第137話 遂に・・・


清々しい朝を僕は迎えた。


少し肌寒い朝だが、目はしっかりと開いている。


いつものように自分で着替え、学校に行く用意をする。


「おはようございます、ルイ兄様」

「おはよう」


アルスの挨拶に僕は返す。


「珍しいですね、自分から起きるなんて」


僕はそんな皮肉にも反応はせず、黙々と朝飯を食べる。


食べ終わったら着替えや歯磨きをして馬車で学園へと向かう。


普段なら気にしない外の景色が自然と目に映る。


まるで森の湖面が周囲の風景を映すように。


たぶん僕の心が澄んでいるからだ。


「それは無いと思いますよ」


レーナのツッコミは無視して、通り過ぎていく街並みを窓から見る。


人が行き交う、騒がしい大通り。


近道をしようとする者たちだけが通る路地裏。


寒い中、大きな声を張り上げて商品を売ろうとしている人々。


体を寄せ合って寒さから身を守る野良猫たち。


全てが自然と目に入った。



登校後、僕はいつものように授業を受ける。


もっとも、あまり集中できなかった。


放課後の事ばかり考えているので、ぼーっとしてしまう。


先生の声は聞こえてくるがノートは書けない(と言っても、いつも書いていないが…)。


どうしようか、どうすればいいか…


頭の中でシュミレーションをしてばっか。


他の生徒たちが僕を見る不思議そうな目線にも気づかない。


実戦授業では、珍しく戦闘訓練が行われなかった。


表向きは戦略についての座学授業だったが、実は午後の事を考え、僕とリリスの体力を温存するためだ。


ラオスとイルナにあらかじめそう指示しておいた。


この決闘は、全力で当たれなければ意味が無い。


全ての授業を終えた僕は第三運動場へと直行する。


すぐに着替えて、グラウンドへと入る。


下はゴムに近い素材でできた硬い地面。


円形上になっており、入学試験が行われた競技場に近い造りとなっている。


僕は地面を強く踏みつけ、状態を確認する。


「問題は無いな」


予定の一時間前に着いたから暇でしょうがない。


と、思っていると追いかけてきたであろうアルスが入ってくる。


「ルイ兄様、急ぎすぎです!」


少し息を切らして言う。


「何を言う?僕がどれだけこの日を待っていたと思っている?」


この人生は今日の為にあったと言っても過言ではない。


「でも、もう少し周囲の目線を気にしてください!」

「どういう意味だ?」

「朝からずっと口角が上がりっぱなしですよ」


え!?まじ!?


渡された鏡に映る自分を見ると、確かにニヤニヤしていた。


まあ、それだけ楽しみだということだ。


「とりあえず、レーナはリリスを呼びに行ったのだな」

「はい、アレックス殿下を含めたあの男子三人も連れてきます」

「よろしい」


あの三人もこの場にいないと意味がない。


目の前で主人公が倒されるのを見ればいい!!!


「まだ時間がありますので、軽くウォーミングアップしますか?」

「そうだな、頼む」



そろそろ時間となる頃。


ふと周囲を見ると、何が行われるか分からない状態で入ってきた観客(証人)がいた。


僕はアルスに目線で合図を行うと、そのままアルスは運動場を後にした。


更に数分後。


「こ、これはどういう状況なのですか、レーナさん!?」


何が起こるか知らないお馬鹿な子羊ちゃんが遂に会場に現れた。


どう連れてこられたのか知らないが、リリスはしっかりと運動服に着替えていた。


その後ろにはアレックスたちがいた。


「おい、ルイ!これはどういうことだ!?」


僕に気がついたのか、質問を投げてくる。


彼らにとったら本当におかしな状況だろう。


教師もいない運動場。


観客席にはまばらな生徒たち。


運動服に着替えている僕と、着替えさせられたリリス。


だが、この状況を僕は何年も待っていた。


生まれてから今日まで。


前世で死んで、今世で生き返って。


新しい人生を始めた僕の目標を、今日、一つ達成できるのだ。


「黙ってないで、理由を教えろ!」

「理由?そんなの簡単さ。調子に乗っている平民にお仕置きをするんだよ!!!」



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