第80話 交渉
入学してから一ヶ月。
今までは特に他から干渉は受けてこなかった。
ここ、帝立学園への入学理由の半分はコネを作るため、というのは周知の事実。
取り巻きA、Bも僕との関係を築くために擦り寄ってきている。
彼らの他にも僕に接触してくる奴らは何人かいる。
それは前世でも経験していたことだし、次期公爵家当主の僕が擦り寄られるのは当たり前だから、なんとも思わない。
必然、当然、絶対起こることだ。
ここの教師でさえ、僕を叱ることはないし、敬称を外すこともない。
一生徒に過ぎないのはあくまでこの学園内にいる時であって、学園の一歩外に出れば僕のほうが先生よりも偉くなる。
だからこそ、僕はこの学園でのびのびとしていられる。
だが、そんな僕を呼び出すことのできる存在がいる。
学園長はもちろん、僕より身分の上の存在だ。
そして、図書館で調べ事をしていた僕を無礼にも呼び出してきたのがこの国の第二皇子。
一応僕よりも身分は高い。
指定してきた話し合いの場は、彼が在籍している三年Sクラス。
僕ら一年のクラスの一階上の場所だ。
渋々取り巻きAに連れられて僕は向かった。もちろんアルスとレーナも連れて。
途中、何故か廊下にいたナータリと合流する。
「お前、何でここにいるんだ?」
「何で、じゃ無いわよ!私は一応貴方の派閥と言ううことになっているの。それが第二皇子様に呼ばれたと聞いたら、駆けつけてくるに決まってるわよ!」
「何で知っているんだ?」
僕が聞くとナータリはサラリと答える。
「学校中の人が知っているわ。だから放課後だというのに、やけに人が多いでしょ?」
言われてみれば、廊下で何人もの生徒たちとすれ違う。
なるほど、確かに多い。しかも、ほとんどの生徒がこちらをチラチラと見てくる。
注目されているのか。うん、なかなか気分いいね!
そんなこんな話をしているうちに、教室前に着く。
「失礼します」
一言挨拶をして教室に入る。
中では、向かい合わせに机と椅子がそれぞれ一個ずつ置かれていた。
僕が入ってきた反対側に生徒が一人、腰かけていた。
薄い青髪に少し混ざった赤。インテリ風なメガネを掛け、制服をしっかり着こなしている生徒。
彼こそ第二皇子、カエリウス・ド・フランシーダである。
僕やアレックスの三つ上で、侯爵家の母親を持つ帝国第二勢力の中心人物。
この帝国で起きている次期皇帝争いは、第一皇子派と第二皇子派で基本的に争っている。
第一皇子は他国から嫁いできた王妃の子であり、後ろ盾には王妃の出身国やその同盟国、一部の大臣、軍部がついている。
一方、第二皇子の後ろ盾には国内の多数の貴族、官僚、一部の大臣がついている。
中立派は、我が父上、宰相であるブルボン公爵家を中心とした大貴族たち。
彼らは地方で力を持っているからこそ、政治の中心には、これまであまり首を突っ込んでこなかった。
ウチのブルボン家もあくまで宰相職に就くことで、名目上、他の中立派と政治を結ぶ橋渡し的存在になっているだけ。
仕事は実質、宰相補佐(つまり皇帝お気に入りの部下)が行っている。
さて、そんな中央政界の争いの渦中にいる人物に僕は呼ばれたというわけ。
「殿下がお呼びだと伺って参りました」
「ああ、座って良いぞ」
アルスとレーナは僕の後ろに控える。相手も従者を二人連れている。
「それで、どういったご要件で?」
一応先輩であり第二皇子。しかも大きな派閥の持ち主だ。
少し下手に出る。
しばしの沈黙があったが、口を開く。
「単刀直入に言おう。お前もこちらの派閥にならない―」
「お断りします」
質問は予想できたし、答えは決めていた。
「・・・そこまで食い気味に断るとは。まさか、第一皇子派なのか?」
「いえいえ、そんなまさか」
断じて無い。というよりあそこに入るのは愚の骨頂だと思っている。
「では何故そんな即答で断った?こちらは、まだ何も条件を提示していないのに」
不思議そうに首を傾げた。
「僕に提示できる条件は限られますよね?領土の加増だったり、皇室との血縁関係の提示だったり、将来の複数の役職への任命だったり。そんなところですよね」
「まあ、そうだな。公爵家の君へはそのぐらいしかできないよね」
そこら辺の小国家以上の規模を誇るブルボン公爵家だ。並大抵の条件では派閥に付くことはできない。
「交渉条件の予想が出来ていたから、君は断ったのかい?」
威圧的に言葉を強める。
「ええ、まあ。旨味を感じませんよ。貴方はものすごく優秀であるということは耳に入ってきていますし、勢力として大きい。でも、だからこそ貴方が勝利した時、裏切られる可能性がある」
第二皇子は見た目通り、魔法や勉学、剣術、語学といった多くのことに才能がある。
でも、僕が彼の派閥に付くことはない。
何しろ、僕は自分よりも家柄が下の奴に下るつもりは毛頭ない。
侯爵家の生まれなど屁でしか無い。
「・・・君の意図が読めん。僕でも兄上にも付かない。まさか、アレックス―」
「それは絶対ありません」
すぐさま否定する。
そんな事になるのだったら死んだほうがマシだ。
「では誰に付くというのだ?」
僕はそれには答えない。
今のところ当主は父であり、僕自身としても今はまだ中立派である。
「領地をその歳にして持っている君を見込んだんだが・・・無理か」
流石に嫌だ!
「答えてくれないか。では、最後にいいか。何故僕に付かないか理由を教えてくれ。さっきの理由は建前で言ったのだろ?」
まあ、そうだ。
何で僕がこんな侯爵家ごときの母親を持つ奴に裏切られることを恐れると思う?
でも、もちろん、ここで母方の血筋がどうのこうの言うほど馬鹿ではない。
せめて、理由の一つとして言うとしたら、
「カエリウス様。この話し合いが学校中に知られているのはご存知ですか?」
「!!!何だと!この事は内密にやろうとしていたのだが・・・まさか!」
聡明な人物ならば分かっただろう。
「そうです。情報を流す裏切者がいるような陣営には、付きたくありませんね」
そう僕が言って、悔しそうな表情を浮かべる第二皇子の顔が忘れられない!
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