第73話 魔法とは?
「間違っているだと?なんだね、君は・・・ふっ。奴隷に落ちぶれた元伯爵令嬢のレーナくんではないか。で、そんな君が私に文句を?」
「文句ではありません。あくまで指摘です」
明らかに見下した態度を取るアンドレに対して、特に気にした様子のないレーナ。
「指摘、だと?たかだか一学生に過ぎない君が、私のような何十年も魔法を探求してきた者に意見を言うなど馬鹿げているだろ。何?私の考えが間違っているとでも言いたいのかね?」
「ええ、そうです」
アンドレはレーナの返答に顔を顰める。
「本当に言っているのか?だったら正真正銘の馬鹿だな。いいか、魔法学会においても魔法詠唱派が支持されている。魔法は詠唱が長ければ長いほど、より強力な魔法を放てる。それが魔法学術界の常識だ。まぁ、奴隷身分の君には分からないだろうけどね」
「では、教えてください。どうして長い詠唱が必要なんですか?」
レーナは表情を変えずに聞く。
「さっきから言っているだろう!詠唱は魔力から魔法に変える神聖なもの。どんな魔法でも長ければ長いほど威力が上がるのは当然のことだろう」
「ですから、その原理を聞いているのです」
「何!」
なるほど。
確かに、さっきから当たり前当たり前と言っているが、詳しい原理は何も言っていない。
「そ、それはだな・・・君たちにはまだ難しいんだ!」
「いいえ、そうではありません」
レーナは淡々と答える。
「貴方方、詠唱派の言い分は、長ければ長いほど魔力が集まりやすい。魔力がより変換されやすいと仰っているんですよね」
「!あーそうだ」
レーナは続ける。
「ですが、それだと説明がつかないことがあるんですよ」
「何がだ?」
「簡単なことです。どうして変換されるのか?」
「は???」
アンドレが首を傾げた。
「実際には、詠唱の始まり方はいつも全て同じとは限りません。にも関わらず、魔力が魔法へと変換します」
確かにレーナの言う通りだ。
詠唱は、詠文と詠発に分けられる。
詠文は魔力を物質化するものだが、それは常に同じとは限らない。
例えば、別々の詠文にも関わらず変化する物質が同じ場合もあるし、逆に同じ詠文の始まりにも関わらず、別々の物質が作り出されるときもある。
具体的に言うと、『我が元に集い』という始まり方をする魔法がある。この魔法にはいくつかの詠発が存在する。
水魔法の【ウォール・ホリー・グラン】や火魔法の【ファイレス・ホリー・クロス】など。
「これについて、先生はどう説明されますか?」
「そ、それは・・・」
レーナが問い詰める。
「確かに詠唱は大事かもしれません。でも、先生の考えは間違っています。先生は何級まで使えますか?」
「上級と一部の聖級だ!君はどれぐらいなんだ?どうせ中級か―」
「全属性の聖級です」
「「「はぁぁぁ!!!!!」」」
二人のやり取りを聴いていた講義室の全ての生徒が声を上げる。
アンドレも驚きのあまり口をあんぐりと開けてしまう。
「あ、ありえない!君はいくつだ!」
「十三です」
「だとしても、あり得ない!」
「試してみても構いませんよ」
レーナの言葉を疑うアリオスだが、レーナの自信たっぷりな言葉に返しができないでいる。
「だ、誰に教わったんだ?!」
「私の主人、ルイ様です」
!!!
おいおい!勝手に人の名前を出すな!!
「いや、そんなことより、君が聖級を使えるからって何だって言うんだ!」
「私はほとんど全ての詠唱を知っています。その中には上級より短い詠唱にも関わらず、威力が五倍ある魔法もあります」
「・・・・・・」
「恐らくですが、詠唱派の方々の大半は聖級未満しか扱えないのではないでしょうか?」
「うっ」
図星をつかれたのか、アンドレは顔を顰めた。
「聖級では短い詠唱のものがよくあります。ですから、先生の考えは間違っていると思います」
アンドレは何も言えずに押し黙る。
「私が思うに一番重要なのはイメージです」
「なに?イメージだと。まさか君は想像派なのかね?!」
想像派とは魔法学会にある派閥の一つ。
魔法学会の2大派閥が詠唱派と魔法陣派。
詠唱派は、魔法詠唱こそが最も重要だと考える派閥。
他方、魔法陣派は、魔法を発動させたときに出る魔法陣の形こそ重要であると考える派閥だ。
そしてその他にも色々小さな派閥があり、その中に想像派がある。
まぁ、少数派の異端で、ほとんど相手にされていないミニ派閥だ。
「想像派とは少し違いますが、私は似たような考えです」
「はっ、何を言い出すかと思えば、あんな馬鹿共と同じ考えなのか?!」
想像派は、所謂魔法は想像(イメージ)で作り出すという考えだ。
魔法を想像するという抽象的な考えのため、あまり支持されていない。
だが、僕はこの考えに同意する。
なにせ、
「そうでしょうか?魔法をイメージするだけで、無詠唱で魔法を繰り出せるのですから」
「「「は!?!?!?」」」
・・・なんで今それを言うんだよ!レーナ!!
「ですよね、ルイ様?」
しかも、なんでそんなドヤ顔をする!!
こちらを見て笑いかけるレーナ。
ああ、もう仕方ない。
僕は立ち上がった。
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