第104話 主人公⑥ (リリス視点)


「なあ、リリス。君はいじめを受けているのか?」


突然アレックスくんに呼び出されたかと思うと、そう聞かれた。


「???突然どうしたの?」


私はとぼける。


「つい最近ハンネスから聞いたんだ。ハンネス、なんで今まで俺に言わなかった!」

「殿下、まるでボクが悪いみたいな…」

「だから、お前はなんで教えてくれなかったのだ!」

「それは・・・殿下に無駄な心配を抱かせないためです。遠目から見ていましたが、全然問題ないかと…」


私は二人の会話の成り行きを見守る。


「それ本気で言っているのか!内心傷ついているかもしれないだろ!」

「・・・確かにそうですが」

「まさかお前?平民に手を貸すことで俺に何かしらの不利益になるとでも考えたのか!?」

「はい」


ハンネスが素直に頷いた。


言い争いに発展しそうだったので、さすがに私が割って入った。


「アレックスくん!あまりハンネスくんを責めないであげて」


私の言葉にムッとする。


「どうしてだ?」

「だって仕方のないことだから」


そうとしか言いようが無い。


「仕方がないと言うが、君は辛い思いをしていたんだろ!」


私のことを思ってか、声を張り上げる。


「その気持ちは有り難いよ。でも、私なら大丈夫だから!」

「しかし、君はこんな日々でいいのか!?」


いいのか?と聞かれると返答に困る。


確かに辛い時もあるからだ。


友達も少なく、精神的に来てしまうようなこともされ、辛くないわけじゃない。


仕方ない、三人に話そう。


「・・・とある少女はある貴族の家で疎まれ、虐げられて生きてきました。窓もない牢屋のような部屋に放り込まれ、朝早くから夜遅くまで、召使いのように家事全般をやらされていました」


私は話を続ける。


「その少女には一人の妹がいましたが、その子は家族に、そして屋敷中の人たち、神から愛されていました。しかし、無能な姉は常に妹と比較され、酷い扱いを受けてきました。そしてある日、捨てられたのです」


淡々と続ける。


「とある大雨の日。少女は突然屋敷から追い出されました。下着のまま、着る服も与えられずに。少女は行くあても道も分からず、さまよい歩き続けました。食事にもありつけず、遂には動けなくなり、路地裏で行き倒れてしまいました。ただ運の良いことに、少女はその後、善人に拾われました」


三人が息を飲む。


あの時の地面の冷えた感触。


体中の体温が奪われていく感覚。


絶望。死を覚悟した瞬間。


一生忘れることが出来ないトラウマ。


あんな孤独は一生味わいたくない。


二度と経験したくない。


だから、


「今、アレックスくんたち三人とこうやって話し合える仲でいるだけで、私には幸せに思えるんです」


今は、美味しいものだって食べれるし、授業だって受けれるし、服だって着れる。


「いろんな面で、あの頃の少女よりも私は今恵まれている。だから、文句なんて言ってられない」


三人は押し黙る。


少しして、フレッドが口を開く。


「一つ聞きたい。リリスはなんでこの学園に入学したの?」


その質問にドキリとする。


まさか師匠に入れと言われたから、とは正直に言えない。


「理由は色々です。でも、強いて言うなら誰かの為になりたかったからかな」


これは本心だ。


師匠も然り、町のみんな、苦しんでいる人々の為。


私と同じ経験はして欲しくない。


「争いのない、平和で、飢えの無い、誰もが笑える世界。夢物語かもしれないことは分かっている。特に、貴族社会であるこの国では。でも、いつかは変わる。国は変わらなければいけない。その時、先頭に立てるような人間に私はなりたい」


そのために、この学園で強くなる。多くのことを学ぶ。そう決めて入学した。


私の答えに三人は口を噤み、うなだれる。


三人ともどうしていつもそんな暗い顔をするの?



『本当に困っている人は、心の内を見せないんだ』



師匠の言葉を思い出す。


おこがましいかもしれないし、勘違いかもしれない。


でも、聞かなければ。


私は三人に聞く。


「あなたたちの夢って、何?」


―――


少し短めの話でした。


ちなみに三人がそれぞれリリスに相談をして少し打ち解けたという話は書きません。

おそらく読者のみなさんもあまり興味がないと思います。

もし読みたいという方がいたら検討します。


明日は二話投稿します。

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