第102話 監視者 (???)
スピット村近く。
巨大な不思議な森として恐れられている場所がある。
中に入るのは地元民でも危険とされており、人はほとんど訪れない。
そんな森の奥に人知れずある遺跡があった。
地下に存在しており、特殊な方法でしか入ることができない。
森に隠れた小さな丘に存在しており、木々に囲まれて遠方からは視認できない。
その丘に一人の怪しい人物が降り立った。
「逃げられたか・・・」
中性的な性別の分からない声。
黒いフードを被り、全身を黒一色で覆っている。
顔は見えず、ただその声色で笑っているのが分かる。
「まさかこの仕掛けに気づくなんて思ってもいなかったよ。ククク」
不気味に笑う。
「はて、どうやってここを脱出したのかな?」
その者はルイたちと同じ方法で遺跡の中へと入っていく。
階段を降りた所で、壊れた瓦礫群を見つける。
「なるほど、斬ってこの開かずの部屋を脱出したか。ふふふ、ずいぶんと大胆だな」
またも不気味に笑う。
「後で修理しなくては。さて、道は―」
部屋を抜け、その者はルイたちが壁に残した跡を追っていく。
その足取りは軽く、ルイたちが数時間も歩いた引き返し地点まで、僅か数分で着いた。
「まだ最深部まではだいぶ辿り着けない位置。とすれば、精霊術士では無く普通の魔法使いね」
ルイたちが何者なのか、推理していく。
「恐らく強力魔法使いと剣術使い。それに準ずる奴がその他数名・・・あの痕跡から察するに二人以上いるのは確実。でも、この遺跡の幅で擦り跡は無いから、そこまで多くないか」
ぶつぶつと呟く。
「それにしても汚らわしい魔法使いに侵入を許すなんて、我ながら不覚。もう少し改善ししなければ。と、その前に」
何かを思い出したようにその者は唱え出す。
すると突然風景が変わる。
先程までの石造りの廊下ではなく、辺りは巨大な部屋に変わった。
部屋と言っても薄暗く、出口は見えない。
そして、その者がまなざす正面には小さな祭壇があった。
祭壇の上には、ぐるぐる巻きにされて上から吊るされた檻があった。
その檻の中には、常人には見えないモノが鼓動していた。
「十、いや四、五年ぶりかしら」
その者は、目の前のモノへと話しかける。
[・・・・・・・・・・・・]
「つれないな。また、だんまりか」
なおも無言。
「君がここに封印されて早五百年。そろそろ計画が実行に移せそうなんだ。君のおかげでね」
[・・・・・・・・・・・・]
相変わらず無反応。だが、話を続ける。
「やっとこれで、長い長い耐えるだけの生活が終わる。精霊術士の時代が遂に来るんだ!これは精霊にとってもいい事だと思うんだ!君もそう思うだろ、精霊神?」
封印され、目の前の檻に入っているモノこそ精霊の最強格、精霊神だ。
[・・・・・・・・・・・・]
「何か答えてくれよ〜〜。いじけてしまうぞ」
[・・・もう興味無い]
「!!!わあ、久しぶりに喋った!」
精霊神が声を発したことに驚き、はしゃぐ。
「興味無いって、あの時、精霊のためにって暴れたのは君じゃないか?!」
[ああ、だがお前によって封印された]
「ええ、そうよ。あの時はまだ”時”じゃなかったし、計画が邪魔されそうになったから」
その者はニコニコと話す。
「いや〜〜流石に焦ったよ。何とか王国一個潰れただけで良かった」
昔の思い出を懐かしそうに喋る。
「あの後、ここを隠すのが大変だったよ。人が入れないような巨大な森を年月をかけて作り、百年に一回ほど侵入者が現れるからそれにも対処して」
[知らん]
「あ、そうそう。今日か昨日だか、久しぶりの侵入者が現れたんだよ!しかも初めて仕留め損なった」
興味なさげな精霊神へ、一方的に話す。
「まさかこの遺跡に施されている、最深部に引き寄せられる術が見破られるとは思ってもいなかった。魔法使いという外道の分際で、よくやったよ」
その声色は、ルイたちへの称賛と侮蔑が入り混じっていた。
「さて、そろそろ仕事もあるし戻るとするか」
一通り話し終えたのか伸びをする。
[勝手に帰ってろ]
「ちぇっ。もう少し寂しがってくれてもいいぞ」
無視する精霊神。
「じゃあ、バイバイ。あ!そうそう、くれぐれも変な気、起こさないように!外のアレを使って解放してもらったり不埒な事したら、タダじゃおかないからね」
そう言ってウィンクした後、その眼は殺戮者へと変化する。
[・・・・・・・・・・・・]
精霊王が返答しない様子に満足そうに頷いて、出口へと一瞬で移動する。
その者は一通り修復と補強を終えると、いずこへと去っていった。
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