第135話 正体 (三人称視点)

「あのクソガキ!」

「やめんか、テッペン。ただの負け惜しみにしか聞こえんぞ」

「すみません!会長」


フアンズはテッペンを諌める。


「お二方ぁ〜〜、そんなカリカリするもんじゃ無いですよぉ〜〜」


重苦しい空気が支配する場で、その間伸びした声が一際目立って響く。


イルナはニコニコして二人を見る。


「イルナ、お前はいいよな。気楽で」

「アリオス先生〜〜何を言っているのですかぁ〜〜」

「言ってるだろ!俺の前ではその喋り方をやめてくれ。気に障る」

「・・・分かりましたよ」


今までののんびりとした口調をやめて、普通に話し始めるイルナ。


「ていうか、何であんな喋り方をするんだ?」

「え〜〜、別に、気に入っているからよ」

「意味分からん」


アリオスはイルナから顔を逸らす。


ルイたちが出ていった後、部屋に残された魔法協会の四人だったが、誰もイルナの顔を見ようとはしなかった。


「・・・幸いだったのはイルナの正体がバレなかったことだな」

「ああ、そうじゃな」


思わず安堵の表情を浮かべるフアンズ。


その会話にイルナが割って入り、辛辣に言う。


「それにしても魔法協会って無能すぎない?あそこまで見抜かれているとは思いもしなかったわ」

「それについては、こちららのミスだ。まさかあそこまで調べ上げていたとはな」


イルナ以外の三人は顔をしかめる。


「しかし、どこで知ったのかしら?あのブルボン家当主でさえ、おそらく噂でしか知らないトップシークレットの情報なのに」

「そこが問題だ。どこで漏れたんだ?」


魔法協会幹部たちは頭を抱える。


「はぁ〜〜、これからの行動は制限されるな」

「そうね、ルイ君が学園からいなくなるとはいえ、妨害を向こうから受けるかもしれない。何よりラオスがあちら側についているわ」

「・・・それも問題だな。いっそ殺すか?」

「それはおそらく無理じゃろ。対策されると思う」


ルイ一人の行動で当初の計画が台無しになり、頭を抱える大人たち。


「駄目ね。考えれば考えるほど、何かが起きるかもしれないと疑心暗鬼になってしまうわ」

「そうだな。いい方法があまり浮かばない。これからどうすれば・・・」


アリオスは焦りからか頭をしきりに掻く。


「イルナの正体もバレていないよな?」


恐る恐るテッペンが発言すると、フアンズが答える。


「流石にそこまで尻尾は出していない」

「そうよ。私が精霊術士・・・・であることはバレていないはずよ」

「そりゃまた、ずいぶんと自信だな」

「ええ、あんたみたいに無能じゃないから」

「チッ」


フフフと不気味に笑うイルナ。


「こっちも悪いが、あの遺跡についてはそちらの責任では?」

「あら、私のせいとでも?」

「そこまでは言わないが、事前に止めることも可能だったろ?」

「さあ、どうでしょうねー」


イルナにはぐらかされ、三人はため息をつく。


彼女と組んでからは、常にこんな感じである。


はぐらかされる事もよくあり、一体何を考えているんたか、正体をいまだ掴めていない。


しかし、だからと言って強く出れる相手でもないので、やむを得ずこちらも気を遣いながら接している。


「とりあえずリリスの監視はそなたたちに任せる」

「はぁ〜〜い」

「分かりました」


イルナとアリオスが返事をする。


「こちらからはもう下手に動かない。またボロが出るかもしれないからな」

「それが妥当なところね。ところで、第一皇子との関係はどうするの?このまま続けるの?」


フアンズはしばし考えて答えた。


「いや、事情をある程度向こうに伝えた上で少し距離を取ろう。バレてはまずいからな」

「第二皇子とは?」

「そちらも同様、距離を取っておく。今はとにかく情報収集が優先だ」

「賢明な判断ね」


彼らとしては、ルイとコトを構えた時間を早く取り戻さなければならない。


そのためにも派閥同士の争いから、一旦手を引くと決めた。


「!そうだ、イルナ。ルイからもらったあの石版。何が書かれていたんだ?」


石版とは、ルイがダンジョンで見つけた文字の書かれたものだ。


「ん?ああ、あの石版ね。後で分析してみるわ。少し汚れていて読みにくいから」

「そうか。この中であれを読めるのはお前だけだからな」

「うん」


イルナはニヤリと笑う。


しばらくして話は終わり、イルナ以外の全員は部屋から出ていった。



残されたイルナは誰もいないのを確認して机の上に横になる。


「はぁ〜〜、ルイ君は凄いねー。まさかあそこまで知り尽くしているなんて」


クツクツと笑い出す。


「でも、流石に私の正体までは見破れなかったわね。まぁ、一番の秘密だからなー 」


イルナはふと真顔になる。


「それにしてもあの子、本当に不思議な子よね。あそこまで魔法の才能を開花させて、しかも大人顔負けの交渉までするなんて。本当の大人みたい。まさか・・・いや、そんなはずないわ。あれは大昔の話だし・・・」


一人でぶつぶつ言いながら考える。


「まあ、考えても仕方ないわ。とにかく今は、私はリリスちゃんをしっかり監視いくせいしなくちゃいけないわ」


イルナもまた魔法協会とは別の目的で動いている。


「もっと彼女には成長してもらわないと。でなくちゃ、私達の希望の星になんかなれないもの・・・」


イルナは立ち上がった。


「よぉ〜し。ま~~た、いつものぉ〜〜喋り方に~~戻すかぁ〜〜」

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