異世界貴族は家柄と共に！ 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

第76話 分からせ？

「貴族なんて死ねぇぇ！！！」

大きな声を上げながら剣を振り上げ一歩でこちらの正面に入ってくる。

その速度には一瞬目を見張るが、まだまだだ。

僕は硬い魔力で作られた壁をイメージして目の前に展開する。

「なっ！」

カーーーン！！

剣が弾かれる音が響く。

大きく振りかぶっていたカマセは反撃を警戒して、一歩後ろへと瞬時に後退する。

いい判断だがそれぐらいは予想できる。

僕は魔力の壁、無詠唱で発動させた【バリア】を解除して前へと一歩踏み出す。

それと同時に腰に差した剣を抜く。

剣で斬ってくることを察知したカマセが、弾かれた体勢となっていた剣を構えの位置に戻した。

キーン！！！

僕が繰り出した一撃が相手の剣によって弾かれる音。

もちろんそこで攻撃を終わらせず、二撃目を間髪入れずに入れる。

シャリーン！

今度は剣と剣が擦れる音。

カマセが二撃目の僕の剣を受け流したのだ。

「甘い、貴族は傲慢すぎだ！！！」

傲慢だと？笑わせるな！

「当たり前だ、選ばれた人間だからな！」

斜め上から二撃目を入れていた僕の剣は流され、地面へと向かう。

体勢が前のめりになったガラ空きの僕の胴体に、剣が振り下ろされる。だが、

カーーーン！

またも壁に剣が当たる音が響く。

「なっ、また無詠唱だと！」

さっきも言ったが、選ばれた人間だからな。何だってできるんだ！

またも剣が振り上がる状態に戻されたカマセ。

一方、前のめりになっていた僕は、相手の体勢が崩れた瞬間に足を一歩体より前に出し、無理やりに踏みとどまる。

そして体を捻って剣を真っ直ぐ相手の胸に向かって突く。

もちろん、相手も反応する。

咄嗟の判断か、左手を剣から離して剣先が来るであろう胸元を庇うように防ごうとする。

だが、まだ甘い。

カマセは僕を知らない。

僕が本当に得意としているのは剣ではなく、魔法なのだから。

相手は、防ごうとした自らの左手と剣で視界が制限される。

僕は剣を手離し、姿勢を低くして一気に懐へと入る。

「何故―」

カマセが言葉を発する前に僕は無詠唱の中級魔法をどてっ腹へと直に打ち込む。

風魔法のため、後ろへと一気に吹っ飛ばされ結界の端にぶち当たる。

ドンッ

「ぐはっ」

舐めた口を貴族様にきくからだ。

これで勝負は―

「ま、まだだ！まだ俺は負けていない！」

「はぁ〜面倒くせぇ」

ため息が漏れる。

カマセがゆっくりと、顔をしかめながらも立ち上がる。

「お前のようなクズ貴族は、絶対倒してやる！泣かせてやる！」

品がない、無さすぎる。

「我を強く、勇ましく、強化しろ、【スト・ロー・ジング】！」

そうカマセが詠唱すると、体がオレンジ色の光にほのかに包まれる。

「どうだ！中級身体強化魔法だ！お前の魔法など、もう効きはしねぇ！」

自信満々に吠える。

確かに身体強化魔法は自身の体を強化することで、同レベルの魔法ではダメージには繋がらない。

「あのな。そんなのをしたぐらいで僕に勝てると思っているのか？」

「あ”あ”？勝てるに決まっている」

これだから馬鹿は困る。

僕は手を前にかざし、乱れ狂う大河をイメージする。

何もかもを飲み込み、波高く打つ河を。

「いいか、魔法など打っても―」

「集い乱れ、水の神となれ、【ウォーグラン】！」

人の二倍もする魔法陣が一瞬で展開される。

そこへ大量の魔力が集中して水へと、水が集まり大河へと変化する。

「な、な、なんで聖級を！や、やめ―」

そこで奴の言葉は途切れた。

魔法は放たれ、結界際にいたカマセを直撃する。

ピキッ

全ての魔法が放たれた後、残ったのはぐったりと倒れて気絶したカマセだけ。

教師の二人はこちらを唖然とした表情で見ていた。

「結界にヒビが入ったぞ！」

え、まじ！

僕が魔法を放った方を見ると確かに亀裂が入っている。

ちなみにさっきの魔法は本来、「我が元に集い、関を乗り越え、大河と成れ、【ウォール・ホリー・グラン】」と詠唱しなければいけない聖級魔法。

もちろん、短縮したのだ。

今の時点で僕が使えるのは、聖級全てと一部の帝級だけ。

帝級魔法はあまり実用性が無いが、一応使える。

カマセは死んでいないと思う。

この結界内で死ぬことはまずない。

・・・たぶん。

とりあえず、あの馬鹿に分からせることは成功したな！