第84話 チーム分け


ダンジョン。


それはこの世界では当たり前に存在する不思議な魔物を生み出す厄介な洞窟。


ランクによって階層が分かれており、それぞれにボスが存在する。


ボスを倒すとお宝を獲得できるという何とも人間にとってありがたい存在で、ボスは一日経ったらまた復活をする。


そのためダンジョン自体は壊さない限り永遠に存在し、だからこそ魔物を倒した時のアイテムやボスのお宝をゲットして売る冒険者という職種が存在する。


「ダ、ダンジョン、ね」


隣を見ると何故かナータリが顔を青くして震えていた。


「おい、お前ビビっているのか?」


小声で挑発すると、こちらを睨んで小さな声で怒鳴る。


「当たり前でしょ!怖いに決まっているじゃない!逆になんで貴方は平気そうなの?」


否定すると思ったが、意外にも認めた。


すると、レーナが口を挟む。


「ルイ様、ナータリさんのような反応は当然です。普通は魔物と戦うと知れば、誰だって怖じ気づきますよ」


そういうものなのか?


そう思って周囲を見回すと、レーナの言う通りほとんどの生徒の顔が青い。


息が荒くなる者、しきりに自分の剣を触る者、身体を小さくしてうずくまる者。


反応は様々だ。


「生徒諸君!分かっていても、いざ目の前にすると怖いかもしれない。だが、恐れることは無い!」


ラオスが断言する。


「君たちは強くなった!入学した時のヒヨッコではない。成長したのだ!今日の相手は、レベル的には高くても中級程度。今の君たちなら倒せる相手だ!」


まあ、そうだろうね。


このSクラスには、中級以上の魔法の使い手、または、剣士以上の剣の使い手しかいない。


だからそんなビビる必要は無いのに。


「いいか!恐れるな!立ち向かえ!勇敢な学園の諸君よ!怖いかもしれない。それでも、参加したい者は手を挙げろ!別に、強制はしない」


ラオスはそう言って、生徒たちを眺め回した。


しばらくして数人の生徒が手を挙げ始める。


それが合図となったのか、どんどんと続けて手が上がった。


「よし、全員行くのだな!みんな、勇敢だ!自分のその心意気を誇ると良い!」


ラオスはみんなを鼓舞するように、その手を高らかに挙げる。


「じゃぁ〜これからチーム分けをしますぅ〜」


そんな場違いな、のんびりとした声で話し始めたのは、片手に小さなボードを持ったイルナ。


生徒たちの前に出てきて、話を続ける。


「では二チームに分けまぁ〜す。それぞれに私とラオス先生がぁ〜引率しますぅ〜。そこでぇ〜、それぞれのチームでぇ〜リーダーをやりたい人ぁ〜?」


僕は真っ先に手を挙げた。


「お、流石クラスリーダーだ」


ラオス先生が嬉しそうにニコニコする。


勘違いするな。


僕は前線に出たくないから、後ろからリーダーとして指示したいだけだ。


「他に〜やりたい人はいますかぁ〜」


シーンと静まり返る。


ふとリリスたちの方を見ると、何やらこそこそとアレックスに耳打ちをしていた。


話し終えたのか、アレックスが驚愕の表情を浮かべてリリスを二度見する。


そして、少しして手を挙げた。


「じゃあ、俺がやります」

「あらぁ〜嬉しいわぁ〜。じゃ〜こちらで適当に振り分けるわね」


ダンジョン探索において必要な人数は最低でも五人。


五人以下で行くとなると、ある程度のレベル差が無いと危険である。


このクラスは四十人。二つに分けたとしても二十人ずつで十分である。


まぁ、僕の出る幕は無いだろう。


暫くした後、生徒たちはそれぞれ名前が呼ばれて、2チームに振り分けられる。


僕は、ラオスが引率者となるAグループ。


アルスとレーナはもちろん、ナータリ、取り巻きA、Bたちも同じチーム。


その他の生徒の顔ぶれを見ると、同じような地方貴族や大貴族だったり、中立派であったり。


随分と配慮されたチーム分けだった。


こういう生徒間の身分差や派閥争いの絶えない学校では、こうした作業は結構大変なんだと思う。


「それでは、これよりダンジョン探索を開始する。そこの前にある魔法陣の上に立つように」


ラオスに続いてAチーム全員が入る。


「では、行くぞ!【ワープ】!」


そう唱えられると同時に、魔法陣が白く光り出す。


その光が一気に僕らを飲み込んでいく。


「おお!」


僕は思わず感嘆の声を上げる。


何しろ光が収まったと思った次の瞬間、そこは先程までいた地下室ではなく、広々とした洞窟の中だったからだ。


「これが噂の瞬間移動か!」


あまりお目にかかれない魔法だ。


ぜひ使えるようになりたい。


だが、今はまだ授業時間だった。


「授業で習ったような配置につくこと!」


その言葉とともに全員がそれぞれの役割に応じた位置につくのであった。

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