う。


逆に、どうして自分たちがルイ兄様の元を去ろうと思われているのか、不思議でしかたない。


まさかレーナの悪ノリのせいで、ルイ兄様を倒す!とまで話が行くとは思ってもみなかった。


ルイ兄様を裏切るはずがない。


自分はルイ兄様の弟で従者で、騎士である。


あの時、剣で誓いをたてた。


それを破ることなどありえない。


「ねえ、アルス」

「何?」

「何か私達もルイ様化していない?」

「え?それ、どういうこと?」

「やっぱり彼らの議論を聞いていると、貴族制の方が私には合っているかもしれないと感じちゃったのよ」

「・・・・・・それは、同感です」


結局どこの国へ行っても同じ。


格差も、いじめも、真っ黒い感情も存在する。


だったら、こんな偽善じみた国より、父上も、ルイ兄様も、友だちもいる帝国の方がマシだ。

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