第134話 扱いやすい?
「本当に成功するなんて」
詠唱を教えてもらって一週間。
何とか無詠唱で発動できるまでは出来た。
ラオスは目の前に展開されている魔法陣をまじまじと見る。
「ちゃんと行けるのか?」
「ええ、しっかり家の屋敷と繋がっています」
訝しむラオス。
「まあ、とりあえず入って」
「お、おい、急に!」
図体のでかいラオスの背中を思いっきり押す。
ラオスの身体が少しずつ魔法陣の中に吸い込まれていく。
「明日、迎えに行くんで・・・じゃあ」
僕はそのまま魔法陣を閉じた。
向こうで久しぶりに家族と再会すればいいさ。
これから僕がしなければならないことはもう無くなった。
リリス対策も万全だし、後はナーレに扮したレーナがどれだけ情報を持って帰ってくるかだ。
リリスがどれだけ強くなっているか分からないっし、想像もつかない。
使える精霊術にはいくつかの段階があり、複数の精霊と契約が可能だ。
小説内において、実際、リリスはいくつかの精霊と契約をしていた。
時、水、雷・・・
ただ一年生の段階では、まだ時の精霊クロノスとしか契約していなかったはず。
だとすれば、あの、時を止める術に気をつければいい。
それ以外はあまり脅威ではない。
と言っても、窮鼠猫を噛むとも言うし、土壇場でどんな反撃をしてくるか分からないから一応気をつけないと。
「ちょっと、この大量の指示はどういうことよ?!」
ラオスを送り届けて一段落した僕は自室で紅茶を楽しんでいたが、そこにナータリが駆け込んでくる。
「何のことだ?」
「何のことじゃないわよ。何よこの沢山の指示!派閥の管理に、魔法協会の監視、商会との交渉、リリスの監視などなど、って。これ貴方達がいない間、全部私一人でやらなきゃいけないの!?」
「大丈夫だ。何人か信頼できる奴がいるから彼らを頼るといい」
「そういう問題じゃないの!」
じゃあ、どういうことだ?
「何で私がここまでやらないといけないのよ!?」
「当たり前だ。お前はウチの派閥の幹部だぞ」
「別に私なりたくてなってないわよ!」
「ああ、そうだ。勝手に入って来たんだ」
「うぐっ」
まさかナータリがここまで使える奴だとは思っていもいなかった。
自業自得で入ってきた時は、ただおっちょこちょいで特に使える場所は無いと思っていた。
第一印象は、高飛車(僕も人のことは言えないが)でワーワーうるさい女子程度にしか思っていなかった。
だが意外に従順なところもあるし、伯爵家の長女だけあっていろいろと有能でもある。
人材としてはS級だな。
「貴方、今失礼なことを考えてたでしょ!」
僕の考えていることを的確に読むところは、なんだか段々、アルスやレーナに似てきた。
これが三人、いやセバスも入れて四人に囲まれるとなると最悪だ!
「ていうか、この最後の指示の意味が分からないわ!」
まだギャーギャー言っている。
「この、ナーレを演じるってどういう意味よ?」
「そのままだが?」
「だから、その意味が分からないのよ!」
え、何が分からないんだ?
「レーナがリリスの友人として演じているナーレっていう女子。リリスを監視する役割があるんだ。レーナは僕と一緒に留学するから、帰ってくるまで繋いでおいて」
「だから、どうやってよ?顔も髪も違うのよ!」
確かにそうだな。
レーナはストレートの銀髪だが、ナ―タリは縦髪ロールの茶髪。
だが問題はない。
「変身魔法を使えばいいんだ」
「それって、姿や顔を変えれる魔法?」
「知っているのか?」
「ええ、レーナたちに一度騙されそうになったことがある」
実体験済みか。
「あの魔法を使えばいい。声を変える魔法もあるし、喋り方も寄せればいい」
「・・・・簡単に言うけどあんな高度な魔法、使えるわけ無いでしょ!」
「高度なのか?」
「そうよ!貴方と一緒のレベルにしないでよ」
存在自体は前から知っているんだな。
「出来ないってこと?」
「ええ、そうよ!」
「なるほど、分かった」
僕は納得する振りをする。
「代々、魔法名門家として著名なフットナ家長女が出来ないのかぁ・・・」
僕の言葉にピクリと反応するナータリ。
「フットナ家の名前も地に落ちたものだ。たかだか変身魔法程度を扱えない者が長女だなんて、今では過去の栄光にしがみつくだけの伯爵だな・・・」
「いい加減にしなさい!!」
目を真っ赤にしてこちらを睨むナータリ。
「私はともかく家を侮辱することは、いくら貴方でも許さないわよ!!」
「ふん、だって出来ないんだろ?」
「―るわよ・・・」
「何て?」
「出来るわよ!変身魔法ぐらい扱える。私はフットナ家の長女よ!!」
ちょろいな。
元・高ビーな奴だけあって、侮辱されたら引き下がれない性格だ。
本当に扱いやすい!
でも、ふと思った。
アルスとレーナが僕のこの発言を聞いたら、きっとこう言うだろうな。
それは貴方も同じです、と。
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