第77話 主人公② (リリス視点)
新たなる生活。初めてできた友達。
一人ぼっちだった私は胸を踊らせていた。
身分を気にせずアレックスくんは私に接してくれる。
それが、気持ちよく感じていた。
この学校では未だに平民への差別意識が強い。
貴族絶対主義。それは私がまだ男爵令嬢だった頃と変わらない。
だからこそ、周りの視線が最初から痛かった。
なるべく明るく振る舞ったが、初日は女子友達はゼロ。
この世界が、国が、学園が、如何に階級意識が厳しいのか、まざまざと現実を突きつけられた。
でも、私は今日まで努力してきた。
魔力が使えず、家族に捨てられた私にとって、今の力はまさしく欲しかった力。
だからこそ、クロと出会ってから人一倍努力し鍛錬してきた。
手にマメができても剣を振り、足が棒になっても次の日もしっかり走った。
何度も師匠に負けてはクロと戦い方を模索したし、何度も格上の魔物に挑んで戦い退治してきた。
精霊術に習熟していくことで、普通の魔法使い、いやそれよりも強くなったと実感していた。
緊張して受けた入学試験も、無事相手を倒すことができ合格した。
女友達はできなかったが、初めての友達もできた。
辛い日々があったからこそ、今が幸せに感じられた。
そして、たぶん、何処かで驕っていた。
同年代になら負けない。そんな自信が私にはあった。
でも―
ドッッッンンン
ピキッ
目の前の結界にヒビが入る。
[な、何なんだこれは!]
珍しくクロが驚愕の声を上げながら私の周りを高速で旋回する。
魔法をもろに食らった生徒、確かカマセくんがその場に白目を向いて崩れる。
それを見ていたイルナ先生が急いで駆け寄る。
「良かった。気絶しただけだったわ」
先生二人が安堵の息をつく。
一方、周囲で試合を観戦していた生徒たちは、唖然と騒然が混ざりあった騒ぎになっていた。
[あの、偉そうな貴族。メチャクチャな力じゃないか!]
クロが言っているのは、ルイくん。貴族の中でも一番偉い公爵家、の中でも名門と言われているブルボン家の嫡男だ。
お父さんは国の宰相を努めているようで、典型的な貴族だ。
その言動も凄く、皇子であるアレックスくんにも敬意を示さない態度。
私とすれ違うときは毎回見下したような、目を細くして一瞥する。
でも、彼はただのボンボン貴族じゃなかった。
一時間目の魔法の授業で、彼は無詠唱魔法を披露してみせたのだ。
魔法を使えない私だが、魔法については何度も勉強した。
どれだけ級を上げるのが大変か、どれだけ工夫するのが大変か。
これに関しては精霊術も似ている。
どれだけ努力しても中々うまくいかないものだ。
だけどルイくんは、魔法学会の中でもトップレベルの魔法研究者に長年研究されながらも、全くもって進展のなかった無詠唱魔法を、なんと私と同じ歳で既に使えるようになっていた。
もちろん、あの場で実演した時、私も半信半疑だった。
でも、今の試合を見て偽りなど無いと確信した。
何しろ無詠唱を三度も使ったのだから。
二回はバリアに、一回は中級風魔法に。
それだけ簡単に使えるぐらい、すでにルイくんは熟練の域にあるということ。
私の使っている精霊術が魔法よりも勝っている点は、詠唱の早さ。
でもそれと同じくらい、いやそれよりも早いとしたら?
「私は戦うために来たんじゃないの。自分がもっと強くなるためにこの学園に来たの。師匠の言葉通り、強くなるために」
私は首を振りながら小さく呟く。
敵対とか、派閥とか。そんなのに私は興味はない!
「大丈夫か?リリス?」
私が一人でぶつぶつ考えていると、心配そうに顔を覗き込んでくるアレックスくん。
「え、うん!少し驚いただけ!」
「・・・だよな。まさかあいつにあんな力があったなんて。無詠唱も使えるし」
アレックスくんも、その友達のハンネスくんとフレッドくんも何故かうつむく。
何か暗い空気になっている。
どうしよう〜〜
「―――とリリス。結界の中に入って位置につくように」
先程の試合の後片付けや結界の修理が終わったのか、ラオス先生が名前を呼ぶ。
どうやら私の番らしい。
私は暗い空気から逃げるように結界内に入り、位置につく。
ふと視線を感じてそちらを見ると、ルイくんが何故か私を睨んでいる。
[おい、リリス。目の前に集中だぞ!]
あ、そうだった。
私はいつも通りの戦いをするだけ。
「始め!」
ラオス先生の合図で試合が始まった。
ーーー
学園編 一章終
これからも毎日投稿頑張っていきます!
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