第123話 交渉②


「これ、本当に今日一日着なければならないのですか!?」


不機嫌さ丸出しでアルスが言う。


長居してはいけないと帰ったブルボン家一行だが、着替えをしようとしたアルスを僕は止めた。


「ああ、面白そうだからな」


僕に対しても睨んでくる。


「これから大事な話し合いですよね」


ああ、そうだ。


閉幕式の前に第一皇子に呼び出しをされた。


第一皇子派からの勧誘はすでに受けていたが、本人からはまだだったからね。


「その格好で行くぞ!」


それから数時間。


特に行くところも無かった僕は、適当に教室で時間を潰した。


そして最後のパンケーキを出し終え、ようやく僕たちの模擬店カフェ終了となった。


そこから全員で片付け・・・は明日以降にやるため、各々休憩に入った。


僕とアルスは指定された別の校舎の小さな部屋に向かった。



部屋の前でまず僕らを出迎えたのは、あの生徒会長だった。


「くれぐれも粗相の無いように」


何故、注意する?!


部屋へ入ると、以前第二皇子と話したときのように、二つのテーブルと椅子が向かい合うように置かれていた。


そして反対側に座っているでっぷりとした男が第一皇子だ。


ガタイの良さそうな体つきではあるが、それを台無しにするポッコリ出たお腹。


指には豪華な指輪をいくつもはめ、首からは高そうなネックレスを垂らしている。


「お初にお目にかかります、第一皇子殿下。ルイ・デ・ブルボンでございます」


僕の挨拶に満足そうに頷く。


「うむ、我こそはフランシーダ帝国第一皇子、モハッド・ド・フランシーダだ」


僕は下げた頭を上げる。


「それで、どういったご用件でしょうか?」

「まあ、そう焦るでない。ここには生徒会長もいるのだから、閉幕式の時間ぐらいずらせるぞ」


僕はとりあえず席につく。


それにしても目の前の男の姿は何だか・・・小説内での僕、ルイに似ている。


ぶくぶくと太った挿絵を思い出し、心の中で顔を振る。


絶対こうならないぞ!


「さて、本題に・・・・?その前に、その後ろに控えているメイド服の茶髪の女子は誰だ?」


モハッドが好色そうな目でそちらを見る。


「よかったら教えてくれないか?」


僕はやれやれといった感じで教えてあげる。


真実をな!


「あれは女装をした僕の従者で弟のアルスと申す者です」

「・・・・・・弟っ!!!」


驚いたようにアルスをまじまじと見る。


モハッドの後ろに控えていた二人、特に生徒会長は目を見開いた。


「えっ!あ、あれがあのアルスだと・・・」


僕は笑みを浮かべてしまう。


こいつらに、一杯食わせることができたな。


「まさか、第一皇子はそちらの方に趣味がお有りで?」


僕の質問にモハッドが首を振る。


「そんな根も葉もないことを言うな!」


チッ、この男の性癖は噂程度にしか広められないか・・・


「オホンッ、そろそろ本題に入っていいか」


咳払いを一つしてモハッドは話し始める。


「話は単純だ、こちらの陣営に入ってくれ!」

「お断りします」


もちろん即答だ。


「提示条件も聞かずにか?」


僕は一瞬口をつぐむ。


そう、今回の交渉に関しては条件があまり分からない。


おそらく前回の第二皇子との交渉内容は知られているはず。


つまり、条件も変えてくるだろう。


「では一応聞きます」

「そうだな、色々とあるが、貴様が一番欲しそうなものをあげよう」

「何ですか?」

「公爵家を継いだあかつきには、新たな位、王爵を上げようではないか」


王爵、だと?


基本的に、国家の王も一つの爵位として言われることがある。


皇帝だったら帝爵、そして王だったら王爵。


つまり、王になれるのだ。


だが、これは毒饅頭だ。


絶対に危ないやつだ。


手を出した瞬間、貴族たちから反感を持たれて、皇帝になった第一皇子に倒されるだけ。


「まあ、どのような条件でもお断りはしますよ」

「何故だ!!!」


僕は第一皇子の家柄も血筋も認めている。


第二皇子時のように見下してはいない。


ただ、


「モハッド殿下、あまり虎の尾は踏まないほうが良いですよ。いずれ痛い目にあいますから」


僕はそう言って立ち上がり一瞥もくれずにその場を後にした。

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