第112話 冗談が通じない世界
公開遅れてすいません
―――
この世界では前世の冗談は通じない。
別に通じたから、だから何だと思っているが、それでもツッコんで欲しかった・・・
それはちょうどルイ領を任された頃。
僕はいつものように領地経営の会議に呼ばれた。
出たくもない会議だが強制的に連れていかれた。
その日の議題はちょうど食糧問題についてだった。
どうやら前年度は不作だったようで、餓死者か少なからずいたらしい。
餓えている民への対応について議論が交わされていた。
と言っても、ほとんど聞いていなかった。
他人のことなんてどうでもいい。
税さえ取れればどういう対応をしようが、文句は言わないつもりだ。
今晩どれだけ賄賂を貰えるか、ただ、それだけを考えていた。
すると、僕がボーっとしているのに気づいたアルスが話を振ってきた。
「ルイ兄様はどんな解決法があると思いますか?」
「えっ!?」
話を聞いていなかったからよくわからないが、とりあえず食糧問題のことだろう。
僕は咄嗟に聞いた。
「主食ってパンなのか?」
「ええ、まぁ。慢性的なパン不足で今悩まされているのです」
「だったらケーキを食べればいいじゃないか?」
僕の発言に一同が沈黙する。
決まったな、この名言。
前世のとある人が言ったとか言わなかったとかの名ゼリフ。
「ルイ様、それ本気で言っています・・・?」
??ん?何か本気で心配されている?
「いいですか、ケーキっていうのはですね―」
そこからレーナによるケーキの作り方と材料、値段、それにパンの作り方、現在の領内での作物状況を個別に教えられた。
更にセバスからは、一冊五百ページはある食料と経営についての本を七冊まとめて渡され、読むように言われた。
お陰でその日から二週間も、僕の貴重な時間は潰された。
何故だ、冗談で言ったつもりなのに本気で心配されるなんて!!!
他にもある。
孤児院に行った帰りのこと。
その日は少し長居をしたため帰る頃にはすでに日が暮れていた。
空には昇り始めた満月が見える。
馬車で屋敷まで向かっている途中、道の傍に広がる木々に囲まれた夜の湖をふと見た。
するとそこには不思議な光景が広がっていた。
暗い湖に、もう一つの満月が映し出されていたのだ。
静かな森の中は、月明かりしか無い。
そこに二つの満月と微かに光る星、湖に映る木々の暗い影。
思わず見惚れてしまい馬車を止めさせた。
その光景に気づいたアルスとレーナも感嘆の声を上げる。
「凄い、美しい!」
「ええ、絶景です」
僕はそこでふと思った、と言うより言ってみたかったセリフを口にする。
「この景色は良いから僕のところまで持って帰ろう。お前ら、担いで来い!」
前世の過去の偉人の言葉を真似してみた。
その言葉に呆れたようにため息をつく二人。
その時は僕も冗談のつもりだった。
だが、一ヶ月後。
アルスが突然部屋に入ってきて、大きなキャンバスを運び込んだ。
僕への献上物らしく、キャンバスに被っていた布を取ってみると、そこにはあの晩の夜の森や夜の湖に浮かぶ月の絵が描かれたいた。
それはあの時僕が見たまんまで、それが絵画だとは初めは気づかなかった。
それほどリアルだった。
どうやら国内最高の画家に依頼したそうで、同じ景色を正確に再現して描くから、完成が遅くなったそうだ。
主人の命令に従うのは従者としては当然なのだが・・・依頼料は僕の口座から支払われた。
そのせいで僕の貯金が半分消えた。
畜生!!!冗談だったのに!!!
ちなみにその絵は自分の寝室に飾ってある。
高価だし、いつも目にできるように。
更にある日のこと。
その日はちょうど領内でのお祭りだった。
大きな祭りで街は人で溢れかえっていた。
純粋に楽しむ市民、儲け時だと商売に励む商人、よそから楽しみに見に来た農民達。
いつも以上に活気があった。
僕とアルスはその様子を屋敷の三階から眺めていた。
野外で調理される料理のおいしそうな匂いが僕たちのいるテラスにまで届くが、あいにく昼飯を食べたばかりで腹は空いていない。
僕とアルスは、単純にどんな祭りをしているのか興味本位で眺めていた。
大通りが人でギュウギュウになっているのを見ると、思わずあるフレーズを言いたくなる。
前世で小さい頃に見たことある、とあるアニメのセリフ。
「人がゴミのようだ」
僕のその発言にアルスが反応する。
「ルイ兄様、それは違います。領地経営において人というの大事な物なのです。人とは―」
またお説教。
セバスにこの事が伝わると領地経営に関する本を三冊すべて読むようにと言われた。
どうしてだ!僕は冗談を言っただけじゃないか!!!
異世界では、こんなにも冗談が通じないのか!?
―――
間章はここで終わりです。
明日からはまたルイ視点中心です!
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