学園編 2章
第78話 日常
さて、入学して一ヶ月。
クラスではグループや友人関係が構築されてきており、少しずつ全員が生徒として馴染みつつある。
一年生は一日の授業が五時間目までで、一授業五十分。
昼休みと授業の間に移動時間が十五分と前世の学校の仕組みとよく似ている。
授業は魔法系と実戦、剣術、外国語、歴史、地理、数学といった主に九つ。
特に魔法系(魔法、魔法史、魔法研究)と実戦、剣術は週五日間の学校の授業時間で十五時間を占める。
最も行われるのが実戦で、一日二時間の授業が週に四回ある。
つまり、この学園では、一週間のうち五分の四を占める実戦授業を重視している。
実戦授業では、主に一対一の模擬戦や集団における陣形の取り方、戦略、戦術など様々のことが行われた。
その他にも色々とやるが、とりあえず前世をもつ僕にとっては新鮮だった。
学校に馴染めたかって?
ああ、馴染めたとも。最近では取り巻きも増えた。
「ルイ様、おカバン持ちましょうか?」
取り巻きAがヘコヘコして聞いてくる。
「ああ、頼む」
僕は教科書が入った重いカバンを渡す。
「はぁ、ルイ様、飲み物を買ってきました」
息を切らしながら駆け寄ってくるのは取り巻きB。
喉が渇いた僕が飲み物を先程買わせに行かせたのだ。
「おお、早かったな。褒めて使わす」
「へへぇ、ありがとうございます!」
僕に褒められて、頭を勢いよく下げる。
「ルイ兄様・・・」
「ルイ様・・・」
ここ一ヶ月では見慣れた光景にも関わらず、アルスとレーナは呆れている。
だが、彼らは僕の役に立てることこそが生き甲斐なのだ。彼らに学園生活の、いや人生の目的を与えてやっているのだ。
だいたい、カバンだって一人で持てるし、飲み物だって自分で買える。身の回りの事をいちいち誰かに頼むのにも、上の人間の仕事の一つなのだ。誰に何を頼むかも僕は頭を動かしている。
それはそうと、取り巻きA、Bの二人は同じクラスの者で、男爵家の次男と三男らしい。
名前?…覚えとらん。
とりあえず、僕に取り巻きが出来たのだ。
「ルイ兄様、今日も行かれるのですか?」
歩きながら後ろからアルスが聞いてくる。
「ああ、そうだ」
今、僕が向かっていて、最近通っているのが図書館。
対リリス戦を見据えて、色々と情報を集めている。
この学園の図書館は国内でも最大級の大きさで、数十万冊の本が所蔵されている。
中には特別な許可を貰わないと見れない貴重な蔵書まである。
それら貴重な書物の中に、精霊術に関して詳しい記述が書かれている可能性がある。
精霊術について、現時点で僕の前世の記憶と調べて分かっていることがいくつかある。
まずは、精霊術の歴史。
3000年前から存在しており、1500年前に魔法が誕生するまで強い力を持っていた。
現在ではその存在自体が伝説や物語となっており、基本的にどの文献を読んでも載っていない。
ただ、前世の記憶から精霊術の存在は魔法学会の一部の上層部と皇家には伝わっており、リリスがSクラスに配置されたのもその監視が目的らしい。
そんな一部の権力者にしか知られていない精霊術。
どのようなものかを伝説や物語として残っている記録と、前世の記憶を元にまとめてみた。
まず、精霊術に才のある人しか視認できない精霊と契約を結ぶことによって力を使える。
その契約も二つある。
精霊術が魔法に勝っている点は、まず第一に詠唱の速さである。
一語で発動できるため、長ったらしい詠唱ををともなう魔法よりも楽チンだ。
また第二に、魔力が無い場所でも使うことができる利点もある。
まあ、後者の利点は限定的だが。
ある程度理解できた精霊術だが、分からない点が二つ。
一つ目は魔法と何が違うのかということ。
精霊が何らかの形で魔法のようなものを生み出すのだろうが、それが何なのかわからない。
系統や種類、発動条件など前世のあの小説にも書いていなかった・・・気がする。
二つ目は精霊術士は今何をしているのかということ。
1500年もの間歴史に名を残さなかったとはいえ、何処かしらで何かアクションを起こしていたはず。
だが、そういう文献も見当たらない為、真実はいまだ藪の中だ。
また、何故リリスが入学したのか?彼女やその仲間の精霊術師の存在は、これまでどのように隠蔽されてきたのか?
分からないこと、謎が多い。
何よりも今、僕が悩んでいるのはリリスと戦った時の対処法だ。
いつか必ず潰す。それは確実だが、はたして本当に勝てるのか?
僕らしからぬ不安だ。
今の時点でリリスが使える三つの精霊術の内、一番厄介なのが【ストップ】。
時間停止能力だ。
これは正直対処が難しい。
発動条件は、確か相手の体全身を三秒間見つめること。代償が存在し、解除後一時的に身体能力が八割になるというややこしいもの。
デメリットはまあまあ重そうだが他の二つの能力で補える。
ちなみに【グラビティー】と【ライツ】のうち発動条件が存在するのは前者の方。
条件は、相手との距離が二十メートル以内であること。代償は相手と反対の効果が一割程度自分に掛かるという、これまたややこしい条件だ。
これらを圧倒しなければ勝てない。
だが、現段階において僕はその術を持っていない。
だからこうやって図書館通いをしながら、僕は模索を続けている。
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