第79話 文献
図書館に着いた僕とアルスとレーナ。
取り巻き二人は帰らして三人だけで調べている。
ちなみに二人には、リリスが使っているのは『もしかすると精霊術かもしれない』とだけ伝えている。
ここ一ヶ月で読んだ本や文献は十冊ほど。
許可が必要な貴重な本は館外への持ち出しは厳禁なため、図書室でしか読むことができない。
精霊術対策となる何か手がかりはあるか、それを今は調べている。
「ルイ兄様。昨日の続きですね」
そう言ってアルスが持ってきたのは数日前から読んでいる、帝国以前のマジルレイ=ハンレイオウス朝という国家の歴史について。
普通はマジルレイ王国と呼ばれている。
マジルレイ王国は帝国が生まれる五百年前に興り、マジルレイ=ハンレイオウス朝はその300年後に誕生した国家だ。
領土は大陸の南西部に位置していたが、今からおよそ五百五十年ほど前に、突如として滅びた国家だ。
ハンレイオウスとは、全盛期を迎えていたマジルレイ王国の王家の名である。
全盛期は、今の帝国ぐらいの領土を築き上げていた。
その後、数十年で衰退したが、それでも滅びる直前まで帝国の半分相当の領土を持っていたという。
この帝国と並ぶ強大な国家が、なぜ五百五十年前、突如として滅びてしまったのか?原因は今も分からず、当時の資料も少ない。
僕もその点に疑問を持ち、調べている。
『大陸歴1014年、7月10日。
突如としてマジルレイ王国が滅びた。
噂によると、□ □ □ □ □ □ □ とされているが、もしかすると□ □ □ □ □のせいかもしれない。
だが、□ □ □ □ □が存在していた場合起こりうることだろう。
やはり精霊術士は厄介だ。 』
とある古い日記では、このように意味深長なことがことが書かれていた。
重要な箇所は虫食い状態なっていたが、最後の一文には、はっきりと「精霊術士」という文字が書かれている。
ただ少し意図的な印象もある・・・だが今はその点は置いておこう。
ところで、マジルレイ王国の歴史において僕らが現在注目しているのが、滅亡の数年前に突如として現れた無詠唱魔法使いのような存在だ。
本来、最初の無詠唱魔法使いは、この僕だ。
実際、僕たちが読んでいる文献には『無詠唱魔法』とは書かれていない。
だが、それを示唆するような言葉や記述がいくつも見つかった。
曰く、
・何も詠唱せずに魔法を放つ。
・その者からは魔力が感じられない。
・独り言が多い。
無詠唱魔法使い・・・というよりも精霊術士に近い特徴となっている。
この謎の人物は、王国が滅びる一ヶ月前に忽然と姿を消したらしい。
推測では、この者がマジルレイ王国滅亡の謎に関わっているとしか思えない。
もっと言うと、僕の前世の記憶(うろ覚えであるが)をたどってみても、このような登場人物は小説には書かれていなかった。
もしかして、僕が小説世界に転生したことによって何かが変わったのか?
余計に混乱する。
ともかく、今回の文献調べでリリスが危険な存在ではないかと強く意識するようになった。
僕の人生の妨げになるだけではない。
この国、帝国自体を滅ぼす可能性がある。
何しろ、…突如現れた精霊術士…という点はマジルレイ王国の時と一致している。
「ルイ様、面白い文献を見つけましたよ」
僕が文献とにらめっこをしながら考察していると、横からレーナが呼ぶ。
「どういうものだ?」
「マジルレイ王国に関係するかわかりませんが、とある村に伝わる封印伝説についてです」
「封印伝説?」
レーナは簡潔に教えてくれる。
どうやら帝国南西部のとある村に、突如として禍々しい存在が現れ、森を闇へと変えてしまったらしい。
だが、その禍々しい存在を謎の魔法使いが現れ倒した、という伝承だった。
それがちょうど五百年〜六百年ほど前の出来事らしい。
「まあ、確かに被ってはいるがどこにでもあるような話だろ」
「ええ、ですがここからが重要なのです。当時の村長が言うには、その魔法使いが複数の光を連れているのを見たと証言したらしいです」
「光を見ただと!」
それは確かに精霊術と関係がありそう。
精霊を何故見えたのか分からないし、物語は誇張されると言われる。
嘘の匂いもしなくもないが、調べてみる価値はある。
「レーナ、引き続き調べてくれ」
「分かりましたが・・・これ以上続きがありませんのですが」
「それでもだ。付近の村の伝承などもあたってくれ」
「分かりました」
レーナに指示すると同時に僕は椅子へともたれかかる。
あまりにも情報が多いし、すべてを覚えることができない。
いくつかの出来事が繋がっている感じがするが、それが精霊術に結びつくか分からない。
と言うより、何で僕はこんなことをやっているんだろ?
歴史を見てもリリスへの対策が浮かぶわけではない。
調べる必要は無いと言うのに・・・いや、きっとあるはず。
必ずリリスを倒す。取り巻きたちも倒す。
それが僕が生きている証、存在意義だ。
だからこそ確実に。余念の無いように。
「さて、続きをやるか―」
「ルイ様!」
僕がもう一度文献に目を通そうとした時、突然取り巻きAが図書室へと入ってきて僕の方の駆け寄ってくる。
「ルイ様!」
「うるさいな。ここは図書室だぞ」
「す、すいません!ですが、ですが、」
「何だ?そんなに慌てて?」
「実は、第二皇子様がルイ様をお呼び出そうでして」
・・・なるほど。とうとう呼ばれたか。
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