第74話 無詠唱魔法
「先生、発言よろしいですか?」
「誰だ!・・・って君は」
僕の顔を見て真っ青な顔になるアンドレ。
「どうも、ルイ・デ・ブルボンです。しがない公爵家の嫡男です」
嫌味たっぷりに自己紹介をする。
「あ、ああ、君のことは知っているとも。どうぞ発言してもいいですよ」
渋々といった感じで言うアンドレ。
「では、先程の件で。ウチの奴隷の発言ですが、無詠唱魔法は実在します。と言うか、発明者は僕です」
「「「はぁぁぁ!?!?!?!?!」」」
先程よりもひときわ大きな驚きの声が教室中から沸き上がり、視線が一気に僕に集まる。
・・・にしても、なるほど。
小説内のルイの気持ちが何となく分かった。
案外、注目されるというのも悪く無いな。
まあ、それはいいとして。
「ルイ君。それは本当なのか?」
「ええ、実演してみせますよ」
そう言って僕は手のひらを上に向けてイメージする。
体に入り込む魔力が変換され、大きな爆炎になるイメージをする。
イメージする時に大事なのが、その魔法への理解度だ。
例えば火魔法。
これをイメージする時、構成物質が何かなど難しく考えなくていい。
今までに発動したことがあるなら、それを詳しく具体的に思い起こして魔力に伝えればいい。
まぁ、僕も初級ができるようになるのに一年かかったぐらい実は難しい。
何より一番大事なのは、魔力が魔法へと変換されるイメージを持つことだ。
普通の人は、何となくでやってしまいがちだ。
だが、それをもう少し詳しくイメージするだけで簡単に感じ取れる。
これら全てを理解して、初めて無詠唱魔法を発動できる。
僕が魔力を変換させると同時に、手のひらに赤い魔法陣が展開される。
そこから、天井に当たる勢いの爆炎が噴射された。
「こ、これは、中級魔法の【フォルト・ロー・フレイ】ではないか!今、詠唱していなかったぞ!」
アンドレは、七三分けの髪をふり乱しながら僕の方をじっと見る。
「ま、魔道具を使ったのか?!」
「な、わけありません。ちゃんとした僕自身が生み出した無詠唱魔法です」
まだ特許は取っていないけどな!
「し、信じられん!!!こ、こんなガキが」
おうおう、無礼はなはだしいな!この僕に向かってガキ呼ばわりとは!
「お分かりいただけましたか、先生?魔法において一番大事なのはイメージなのです。ですから今後、二度と、人を見下したような態度をなさらないように・・・」
そう告げて、レーナは僕の方を見てニッコリと笑う。
ただし、その目は笑ってはいなかったが。
「なあ、なんでレーナはあんなに怒っているんだ?」
何も言わなければいいものを何故かクールな普段と違って、アンドレに噛み付くレーナの言動を僕は不思議に思い、横にいるアルスに小声で聞いてみた。
「・・・恐らく、レーナの実家の伯爵家を陥れたのに一枚噛んでいたと噂されているのが詠唱派だからかもしれません。レーナの父、アルダリース伯爵は魔法陣派の重要人物だったらしいので」
なるほど、そういうことか。
「く、くそ。では、せめてその無詠唱の原理を教えてもらおうではないか」
悪態をついていたアンドレだが、そう言いながらニヤリと笑う。
「この壇上に立って、ぜひ無知な私に教えてくれ―」
「嫌だ、断る。先生、早く授業を始めて下さい!」
魂胆は丸見え。
これは無詠唱という、1000年以上の魔法史の中でも一、二を争うレベルの大発明だ。
なんとか情報を聞き出そうとしたいんだろうが、そんな単純な手には乗らん。
「う、チッ」
僕の返答に思わず舌打ちをしたアンドレのその目が、一瞬、黒く怪しく光ったのを僕は見逃さなかった。
「おい、それにしてもなんで無詠唱をみんなの前で話したんだ?」
僕は隣のレーナを睨んで詰問する。
「確かに無詠唱魔法は隠した方がいいレベルのものです。ですが、万が一漏れて皇家にバレた場合、恐らく公爵家が取り潰しになります」
「そんなものか?」
「あくまで予想ですが。ちなみに文献で知った過去の事例ですが、初めて帝級魔法を使えるようになったある貴族がそのことを隠した結果、拷問され全ての情報を聞き出された後、火炙りにされたらしいです」
マ、マジですか?火炙り?!こわっ!!!
「でも、バレなきゃ―」
「いえ。ルイ様のお口は空気より軽いので」
おい、どういうことだ!こらっ、アルスも横でうなずくな!
「とりあえず、どこかのタイミングでカミングアウトした方が良いと思いまして。丁度いい機会だったので」
それ絶対、後づけだろ!
「だけど、我々に利益は無いのでは?」
アルスが聞くと、レーナは首を横に振る。
「そんなことはありません。魔法学会がこちらを無視できなくなります。しかも、ルイ様がその原理を説明したところで、そうそう出来るものでもありません。のらりくらりと、はぐらかしていればいいのです。なにしろ、無詠唱魔法を使えるのはルイ様だけですから」
「いや、レーナお前も―」
「私が使えるとは公言していませんし、する予定もありません。と言うよりも、ルイ様だけが会得している、という点が肝になります」
?それは、どういうことだ?
「ルイ様の背後には公爵家が控えているので、皇家でさえなかなか手出しできません。私は奴隷ですから、誘拐などに狙われる可能性もありますので。しかも、ルイ様は先程情報を公に開示した以上、罪にも問われません。ですから今後は、ルイ様は魔法界において強い発言力を持てるのです」
そんなものなのか。
「まあ、推測ですけど・・・ですが、必ずルイ様の利益にはなると思います」
なら、良しとしよう。
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