第122話 帝立学園祭③
初日には色々とあったものの、無事に三日目を迎えた。
二日目は特に大きな事件も起きず、フリーの時は演劇などを見て時間を潰した。
そして最終日の三日目。
思わぬ人が来店する。
「げっ!」
たまたま調理場から顔を出していた僕は、入ってきた客を見て、気が動転した。
入ってきたのは、父とセバス、オールド。それに母と妹のアンナまで来ていた。
「おい、ルイ。顔を出しなさい」
すぐに顔を引っ込めた僕に声をかける父。
「ルイ様、旦那様がこう言っていますよ」
セバスも促すが知らん顔をする。
「ルイ、顔を見せなさい」
母の言葉も無視する。
「にいさまは何処ですか?」
「ここだぞ!!!」
アンナに呼ばれて顔を出す。
「「「はぁぁ〜〜〜」」」
大人たちのため息が重なる。
何か不満なのか?兄が妹の呼びかけに答えるのは当然だろ?
「あ、ルイにいさまでしたか・・・」
「アンナ、その反応は兄が悲しむぞ」
明らかに落胆した顔。
「いえ、ルイにいさまにもあいたかったですが、アルスにいさまとレーナねえにもあいたいです!」
よし、可愛いから良しとしよう!いまさっきのことは忘れる!
「妹って、貴方と真逆の純粋な子ね」
話を聞いていたのか、ナータリが顔を出す。
「おい、それどういう意味だ?」
「そのまんまよ。兄に似てないという意味」
それは間違った認識だ!
「これからどれだけ家柄が偉大で大事なのかを教えていく!」
ナータリは僕の言葉を無視して両親に挨拶をしに行く。
「お初にお目にかかります、ナータリ・デ・フットナと申します、ブルボン家―」
「そんな畏まらなくて結構だよ。ここは社交界でもなんでも無いからね」
貴族の堅い挨拶を始めたナータリを父が制止する。
「君の話はよく聞いているよ。ウチの息子が世話をかけたね。ああ、長男の方だよ、もちろん」
おい父、最後のは本当にいらないぞ!!!
「あら、貴方がナータリちゃん!あのフットナ家の長女さんよね!よろしくね」
スキンシップの激しい母がナータリにハグをする。
その行動に困惑するナータリ。
無理もない。
僕の家族は公爵家のくせに異様にフレンドリーなのだ。
父は社交界では厳格なイメージだが、いざ領地に帰ると平民と交流したり積極的に公共事業をする、所謂「良い当主」である。
母も昔ほど身分の低い者への差別も無くなり、より明るくなった。
社交界などに行くとごく自然に婦人たちの輪の中心となる、活発な人だ。
アルスもアンナも明るい性格で(アルスの場合は外面だけだが)非常に人気が・・・・
あれ?で、僕は?
僕はこの家族の中では、はぐれ―――
いやいや、そんなことはない!
僕こそ名門ブルボン公爵家次期当主、ルイ・デ・ブルボンだ!
それ以上でも以下でも無い。
そして僕以上は存在しない!
先程からナータリと喋っていた母だが、突然何かを思い出したかのようにセバスに目線を送る。
「レーナ、貴方が言っていたものを取り寄せて持って来たわよ」
「!ありがとうございます、奥方様」
「いや、私も見てみたかったしね!ウフフ」
何やらこそこそ話す二人。
セバスが持っていたカバンから取り出したのは、白と黒の・・・!!!
セバスが広げると、それはメイド服だった。
「母上、それは一体?」
「ええ、これはアルスに着せるやつよ」
!!!!!!!
「え、ちょ、ど、どういうことですか?」
言われた本人はあんぐりと口を開ける。
「そのままの意味よ、さ、アルス、これを着てみて」
「ま、待ってください、奥方様!理由を―」
「理由は、その私の呼び方よ。昔は色々と言って私も反省している。だから母上と呼びなさいと言ったはずなのに、全然直してくれないじゃない。だから、これは罰よ」
アルスは赤面する。
これは見ものだ。なかなか見れないぞ、こんなアルス!
「レーナ、謀ったな!」
「何のこと?ちなみに、この前、友達自慢してきたことはまだ根に持っていますから」
「この友達無しのぼっち女が!」
すごい形相でレーナを睨むアルスは、捨て台詞を残して裏の更衣室へと姿を消す。
しばらくするとレーナもメイクをするためにいなくなる。
しばし、また二人の喧嘩する声が聞こえた後、ついにアルスが出てきた。
その姿に皆が息を飲む。
「やっぱりオーダーメイドにして正解だったわ!」
少し長めの髪を左右に纏め、僕より一個年下のまだ幼さの残る顔立ちに化粧をしているためか、完全に女子と見間違えてしまう。
黒と白のピッタリのメイド服は、膝までしかスカート丈が無く、アルスは恥ずかしそうに前からおさえる。
ワザとなのかそれとも恥ずかしさからなのか、足が内股になっており、赤面している顔も相まって妙な色気を出している。
「母上と呼びなさい」
「母、上・・・」
「プッ」
僕は必死に笑いをこらえる。
「絶対殺す、殺す、殺す」
レーナを睨みながら呪詛のように唱える。
普段見れない困り顔の赤面アルス。
面白いものが見れた!
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