第111話 魔法協会 (三人称視点)
帝都の中心にある王城。
そのすぐ傍に一際大きな、目立つ建物があった。
頑丈な造り、何重にも張られた結界。
どんな侵入者も寄せつけないその強固な建物こそ、魔法協会本部だった。
魔法協会はそれぞれの大陸で運営されている。
第三大陸魔法協会は帝都に本部を構え、この大陸の各国にそれぞれ支部を置いている。
魔法協会に入会するには条件がある。
まず大学を出ていること、そして魔法は上級以上を使えなければいけない。
会員は帝国内だけで2000人を超える。
仕事は特に決まったものはない。
基本的に副業感覚で、協会から召集された時に訪れるのだ。
強いて言うなら、一年に一度開催される魔法研究会での発表がある。
個人でもグループでも、何かしら魔法の研究をして発表をしなければならない。
所謂、学会のような集まりである。
そんな研究者集団と言えるこの協会本部で、上層部だけの秘密会議が行われていた。
「議長。これは一体どういうことですか?」
丸い大きな円卓テーブルに座る七人の老人達。
その内の一人のハゲた男が、髭を蓄えた最年長の男に問いただす。
「どういうこととは?」
「あのルイ・デ・ブルボンについてです!また色々やらかしているらしいじゃないですか!」
その文句は何度目だ、と言わんばかりにため息をつく議長。
顔には疲労がうかがえる。
「儂(わし)も分かっておるが、対処のしようがない。何しろ、あのブルボン公爵家の嫡男だぞ。我々も手を出すのは難しい」
その言葉に一同沈黙する。
ブルボン公爵家。
その家名がどれほど大きいか、長く生きている彼らは熟知している。
魔法協会は大きな組織である。
現に、皇帝を直接動かせるぐらいには力がある。
何しろこの世界において魔法は絶対。
魔法を使えない者はほとんどいない。
そして、その魔法を束ねている最高中枢組織が魔法協会だ。
冒険者ギルドや商業ギルドといった団体とも連携を取っているため、強い発言力を広く有している。
しかし、それに勝るとも劣らない存在こそ、ブルボン公爵家である。
もっともブルボン公爵家単体だけではない。
ブルボン公爵家をトップとする中立派が彼らにとって問題なのだ。
中立派は地方の大貴族の集まり。
その頂点にいるのがブルボン公爵家。
彼らの総合的戦力は、帝国の半分以上を優に占め、大陸でも五分の一ある。
その戦力が問題だ。
“繋がり”という政治力で発言力のある魔法協会は、”戦力”という軍事力で発言力のあるブルボン公爵家を敵視していた。
正面からぶつかることはないが、派閥としては敵対している、と言っていい。
「これからどうなさるおつもりですか 、議長?」
彼らの議題の中心は、ルイが使う無詠唱魔法についてであった。
彼らにとって悲願とも言える無詠唱魔法を、たった十二歳のガキに簡単に発見されてしまったのだ。
しかも発見にともなうルイの発言も問題だ。
魔法には何が大切か?という協会内で長く対立してきた議論に、ルイは完全に決着をつけてしまった。
議論の対立は派閥を生む。だが、協会内での派閥対立は決して悪いことではなかった。
対立してるからこそ力が拮抗し、牽制し合い、誰かが突出した権力を握ることもなかった。
だが、今回のルイの発見や発言で、完全にイメージこそ重要である、と証明された。
議長、そしてここに集まる協会上層部達は、長年の経験からそれを薄々は
それでも、協会内のしがらみや打算から、皆
それを知らないフリをしなければ、この魔法協会で権力を持つことはできなかったのだ。
「議長?」
考え込む議長は、再度問われた。
「あやつを上手く使わないといけないな。一度は失敗しているし」
「まあ、あやつのお陰でデータは取れましたがね」
一同が頷く。
「とりあえず今のところは様子見だな」
「ええ、そうですね」
議長は椅子にもたれかかる。
ルイという厄介な存在。
彼が何やら
しかも、ルイはまだ学生である。学園は一個の独立した自治圏とされていて、魔法協会と言えど簡単には手出しできない場所だ。だから、監視活動も一筋縄にはいかない。
それにしても、精霊という世界でもトップシークレットの秘密を、どこでどうルイは知ったのか?
疑問は、ますます募る。
ルイの監視は続けている。だが、不安にもかられている。
議長の疲労は、その心配に由来している。
「それでは会議を終わらせる。最後に誰か発言はないか?」
一同に視線を向けるが誰も手を挙げない。
それを見て、議長は立ち上がった。
続いて他の者たちもいっせいに立ち上がる。
ルイの知らぬ場所で、事は進みつつある。
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