学園編 3.5章

第103話 主人公⑤ (リリス視点)

間章で、リリス視点です。

一話完結の話は一話投稿を、それ以外は一日二話投稿をしていきます。


―――




「あれ?靴が無くなっている?」


クロと一緒に訓練していた私は、下校するため下駄箱に靴を取りに来ていた。


しかし、そこに靴は無かった。


「またなのか!!!」


クロが憤慨した様子で私の周囲をキリキリと旋回する。


ここ一ヶ月ほど、こういう事がよく起きる。


靴が無くなるのは日常茶飯事。教科書を隠されたり、廊下を歩けば転ばされたり、水を掛けられたり、いきなり面と向かって悪口言われたり。


入学三日後の事件を思い出す。

あの日ー




「貴方、平民の分際でどういうつもり!!!」


放課後、クラスメート女子五人から校舎裏に突然呼び出された。


「え〜っと、どういうつもりとは?」

「とぼけても無駄よ!アレックス殿下にすり寄って!!!」

「アレックス君に?」

「貴方、殿下をくん付けするなんて!!!」

「信じられない!」

「不敬だわ!!」


口々に私を責め立てる。


「貴方のような平民が殿下と一緒にいるだけでも無礼だというのに。あまつさえ馴れ馴れしく、殿下をくん付けとは!」


この女子たちのリーダーであろう生徒が一歩前に出てきて、私を平手打ちにした。


パチンッ


[おい、貴様!]

[クロは黙ってて!]


私は平民。だから、この人たちは私がアレックスくんと一緒にいるのが不愉快なんだ。


貴族はいつだってそう。自己中心的で、わがままで。


昔は、私もそうだったかもしれない。でも今は違う。


クロという仲間もいるし、師匠や故郷マーセルには友達だっている。


屋敷で嫌われ、疎まれ、捨てられた時とはまるで違う。


「何黙っているのよ!分かったんなら、さっさと―」

「いいえ、私は友達であり続けます!」


遮るように、淡々と言う。


「平民だろうと貴族だろうと、一人の人間です。私だって階級のことは知っています。でも、アレックスくんがいいと言ったからそう呼んでいる。文句ありますか?」

「この!!!平民と貴族を一緒にするな!!!」


それは違う!


「一緒よ!平民だって褒美を立てれば貴族になれるし、・・・貴族だって捨てられたり爵位を剥奪されたら平民に成り下がるのよ!」


事実、私自身そうだから。


私も貴族だった。でも、捨てられ平民になった。


「貴族を知った風に言うんじゃないわよ!」

「貴方達よりは知ってるつもりよ!」


その本質も、醜さもね。


「キーッ!!もう怒った!許さない!覚悟しなさい!」


ブチギレたリーダーが突如襲いかかってきた。


二歩前に出てきて、私に手を振り下ろする。


この学園に入学許可された貴族の子弟だけあって、さすが、その動きは素早い。


でも、私は難なくよける。


「ちょ、調子に乗って!貴方達、とっちめておやりなさい!!」


そう指示されると、今まで罵倒しかしていなかった生徒たちが一斉に殴りかかってきた。


私はそれを、少しだけスキルを駆使しながらかわしていく。



もしもその光景をルイが見れば、一匹の狼に野犬の群れが襲いかかっている、とでも表したであろう。


野生の狼に、野犬と化した品位に欠けるペットどもが襲いかかっている!!と大声で笑うはず。



私は平手で拳を払い、怪我させない程度に転ばせる。


「平民の分際で!!!」


すでに四人が力尽き、最後にリーダーがまた殴りかかってくるが、拳を避け、同じように足を引っ掛けて転ばせる。


「では、これで失礼します」


そう言い残して校舎裏を後にした。


そんな事もあったなー


[あいつら、全く懲りてないな。リリスが手加減していたというのに]

「ハハハ」


私は軽く笑う。


でも、正直キツイいじめもある。


無くなったりボロボロになった靴や教科書は、新たに買い直さないといけないからだ。


師匠からお金は貰っているが、もちろん無駄遣いは出来ない。


それに、お金というのは管理が大変なのだ!


[おいおい、リリス。考え方、若干ズレているぞ!]

「え!何処が?」


クロに指摘されたが私は首を傾げる。


「何かウザいとかヒドいとか、そういう気持ちは無いのか?やり返したいとか?」


ああ、そういうことね。


「無いわけじゃない。けど、この学園に入学すると知ってから、ある程度覚悟していた。平民が受け入れられないのがデフォルトで、こういう事が起きるだろうと予測していたし」


クロは黙る。


クロ自身、リリスといたここ数年、それを理解していた。


「でも、アレックスくんのように普通に私に接してくれる人も中にはいる。そういう意味では、ここに来て良かったと思っているの」


私はニッコリと笑って裸足で帰るのだった。


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