第72話 初授業
色々あった翌日。
遂に本格的な授業が行われることになる。
馬車で登校してきた僕は、昨日と同じ席に座る。
しばらくしていると、ナータリがヒソヒソと近寄って話しかけてくる。
「ねえ、あんた」
「ルイ様と呼べ」
「嫌よ。それで、あの腰巾着君はどこにいるの?」
無礼な呼び方をやめず、聞いてくる。
「腰巾着?ああ、アルスか。アルスは今僕の仕事をしてくれているよ」
本来であればアルスはこの場にいるはずだが、今隣にいるのはレーナだけ。
実はリーダーという役目は結構雑事が多く、面倒くさいものだ。
僕の副リーダーに当然指名したアルスに、僕の分の仕事をしてもらっている。
「あんた、彼は弟でしょ」
「その前に従者だ」
「はぁ!?イカれた考えだねー。レーナ、あんたもそう思うでしょ?」
隣で静かに読書するレーナに話を振る。
レーナはしばし考え込み、答える。
「まあ、それがルイ様なんで」
「そうだとも」
その答えに呆れたのか、ナータリは何も言わずに席に戻っていった。
「あ、そろそろ時間ですよルイ様」
「教室移動か」
入学初授業が、まさに、異世界学園ピッタリの魔法の授業。
複数クラス合同で大きな講義室で行われるらしい。
僕ら(アルス抜き)は時間に間に合うように教室を出た。
集められた講義室は、大学にあるような階段教室だった。
既に十数人の生徒たちが来ていて、友達同士でおしゃべりをしていた。
僕らは中腹あたりの机に腰掛け、始まるのを待った。
アルスが入室したと同時にチャイムが鳴り、授業が始まる。
「お疲れ様です」
「ええ、まあ大変だったよ」
レーナに答えながらアルスはチラチラとこちらを見てくる。
鬱陶しい!
僕がアルスに一言言おうとした時、教壇の前に立った教師が話し始める。
「え〜諸君。魔法の授業を担当するアンドレだ。よろしく」
クラスの担任、アリオスとは違うねっちこそうな陰湿顔の教師。七三分けの髪型で、目の下には隈ができている。
「この授業を受けていいのは本来魔法の心得のある高貴な者だけだ。遥か昔からある魔法と呼ばれる特別な技法。そう、歴史は―」
話を切り出したかと思うと、何故か魔法史の話をし始めた。
魔法の授業と言っても三つの分野に分かれる。
魔法、魔法史、魔法研究。
魔法は実戦を想定した授業。
魔法史はその名の通り魔法の歴史を勉強する座学だ。
魔法研究も座学に近く、魔法陣の仕組みなどを理解する講義だ。
今日は魔法の授業なので、本来魔法史をここで話す必要は無いのだが・・・
「―――だから、平民や下級貴族がこの授業を受けるだけでありがたいと思うように。では、本題に入っていく」
なるほど、この教師は平民反対派と呼ばれる貴族主義者の人だな。
気が合いそうだから授業が楽しみだ。
「新入生には難しい質問だが、一つ問う。魔法を発動させるために一番大事なものは何だと思う?おい、そこの平民」
「えっ?」
最前列にいたリリスが指される。
「え、え〜っと魔力?」
「そんな事ではない。それは当たり前の話だろ。これだから平民は」
そう罵倒されてリリスはしゅんとなる。
まあ、精霊術士に分かるわけがないか。
「他に、誰かいないか?・・・はぁ〜では答えを言うぞ」
僕?もちろん知っている。
ここはリーダーとして手を挙げようかな〜―――
「魔法に大事なのはずばり、詠唱の長さだ!」
・・・・・・え!?!?!?
「へぇ〜そうなんだ」
「言われてみれば、長いほど威力は高いよな!」
「為になるな」
生徒たちの驚きとざわめきを聞いて、満足そうにうなずくアリオス。
いやいや、ちょっと待て。どういうことだ?
「詠唱は魔力を魔法へと変える。言わば神聖な行為なのだ。遥か昔に神が我々に与えてくださった聖なる術である。詠唱は、長ければ長いほどより高度な魔法陣を組み立てることが可能になる。だから、級が上がれば上がるほど、長い詠文と詠発が必要になってくるのだ」
「なるほど!」
「分かりやすい!」
「為になった!」
そんな声が飛び交う。
だが、僕はツッコみを入れたくなる。
本気でそう言っているのか?
どう考えても違うだろ。馬鹿なのか?嘘を教えようとしているのか?
そんな僕の苛立ちを感じ取ってか、はたまた、ただ単純に間違えを指摘したいのか、正義感からか、レーナが手を挙げた。
「先生、すいません。それって間違っていませんか?」
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