第101話 監視者
閉められた部屋を出て一時間。
道に迷わないように印を付けながら進む。
「何か凄い変な気持ちですね」
「ああ、初めてダンジョンに訪れたときの感覚に似ているな」
上手く言葉では表しにくいが、時間の流れが遅くなっているように感じるし、体もどんどん重くなっている感覚に襲われていた。頭の中もさっきから、どんよりしている。
「最深部は何処なのでしょうか?階段を降りたり登ったり、右に行ったり左に行ったり、前に進んでいるかと思えば逆向きに進んだりしていて、どこに向かっているか全く分かりません」
オールドが言う。
分かっている、分かっているが、とりあえず前に進むしか無い。
進むしか・・・いや、いや、何をしてるんだ、俺たちは?! 我に返れ!
「もう退いたほうが良さそうだ」
「ルイ様、急にどうされたのですか?」
立ち止まった僕に、三人が顔を向ける。
「今回は迂闊だった。何らかの作用が働いて、僕らは最深部へと引き寄せられている」
「引き寄せられて?え、そうなのですか?」
パッチン パッチン パッチン バッチーン
僕は自分、アルス、レーナ、オールドの頬を次々と引っ叩いていく。
「目が覚めたか?」
先程まで、少し馬鹿っぽかった三人の顔が、ようやく普段通りの顔つきに変わった。
「ありがとうございます!スッキリしました!」
「ええ、私もです!」
アルスとレーナが礼を言う。
だがオールドは何故か頬をさすりながら、僕の顔を窺う。
「ルイ様。さっき、私だけ強く叩きませんでしたか?」
「ん、何のことだ?気のせいだろ」
僕は無視して話し始める。
「おそらくこの遺跡には監視者がいる」
「監視ですと!何処に!」
「今、ここにいる訳では無いだろう。おそらくだが、この場所に誰かが入った時、何らかの手段でその監視者に伝達が行くのだろう」
「なるほど」
僕は皆に、ここに入る前の話をした。
「ここに入る前、村長が言っていただろ。かつて、荒らしをした貴族が忽然と姿を消したと」
「ええ」
「おそらく、その監視者が殺った。その貴族は建石を抜いた、という話から察するに、それが侵入の合図になっているはず」
「つまり、建石を抜くと監視者に伝達される?」
「ああ」
三人は互いに顔を見合った。
「監視者はこの場所を管理する者だ。ここで、そいつと戦闘になってはまずい。魔法も使えない。ともかく、いつ鉢合わせになるか分からないから、今すぐここを出た方がよい」
そう僕が言うと、すぐさま行動に移す。
来た道を小走りで僕らは戻っていく。
体感三時間。ようやく、あの開かずの部屋に到着する。
「オールド!」
「分かっていますよ」
オールドは一歩前に出て剣に手を掛ける。
そして深呼吸をすると目にも止まらぬ速さで斬る。
ザシン―――ドッ
入口まで繋がる階段が見えた。
僕らは急いで駆け上がる。
しばらくすると地上が見えてきた。
小高い丘になっているため、空の明るさから今、どのくらいの時刻かおおよそ分かる。
「おいおい、もう夜が明けるぞ!」
暗くなった空の東の端が、ほんのり赤く染まっている。
「あそこで十二時間以上も彷徨っていたようですね」
僕たちは自分たちの身に起きている状況を整理できずにいたが、それでも足だけは動かしていた。
ひたすら、村までの暗い道を通っていく。
足元が見えず、途中何度も転びそうになる。
それでも急いで、あの場所から離れる。
「はぁ〜〜疲れた」
無事村に辿り着いた僕らは、そこで一眠りすることになった。
ただ、ボロ小屋(普通の民家)で寝るのが嫌だった僕は、仮眠を取るために馬車の中で横になったので、あまり眠れず背中も痛い。
「まさか、あんな場所があったなんて。気になるが、もう一度行く気にはなれないな」
一人呟いた。
この旅(調査)ももう終わりだ。
明日、家に帰る。色々と謎を残したまま。
でも、夏は長い。
調べることは山ほどある。
だから、悩んでもいられない。
「ルイ兄様、失礼します」
ノックをして馬車へと入ってくるアルス。
「よく寝れましたか?」
「まあまあな」
ぶっきらぼうに答える。
正直言えば、寝不足気味。
「それは良かったです。それよりも・・・」
アルスは何か言いたそうな顔をする。
「ああ、例の件だな。順次、行動を起こしておいてくれ」
「分かりました」
アルスは僕の指示を受けるとその場を後にし、闇の奥へと消えた。
闇はまだまだ深い。
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